再現ドラマは出演者が少なく、かなり運営寄りに美化されていました。
ところが、わたし役は違いました。大げさに深呼吸しています。情けないです。
一分三十秒程度のオープニングが終りました。わたしは、自分役の行動に不満があり、手で頭の後ろを触って、背もたれを軋ませていました。
わたしの頬の皮膚が怒りの熱を持ちます。
モニターでは、再現ドラマの提供クレジットが出ます。
「この再現ドラマは、地球共同軍プラトニック21歳以上運営サーバーのほか、ご覧のスポンサーの提供でお送りします」
21歳以上日本語サーバー・ギルド『カサカー』ギルドロゴが一瞬、表示されます。エンブレムまであります。聞いた名前です。このギルドです。
セバスチャンは、和やかな声色です。このギルド“カサカー”は、ほかかよ。
しかし、ナレーションはなくても、提供がタミヤ自動車撃ち合い部、植田監督が、ギルド副長をする“カサカー”なのです。
「素晴らしいオープニング。えー、わたしあんな美人じゃないです。美しいメイドさんが、わたしを演じてくれて気恥ずかしいです」
時限爆弾程度で、あんなに焦るほどビギナーじゃねーよ、と思っても、ぐいっと本音は飲み干しました。
「ねえねえ、オープンニングは完全なイメージ映像だから、私のセクハラ疑惑と関係ないです」
ネエネエ先輩は、私の意見を否定するようなトゲのある口調です。わたしと全く視線を合わせず、モニターを見ています。咳払いをして、セバスチャンが渋い声を発します。
「不詳セバスチャンがナレーションを務めさせていただきます。CMに入る前に……」
セバスチャンが内ポケットから、折り目がない表彰状のような用紙を取り出します。
「天上人の方々にしかご理解できない言葉で御座いますが、恐れ多いことながら、読み上げさせていただきます」
「はいはい、どうぞ」
新美先生こと、ギルド長が気だるそうに、目一杯薄茶色の液体が注がれた、ビールジョッキから口を離します。唇の泡を手の甲で拭ってます。
対照的に、セバスチャンは中学の卒業式で卒業証書を読み上げる、校長先生のような硬さです。
白い手袋をして、指に力入りすぎて、紙破れれば笑えるのに。
「申し上げます。『CMをスキップさせるには、課金してください』で御座います」
新美先生こと、ギルド長が、卓上コンソールを押しました。課金され、始まった『共トレ』の21歳以上サーバー専用、拡張パケージのCMは、途中で終りました。
拡張パケージのCM見たかった。
***
モニターでは、再現ドラマの本編が始まりました。セバスチャンは、多少緊張が解けた声。ううん美声で、ナレーションをしています。ギルド長室にいるプレイヤー全員の視線は、モニターへ注がれます。
ここは『地球共同軍プラトニック』の世界である。略して『共トニック』や『共トレ』とも呼ばれている世界。本再現ドラマ内では、『共トレ』で統一する。
今宵も、21歳以上日本語サーバーにログインした二人の美女がいた。
夜でも、街頭や店の四角い窓から放たれる光で、煌々と路上は照らされていた。非常に治安が良く、夜、女性も男性も一人歩きしても安心だ。
歩道ではマシンガンを背に、Tシャツに青デニムの美人が、『共トレ』で知り合った、親友を待っていた。一人佇んで、汚れ一つない白く輝く建物の壁に背中を預ける。
「ねえねえ、待たせてゴメンね」
声の主は、肩から軍用ライフルを提げた美女であった。軽く片手を上げて漠迷彩服姿でも分かる、整ったプロポーション美女だ。体重を感じさせないような、軽い足取りで近寄る。
Tシャツ姿の美女は頬を綻ばしながら、若々しい瞳には、軍用ライフルの美女が映り込んでいた。
「こんばんは、合言葉を確認しましょう」
「違うわ!」
やべぇ、言葉に出ちゃった。急いで手で口を押さえて、新美先生と、植田監督の顔を見ます。わたしの発言には、驚いていないようです。安心しました。わたしはセバスチャンに、小さい子を、嗜めるような、優しい声を作ります。
「美化されて、嬉しいな。でもかなり違うよ。合言葉をいきなり言ったのは先輩です」
モニターの横に立つ、セバスチャンは、片耳にイヤホンマイクを、アメリカ大統領のSPみたいつけています。かなり格好良いです。
「申し訳御座いません。ギルドのデーター保管庫に記録として残るので、配慮させていただきましたが、至らぬ点がありました」
頭を下げながら、セバスチャンは、モニターに映る再現ドラマを一時停止しています。
「ねえねえ、どっちが先に合言葉を言ったか、どうでもいいこと。セバスチャン止めないで続けて」
横目で窺えば、ネエネエ先輩が、わたしに不満そうに唇を尖らしています。新美先生も植田監督も、表情がその通り、と言っています。ここはわたしも、同意します。
「セバスチャンゴメンね、わたしが細かいよね。わたし、繊細過ぎって言われる注意します」
「それでは、再現ドラマを続けさせていただきます」
即興で作ったを通り越して、AIがごく僅かな時間で、オープニングや再現ドラマを作ったみたいです。『共トレ』21歳以上サーバー内AIソフトの性能恐るべし。
***
スタイルの良い、美女二人が並んで仲良さそうに、繁華街を歩いています。高身長の美人メイドさんが、ネエネエ先輩役。わたし役のメイドさんは、ネエネエ先輩より、やや小柄な、かわいい方です。
オープニングと同じメイドさんが、演じてくれて良かったです。オープニングと本編で役者さんが変わったら、軽くオープニング詐欺です。
再現ドラマを作成した、AIソフトの思考法、変です。人に例えるなら、関わりたくない人の部類に入るでしょう。
繁華街で横を通ったり、かなり背後で、輪になって話す人々は全員笑顔です。セバスチャンのナレーションが入ります。
「こうして健全かつ安全で活気がある繁華街で、再会を果たした二人の美女。しかし、Tシャツ姿の美女は、迷彩服を求めていた。あえて、一人は砂漠での撃ち合いを求めるような、ファッション。もう一人は、海辺の撃ち合いで動きやすい、ファッションをしていた。迷彩服を求めて、安心な夜道を歩く」
エキストラさん、顔を良く見れば、どこかで会った顔です。服装は違いますが、NPC門番です。画面が切り替わる度に、服装を変えたり、サングラスをして、遠巻きにわたしたち役のメイドさんの背景のように、演技しています。
わたし役のかわいいメイドさんが、ネエネエ先輩と肩を並べ手を軽く繋ぎながら、歩いています。画面では、わたし役の顔がアップになります。
「運営さんのお店で買うか、広場でほかのプレイヤーさんから買うか、選べるんですよね。『共トレ』はとてもプレイヤーの選択肢が多くて嬉しいな、大学で主席のわたしでも迷っちゃう」
大学生じゃねー。高校1年の16歳だ。仮に勉強得意でも、自分からひけらかさねーよ。自分の本音を封じるべく、コーラのグラスを手にして、ストローをぎゅっとかみ締めます。
わたし役、かわいさアピールしてる。あざとく、胸の前で両手の指をくねくねさせ、首を傾けています。
ネエネエ先輩役の顔がアップになりました。ストローを噛み千切りそうになります。
「ねえねえ、広場に行ってみない? 露店をしているプレイヤーさん、みんな優しいよ。この時間なら、確か、わたしのお友だちがお店を出してるはず」
頬に触れた髪を直しながら、手首の腕時計に目線を下ろします。カメラの視線は、ただ、胸の膨らみと、ウエストのくびれを追っているみたいです。
カメラエロい、ざまーみろですが、セバスチャンのナレーションが入ります。




