再現ドラマでなく、プレイヤー視点の動画を確認することになりました。課金しまくりです。
「ねえねえ、プレイヤー視点の動画が保存されてる。それをギルド長と、ウェーダさんに見てもらおう」
ウェーダさんって誰だっけ? あっ、タミヤ自動車の植田監督のゲーム内の名前だ。
「いいですよーだ。わたし、やましいことないですぅー」
また、ガラケー型コンソールを出します。わたし視点の動画をガラケーに出します。暗証番号が必要ですが、動揺が少ないのか、さっと頭に浮かびました。ログインした最初から再生できる状態にしました。
ネエネエ先輩もガラケーを用意してます。
ギルド長こと新美先生は頼りない。植田監督の横に、ネエネエ先輩と一緒に立ちます。
「ところで、セバスチャン、再現ドラマの配役で最後だったのは、NPCで一番偉いから?」
「私めは、ギルドにお仕えする者。ギルド所属NPCの上下を決めるのは、ギルドメンバーの皆様です」
わたしは元の席に戻り、セバスチャンを見ながら、今度は炭酸入りのコーラを飲んでいました。
「ねえねえ、五戦だけって言ってたけど、時間大丈夫?」
ネエネエ先輩は、わたしを気にかけてくれてるようです。仲直りしたあとだから、いつもより気を使いすぎるのでしょう。こーいうときは、気楽さに徹します。
「時間は余裕っす」
「立ち直り早い……、う、うん。ギルドメンバーになって欲しい。君には最初からギルド副長をしてもらいたい」
唐突な発言にびっくりしました。声の主はギルド長の新美先生です。空になったビールジョッキを、美人メイドさんに渡しています。メイドさんの胸に腕が伸びましたが、わたしのきっと睨む視線に怖気づいたのか、手を引っ込めます。唇の泡をメイドさんがハンカチみたいなで、拭いてます。
大の大人なのにだらしない。辞退しろよ。赤ちゃんか。
「新美先生以外、ここにいる人みんなギルド副長じゃないですか?」
「そうだよ。最近21歳以上サーバー、過疎ってるんだよね。プレイヤー減ったんです。うちのギルド、メンバーどどん減っているんです。ギルドレベルは最高レベルなので、ギルド副長の人数に制限ないんです」
うーん、ギルド副長になれば、それなりの頻度で21歳以上サーバーにログインすることになります。
中学のとき、クラスで理科委員のなり手がいなくて、クラス委員から名前だけで良いから、と言われました。
結局、理科委員の仕事多くて大変でした。担任に相談したら、引き受けたからには、しっかりやりなさい、です。押し付けられた仕事であっても、やり遂げれば、人からの信用になりますが、正解な気がします。
理科委員は毎日、交代で放課後理科室に行きます。戸締りの他にガスと水道が閉まっているかを確認するんです。事故があってはいけないので、三人以上でする規則でした。
十個くらいの水道の蛇口とガスのつまみのチェックは面倒だし、夏は理科室、冷房入ってなくて暑かったです。
「ギルド副長の仕事内容はどうなっているのですか?」
「現在は全くない。過疎ってるから、することがないんだよ」
「もしかして、今ギルドメンバーってここにいるだけとか」
「そうです。ですが、もう一人勧誘してはありますね。しいてギルド副長の仕事をお願いすれば、新しいギルドメンバーを勧誘して欲しいです」
ネエネエ先輩を変質者扱いした。ネエネエ先輩が過疎ってるギルドの副長をしているなら、手伝いたかったのです。
「ねえねえ、私と一緒に勧誘しようよ」
「ギルド副長します、いえ、させてください」
新美先生が卓上コンソールを押しました。わたしの頭上に“ギルド副長”と肩書が日本語で表示されます。
「新美先生でなくて、ギルド長に質問があります。今夜のギルド戦は、十五人くらいは必要なはずですが、どうするんですか?」
「ギルドのNPCにも参加してもらいます」
まあ、このギルドならNPCさんのスキルやレベル課金しまくって高そうだから、いいか。セバスチャンに声をかけます。
「セバスチャン。わたしより強いNPCうちのギルドにいるの? セバスチャンならわたしより強そう」
「新副長様の足元にも及びません」
「でも、さっきのわたしと先輩がモデルのフィクションドラマじゃなくて、再現ドラマで装備、わたしたちと変わらなかったじゃん」
「あれは、撮影用の小道具です」
あー、頭がこんがらがってくる。誰か分かりやすくまとめて欲しいです。
「つまりだね、ギルド長も私達もレベルマックスなんだよ。50レベルだね。セバスチャンはギルドNPCとしてマックスの40レベル、メイドさん三人組はそれぞれ30レベル、門番NPCは20レベル」
『共トレ』では、レベルは強さのおおよその目安となります。あとは装備、スキル、そして、プレイヤーとしての知識や練習の積み重ねです。
同じレベル、装備、スキルだとしても、プレイヤーによって強さに差が出ます。だから、母のようなeスポーツの習い事として先生が成り立つのです。
「ねえねえ、勧誘行きましょう」
ネエネエ先輩が飲み干したグラスを楕円卓に置きました。新美先生が、裾を上げて腕時計見ます。
「ギルド戦まであと十分くらいしかないから、ここにいて欲しいです」
がっかりです。
「新美先生、すみませんギルド長」
天使のような優しいネエネエ先輩が、頼りない新美先生、を現実ネームで呼んでしまいました。
「だから、ここでは名前ださないの。いえ、言い過ぎました。ニーミと呼んでください」
「すみませんでした。ニーミギルド長、先ほどの再現ドラマ映像ですが、ネットに流出することありませんか?」
あり得る。だって、インターネットで動画検索すれば、プレイ動画やドラマみたいなの、見つかる。わたしが割って入ります。
「ねえ、ニーミ、ニーミ、記録保管で、少なくとも12ケタのパスワードを二重に、かけておいてください」
「あのなー、いえ、さすがに呼び捨てでは、ちょっと気になります」
またしちゃった。天使ネエネエ先輩の呼び方に合わせれば、問題なかった。天使のような先輩のモノマネをするべきでした。がくりとうな垂れます。
「怒ってねーよ。何重にもパスワードかけますって」
怒ってなかったら、『怒ってませんよ』って、言わないじゃないですか?
「やけに下を見ていたりするので、落ち込んでいるのかなって思ったんす。」
きりっと表情を整えながら、ニーミギルド長を見ます。
「睨まなくてもいいだろう、いいでしょう」
顔の皮膚が突っ張りすぎました。お肌に合わない石鹸で顔を洗ったみたいです。ニーミギルド長の目も鋭くなってます。目を見て話せと、中学の先生で誰かが行っていたので、ニーミギルド長の瞳をじっと見ます。
ニーミギルド長は視線を逸らしました。ビールで顔を赤らめて、だらしな片側に体を傾かせながら、椅子に座ってます。
メッチャ浅く腰かけて、背中側に透明なクッションが入っているかのようです。
「ニーミギルド長。ギルドメンバーには見れるんじゃないですか?」
「うーんうーん」
酔っ払えないはずなのに、唸り声を出して、天井をぼんやり眺めています。
「持ち出し可能で御座います」
壁際で立つ、セバスチャンが教えてくれました。また、高校の入学式に、来賓をマイクの前で、紹介する教頭先生のように、恭しく例の運営さんが用意したような紙を出します。
ニーミギルド長に喉アメを出せば良いのに。白い手袋で、紙を広げて読み上げます。
「恐れながら申し上げます。不遜ながら、天上界のお言葉をそのまま読み上げさせて頂きます。同じギルドのメンバー様は、動画記録のダウンロードは自由です。なお、再現ドラマのDVDをご希望の場合は、21歳以上サーバー公式ホームページの、購入をクリックしてください。今なら特典として、拳銃、ワラサーP39を差し上げます、銃のカラーリングは黒とスノーホワイトを選べます。マスコットキャラはワラサークンです」
ワラサーP39欲しい。『共トレ』に登場する架空の国、ワーラリア帝国です。ヨーロッパの某国に似ていると、一部では言われています。
ワーラリア帝国軍が、一九三九年に正式採用した拳銃の名前です。雪や山間部も多い国です。首都はベルランです。
『共トレ』では男性プレイヤーには一番人気の国のはずです。女性プレイヤーで、国籍をワーラリア帝国にする人少ないみたいです。
やはり、女性に人気があるのは、アメリア合衆共和国です。戦闘服はどこの国も似たり寄ったりです。ですが、ベレーや、ネクタイスタイルの制服がおしゃれで良いです。
ちなみに、国籍変更は課金すればノーペナルティーで行えます。銃も装備も国に限らず、どれでも使用できるので、現実世界と同じく、国籍の意味は薄いです。
二十一世紀の半ばになって、日本に住んでる人も多国籍です。祖父が子供の頃は、日本では外国人の方が珍しかったそうです。
天井を見上げながら、考えていました。
どうして祖父を思い出したんだろう。
「本来ならば、GM自らが出席してご説明するところ、急用のため、私めが代読させていただきます」
セバスチャンが、高校の入学式で、来賓として来てくれた市長さんの代理を務める、市会議員さんのようです。身内だから、GMって呼び捨てです。
「ご購入初回特典として、撃ち合いなどのシャワーや更衣室での再現映像は…・」
「セバスチャン絶対嫌です!」
大声で立ち上がるネエネエ先輩。椅子の下にバネがあり、体が跳ね飛ばされたかのようです。そもそも、シャワーや更衣室行ってない。また、ありもしないフェイク映像を作るのか。
「再現される側のプレイヤー様、ご本人の承諾があった場合に限られます」
紛らわしい。そっちを先に運営さんは、書いて欲しいです。大事なことを最後に書くか、最初に書くか、長い文章は、最初しか読まない人もいます。わたしは最後の小さな文字から、読みよう、両親からしつけられました。セバスチャンが頃合を見計らって、言葉を続けます。
「これは最後になります。21歳以上サーバーに限ってのことですが」
セバスチャン、一字一句読んで、やっぱり、市長さんの代理の市議さんみたい。
雑念を消しながら、固唾を呑んで、耳を済ませます。目を少し閉じてしまいました。思い出しました。
同じ学年で、きょうだいか、姉妹が別の高校の在校生がいたんです。市長さん、ほかの高校の入学式にし出席していたそうです。美人メイドで、わたし役をしたモニカさん? セバスチャンに近寄り、メモをすっと差し出します。セバスチャンはメモを一瞥しました。
「失礼しました。少々お待ち下さい」
メイドさんとセバスチャンは二人で、目配せしたり、唇を動かしています。聞き耳を立てますが、内容は聞き取れません。セバスチャンの涼しい顔は、大事そうなことあったと予感させます。
「あとはメイドのモニカより、ご説明申し上げます」
ほかの高校で挨拶終って、急いでやって来た市長さんと代理の市議さんが、交代するかのようです。
モニカさんは、凜と済ましています。片手を挙げ指をぴん立てる指は、顔の横で、掲げているみたいです。
「みなさん、21歳以上ですから申し上げますが、ご本人の同意があった場合は、ピンク色な展開のドラマ映像も作れます」




