タミヤ自動車撃ち合い部の植田監督と、仲良くしたいです
ハンガーの上にサイズ小さく書いてあります。わたしは灰色の都市用、迷彩服を手に取ります。チャイナドレス、バニーガールさんの衣装。メイドさんのフリフリドレスまであります。
ギルド長室には、洋服店のような試着室がありますが、数人は入れそうなくらい大きいです。
試着室でカーテンを閉めます。遠くで、無口ならイケメン先生の声が聞こえます。
「21歳以上サーバーにログインしようとしたら、利用規約が変わってましたね」
カーテン越しに、ネエネエ変態先輩の取り澄ました声もします。
「はい、運営さんが30日以上前に予告した場合、サービスを終了できる、と追記がありました」
「嫌な予感もします」
男どもわたしが着替えているんです。遠慮して、ほかの部屋へ行っててください。ネエネエ先輩、会話の相手などせず、男どもを追い払って欲しいです。取り入りたいんでしょうが、ヤダな。
「嫌な予感がするな、もともとこのサーバーは、「共トレ」を運営する各社でも、運営さんの評判が、芳しくないんだよ」
植田監督の声もします。Tシャツとデニムの短パンを脱ぐのは面倒です。下駄は簡単です。衣擦れの音を出しながら、迷彩ズボンを履きます。迷彩服に袖を通します。
最後に編上靴と呼ばれる、登山靴みたいなブーツを履きます。
装備の上に装備をすれば、下駄は勝手に溶け込むのです。あとで、迷彩服一式を脱いだら、緑のTシャツに、青デニム短パン、下駄になります。
ブラッシングして、髪を整えながら、凄く大きな姿見? 洋風な鏡を覗き込みます。
さーっとカーテンレールの音を立てながら、ブーツを履いたまま、ギルド長室の床に立ちます。
「うんうん決ってる、さすがー」
ネエネエ先輩が、わたしにヘルメットを被せて、ボディーアーマー、通称、防弾チョッキを着せます。感情が全然こもってない声でムカツきます。
ゲームなので重くはありません。太ももに拳銃を吊るし、上衣のポケットにナイフをしまいます。
マシンガンを片手に提げながら、植田監督に近寄ります。
「試合準備完了しました」
素早く、そして軽やかに頭を下げてから、気をつけをします。
***
「ギルド長として全員聞いて欲しい」
〈はい!〉
新美先生が、立派な会議室にあるような、楕円形の卓の奥に陣取ってます。真ん中に穴があり、ドーナツのような形をしています。わたしは目の前にあるテーブルを、楕円卓と名づけました。
楕円卓を囲む、全員が撃ち合い準備、完了してます。
その脇には、植田監督。かなり離れれた下座、扉に近い席に、ネエネエ先輩。わたしはその横で、一番下座の席です。
席が多く空いているのですが、生徒なので遠慮しました。高校の会議などで教室を使って、ガラガラでも、生徒は後ろの席から座るものです。
教卓に立つ先生が、前に集まるよう、促さない限りです。中学のとき、理科委員でした。理科委員の会議で、誰も先生の前に座らず、先生が気の毒でした。
ほかの理科委員が全員後ろに座っていたんです。促されなかったのに、わたしは、教卓を目の前にする席にいました。勉強疲れがたたり、途中で睡魔に襲われ、寝ていたら先生に叱られました。先生近くの席は損です。
自宅なら机で寝ていたら、母は無理してないか心配してくれるのに、学校で机で寝ていたら、一部の先生は無理させます。
フードコートで例えるなら、朝早くか夜遅くです。お店が一店しか開いているだけです。奥と出入り口付近にしか、人がいない状態です。
「メモ取ってもよろしいでしょうか?」
「え? うん、許可します」
エロネエネエ先輩は、真顔で紙の手帳を取り出して、開いています。わたしは、ガラケー型コンソールを手にして、メモ帳機能を、既に使っています。遠慮など不要。わたしは、そもそもギルドメンバーじゃないのです。ここのゲストなんです。
新美先生が、楕円卓の上で肘を突き、指を絡めています。ギルド長の偉そうな雰囲気は伝わります。
「わがギルドにギルド戦を申し込んできた、愚かなギルドがある」
ギルド戦システムある多人数参加ゲームなら、『共トレ』に限らず、フツーじゃん。タミヤ自動車の植田監督いらっしゃるので、声にしません。
「わがギルド“カサカー”は、この21歳以上サーバーで自由を守るのが役目だ。ギルド周辺では、プレイヤーが自由にゲームをして、その代わり、守り料をいただいている。いわば警備業ギルドだ」
広場の怖いお姉さんが、ネエネエ先輩にビビッてた理由分かりました。ゲーム内では、警察が存在しないのです。
「しかし、それを良く思わないギルドもある」
ゲームの楽しみ方は、人それぞれ。放っておけば良いような気がします。ネエネエ先輩に、顔を向けました。
「ネエネエ先輩」
「どうしたのー? ギルド長が話している最中だよ」
うっかり、ネエネエ先輩と声になりました。先輩は目が三角形になっています。
「言いたいことがあるのかね? 発言を許可する」
新美先生、ギルド長になりきってるなー。立ち上がり発言します。
「先生、放っておけば良いと思います」
「ギルド長か3佐と呼び給え」
新美先生の頭上には、“ニーミ 3佐”と、文字が空中に浮かんでいます。同じように、植田監督は“ウェーダ 1射”。ネエネエ先輩は”風音 2射です。3佐、1尉、2尉どれも自衛隊の階級で、『共トレ』では、経験値を溜めればなれます。つまり、レベルです。はっきりいって、弱くても、多くゲームこなせば、階級は上がります。そして、膨大な時間を費やします。
短いプレイ時間で経験値を溜めるには、母のようなFPSのコーチに習うのが手っ取り早いでしょう。
レベル名が日本風階級ですが、撃ち合い前に、警告や威嚇発砲は完全不要です。やはり、現実で銃がフリーダムな、アメリカにサーバーがあるからでしょう。
「3佐、話し合いで解決や、放っておけないのですか?」
「彼、彼女らとの共存共栄は無理だ。ヤツらは、サーバー内での犯罪行為は、個人の自由に任せれば良い、正当防衛で対応と考えている。その結果、プレイヤー同士が仲違いをしても放置だ。我々は、ある程度までの、犯罪を認めることによってストレスフリーでゲームを楽しむ。度を越したら、ギルドメンバーで懲らしめる方針だ。プレイヤーは、現実では、言いたいことも言えない社会人だ。せめて『共トレ』21歳以上サーバーでは、のびのび楽しんでゲームしたいだろう?」
ゲーム内でも話長いよ。キャラクターになっても、中の人の欠点や長所変わらない。ネエネエ先輩に、視線でうっかり助けを求めます。三行でまとめてくださいよー。
ネエネエ先輩は、コホンとかわいらしく、小さな咳払いをしました。座ったまま、小さな子を叱る保育士の先生みたいに、わたしに話します。
「サーバーの有力ギルド同士の撃ち合いなの。ギルド戦のもっともらしい理由が欲しい。プレイ動画に残る。話し合ってら撃ち合いできない。格好が良く見せたい。ねえねえ、分かりましたかぁー?」
「うわ、先輩賢い! ありがとうございました」
教えてくれたのは、ギルドやプレイヤーとしてのメンツのつもりですか。わたしのギルドでないので関係ないのに。
高校の武道場で柔道の練習をしている生徒を、喧嘩と間違えて止めに入った気分です。わたしは席に腰を下ろします。
変質者先輩は、最低でも退学、最高でも退学にして欲しいです。警察には基本通報しないつもりです。学校名が出たら、そんなガラ悪い学校に生徒を送れるかー、と中学の先生が思うでしょう。
後輩でガラ悪いのを、狙って入ってくるヤツがいたら、面倒臭い!
被害生徒の強い要望として、学校名が出ないので、学校としてもありがたいでしょう。




