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室内のイニシアチブを奪取に成功!

 ドアを開きながら、見たことある顔の男性が入って来ます。新美先生のプレイ動画で出てきた植田さんです。顔は同じです。全サーバー同じ顔にしているのでしょうか。それとも、課金せず素顔なのか、知らないので分かりません。

「何だよ。犯人、植田だったのか、いやー、疑った上に怒って、すみませんでした」

 謝れ! もっと謝れ! 床にひれ伏して、自らの体を鞭で打て! そして、お許しをー、と叫べ。心で思うだけです。

 深く新美先生は、わたしに頭を垂れます。ネエネエ先輩は、少し拗ねたような表情になってから、視線を落としています。ネエネエ色好き先輩が、上げた顔は口の端が上がってます。

「え、気にしてません。ねえねえ、怒っていたなんて、全然気づかなかったよね?」

 わたしに視線で、同意を求めています。

「はい」

 現実では、先輩の発言を否定すれば、後輩として立場が危ういのです。うっかり、肯定してしまいました。わたしは、流されやすく、押しに弱い性格のようです。しかし、新美先生と植田さんに、貸しを作っておくのも、悪くないでしょう。

 退学になるであろう、変態ネエネエ先輩の本性は、新美先生と植田さんに、知らせないと。

「新美先生の友人で、植田と言います。私の悪ふざけのせいです。新美先生の生徒の方に、お詫びします」

 植田さんも、深く頭を下げています。この場の主導権は、わたしとネエネエ先輩が握りました。

「植田さんのせいで、わたし、あの警備兵NPCから、とっても嫌な思いしたんです。ギルドの名をかたった、いかがわしいお店かと思って、しかも無人のベッドのある部屋に連れ込まれました。もう少しでGMコールで現実の警察へ通報してもらうところでした。謝ってすむと思っているんですか?」

「すみませんでした」

 植田さんは、頭を下げっぱなしです。わたしは腰に両手を添えていました。ネエネエ先輩が、ちょっとちょっと、と言うので、少し離れた部屋の隅までついて行きます。

「トイレいいの?」

「ログアウトする口実です。でも、先輩が誰もいないギルド長室に、誘ったのは悪質な行為です」

 ネエネエ先輩は、しまったと言いたげに、口元を両手で押さえています。現実のわたしの体が、寝たまま、漏らしたと勘違しているようです。

「だからですね、密室に二人きりは誤解を招きます。少し扉を開けて置くとかしてください。襲われると確証を持ちました」

「襲いません! わ、私をそんな風に思っていたの?! そうですか、そうなんですか! 誤解与えた私が悪いんですか? それなら、ごめんなさいです! でも、現実でも、部屋で二人きりだから、気にしてないと思ったんだ。これからがあれば気をつける!」

「現実は防犯上の理由です。しかし、言い過ぎでしたら、すみません!」

 下げたくない頭を下げます。カランコロンと下駄を鳴らして、頭を上げた植田さんに近寄ります。

「植田さん、無口ならイケ、じゃなかった。新美先生のプレイ動画で拝見しました。今はもしかして、eスポーツのプロですか?」

 プロの場合、顔を課金せず、素顔のプレイヤーもいるからです。

「プロではありませんね。タミヤ自動車に勤めてます」

 プロでなければ強く出ます。

「大の大人が、あんな下品な性格設定のNPC作って、恥ずかしくないんですか」

「言い訳できません、すみませんでした」

「タミヤ自動車で何をしているんですか?」

 タミヤ自動車のコンプライアンス部門に、匿名で電話してやろうか。わたしの祖父は、タミヤ自動車の車に乗ってます。ディーラーさんの、祖父担当知ってるぞ。

「撃ち合い部の監督をしています」

 タミヤ自動車の若くて、ゲーム好きな一社員と思ってた。有名企業の撃ち合い部監督! 植田監督に気にいられれば、あるいは、弱みを握れば。わたしがタミヤ自動車の就職試験を受けたら、その際、一推し、してくれるかも。

 撃ち合い部の選手兼正社員として、採用されるかもです。

 世界企業のタミヤ自動車に入れば、パチンコ屋さんに行こうとする祖父に、「お父さんやお母さんには内緒だよ」とか。お小遣いを上げれる立場になります。

 タミヤ自動車のエンブレムを輝かした車を、祖父が笑顔で運転して出発する。それを、孫のわたしが見送る。タミヤ自動車のCMみたいな光景が脳裏を掠めました。

 ネエネエ変態先輩でさえ、植田監督に下手なのが、よく分かりました。わたしは、胸の前で軽く指を絡めて、笑顔を作ります。

 この仕草で、女子力アップしてることでしょう。

「すみません、植田監督。セミプロっておっしゃってくれれば良かったのに。年上の方なのに、ゲーム内でアバターがお若いので、うっかり言い過ぎました。21歳以上サーバーなんですから、あんなこといっくらでも、あるあるですよねー! 年上の方に高校生のくせに、キツい口調を使うなど、生意気でとんでもないことです。すみませんでした」

 頭を下げます。絶対、好印象を与えたでしょう。

「21歳以上サーバーだと、おかしな店やギルド本当にあるからね、疑ってかかるのが当然だよ。言い過ぎとは思わないですね。植田は、自分からセミプロって、ひけらかさないよ。ここは、互いに握手をしてノーサイドにしましょう」

 口を挟んだのは、無口ならイケメン先生でした。

 無口ならイケメン先生、植田監督、ネエネエ先輩、わたしの四人。代わる代わる握手です。

 わたしは、性的犯罪未遂のネエネエとキツく握手をして、激しい視線が交差しました。全然ノーサイドでないです。変質者は許せない。

 わたしから、自分の迷彩服について、「ください」とは、切り出しません。植田監督からプレゼントされたら、貸しが減る恐れがあるからです。

 無口ならイケメン先生が、わたしのTシャツと青いデニムの短パン、そして、下駄を気にかけてます。壁際のクローゼットから、透明なビニールが被った新品の迷彩服を手にしてます。

 植田さん、でなくて植田監督は、申し訳なさそうな面持ちです。

 撃ち合いならぬ、謝り合いは、もう終わりにして欲しいです。あとはエロネエネエ先輩の退学処分のみです。さっきの握手は、植田監督と新美先生を、立ててしただけです。

「お詫びといっては何だけど、私が戦闘服を用意しようか」

「新美先生がくださると、退学予定の先輩から聞いているので、お気持ちだけ、いただいておきます」

 体の前で手を重ねて、軽く頭を下ろします。重ねた両手が反射的に、揉み手になりそうです。

「戦闘服、どれにしますか?」

 新美先生の声がします。口の前で軽くて手を当てながら、植田監督に、おべっかいを使います。

「タミヤ自動車撃ち合い部のプレイ動画は、いつも見ています。うますぎて参考にならない、いえ、わたしでは、足元に及ばないです」

「そのマシンガンを見れば、お強いって分かります」

「いえいえ、うちのマシンガンなど、植田監督のライフルに比べれば、メンテナンス費用が高くて」

「あの、すみません、迷彩服好きなの選んで欲しいんですが?」

「ねえねえ、新美先生呼んでるよ。ねえねえ全部、こっちは聞こえてるよ。退学って誰がするの? そっちも聞こえてるでしょう」

 新美先生が、クローゼットを開いて立ち尽くしています。エロネエネエ先輩が、わたしの腕を握って、クローゼット前まで、聞き分けの悪い子どものような扱いをして、引きずります。

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