撃ち合い開始!
***
ズキューン!
先輩が軍用ライフルを一発撃ちました。位置はわたしの右側、距離はおおよそ50メートル。もし出て行ったら撃たれるでしょう。
もう位置移動しているはずです。誘いの隙、わたしが動くのを待っているのです。
弾が当たった位置は不明。もし、分かれば先輩の隠れている場所は特定です。先輩は最初から、弾が当たっても分からない、美術品もどきを撃ってるのでしょう。
エリア選びで、ネエネエに騙された! チクショー、心で叫びます。
撃ち合いでは、冷静さが重要です。呼吸を整え、心をクールダウンさせます。
わたしは大きな彫刻の台を背にして、しゃがんでいます。膝の上で、左右対称のエリアマップを開きます。
隠れれる場所が多過ぎです。かといって、動き回り、ネエネエ先輩に見つかれば危険です。
完全にアウウェイ。左右を見れば、近くに窓があります。ブーツの音は消せませんが、窓から外に飛び出ます。
外は駐車場になっています。まばらに止まっている車で、幌つきトラックに駆け寄ります。その先は行き止まり、壁です。
トラックの陰に完全に身を潜めます。足はタイヤで隠れています。たまに幌と運転席の隙間から、美術館の様子を覗きます。
屋内から微かに靴音がします。片目で覗けば、さっきわたしが出た窓から、一瞬だけ先輩が顔を出しました。
わたしはマシンガンを構えて、窓の下辺りの壁に連射しました。
ダダダダ!
マシンガンなら打ち抜けると思ったのですが、効果なしです。位置バレしただけ。マシンガンを、トラックに立てかけます。
拳銃を抜き、身軽になった私は、床を蹴って窓に駆け寄ります。そのまま、両手で構えた拳銃ごと、上半身を窓に突っ込みます。
ネエネエ先輩が身を低くして、片膝を突いてます。視線が交差します!
***
ジュキューン!
ほぼ同時でした。胸に激しい衝撃を受けながらも、わたしはネエネエ先輩の眉間を打ち抜いてました。
〈軍用ライフル側は、拳銃射撃により即死判定〉
コンピューターの合成音がします。ネエネエ先輩は、やられたといった風で、立ち上がります。肩を竦めていました。
「強いんだ」
「いえ、そんなことありません」
ヘヘッ、オメェが弱いんだよ、と、胸の内で唾を吐き捨てました。先輩の顔面は、ヘルメットのフェイスシールドで防護されています。わたしもですが。
銃を立てかけたネエネエ先輩は、ヘルメットを外しています。汗ばんで頬に張り付いた黒髪を、指で弾きます。
あざとい仕草です。
「ねえねえ足音バレ?」
「先輩、僅かに聞こえた気がしました、気のせいかと思ったのですが、賭けに出たんです」
「ナイスショット!」
しっかり聞こえたよ、と、言いたいのですが、先輩なので我慢します。
ネエネエ先輩は、腕を伸ばして、親指を立てています。負けたクセに明るい。
「先輩がわたしの胸を撃ったので、負けた、と思いました」
「頭狙う時間なかったの。防弾チョッキで胴体覆われてるから、即死はまず無理」
〈判定、胸の傷は、防弾チョッキなければ即死)
人工音声うるさい。人間同士の話し合いを質問と受け止めるな。ネエネエ先輩が、腕時計についたリモコンで、音声をオフにしています。