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ゲーム内でセクハラされたので、21歳以上サーバーのGMさんに助けを求めました。

 メールが受信されました。受信ボックスで運営さんからのメールを開きます。

「その暗証番号を入力してください」

 ネエネエ先輩がガラケーを差し出すので、手近にあった花瓶台の上に置きます。12桁の暗証番号を入力しました。ログアウトを選択して押しますが、“暗証番号が違います”と表示されます。

「暗証番号が違いますって出て、ログアウトできません」

「入力された12桁の暗証番号が正しいか、確認してください」

 12桁の番号は、数字だけでなくアルファベットも混ざっています。一字一句確認しました。

 やっぱりログアウトできません。

「念のため、お送りした12ケタの暗証番号の下2桁を、読み上げてください」

「p1《ピーイチ》です」

「お送りした暗証番号は正しいですよー。ガラケーに打ち込んでください」

 運営さんの声は、苛立ちを隠し、冷静さを保とうと心がけてる大人のようです。

「さっき変な人に絡まれました、ログアウトできませんか?」

「利用規約にもあるように、プレイヤーさま同士のトラブルには、わたくしども運営は一切関知しません」

「強制ログアウトしたいんです」

「サーバーに負荷がかかるため、緊急時以外はご遠慮ください」

「トイレなので、赤い強制ログアウトボタン押しても、ペナルティないですよね?」

「お調べするので、少々お待ちください」

 ネエネエ先輩は、心配そうに眉を寄せながら、さらさらな前髪をかきあげています。マジな意味でドSだ。

「先輩何ですか?」

「ねえねえ、強制ログアウトしちゃったら?」

 さーっと冷たいモノが背中に流れた気がします。先にトイレを済まさせておいて、不正ツールで強制ログインさせて後でじっくり……、想像して身をよじります。

 ケーブルテレビのお色気番組で、見たことあります。先輩は女王さまで、わたしを、い、いたぶる、つもりなのでしょう。

「マシンガンなら差し上げますから、どうか、ここから出してください」

 ガラケーに話していました。

「はぁ、マシンガン? GMタネガシマです、お客さまが、強制ログアウトボタンを押した記録は、ありません」

「全然違うってば、ドヤ顔してて、ガチでヤバいんです」

「暗証番号間違えているのでは、ありませんか。電話を切らせていただいきます」

「あ、待って」

 ツー、ツーとガラケーから音がして、GMコールは、切れてしまいました。塩対応なGMタネガシマ、名前を記憶に刻みます。

「先輩、こうなったら止むを得ません」

「え?」

 わたしはガラケーを、親指で手早く操作できました。ほかのプレイヤーを不快にさせるID名や、アイコンは強制的にログアウトされます。IDを変えるには、パスワードが必要です。ですがアイコンを表示には不用です。

 わたしは、ガラケーでアイコンを選び、わいせつなワードを自分の頭上に表示させます。マンガのふきだしのように、わいせつなワードが浮かび上がっていました。

 思いつく限りのわいせつなワードが、頭上で多く七色に、きらきら輝いています。意味が分からないのも、多々あります。

「ねえねえ、そういうのは止めてよ」

 先輩は目をしかめて、首を横に振りました。揺れた髪から、トリートメントの甘い香りが、媚薬のように漂います。鞭のあとは飴ですか。誘惑するつもり? でも、わたしは服従しない!

「先輩これでお別れです」

「行っておいでよ」

 わたしは自分の唇の端が、吊り上がっています。

「卑猥なアイコンを表示してたら、強制ログアウト、いわゆるBANバンされます」

 BANバンとは、運営さんが規約違反の迷惑プレイヤーを、強制的に接続を切ることを、プレイヤーがそう呼んでるんです。

「ほかのプレイヤーに通報されないと無理だよ」

 わたしは、両手で頭を抱えます。エロ変質者のネエネエ先輩以外、この部屋にいないのです。

 その瞬間、わたしの背後で扉が開きました。男の両手が扉を押し開けます。


***


「待たせてごめんね。前の撃ち合い戦が長引いちゃってさ」

 撃ち合い部顧問、新美先生の声です。まさか、無口ならイケメン先生が、白馬の王子になるとは、思っていませんでした。

 顔は課金して、よりイケメンになっています。無口ならイケメン先生に、背中から抱きつきます。

「はなれて、ほかのプレイヤーに見られて誤解されたら困ります」

「先生、変な人に絡まれてたんです」

「変な人、侵入者ですか、どこですか?」 

 新美先生の表情が険しくなります。ライフルを構えながら、腰を低くします。いきなり、手近にあったテーブルを蹴ります。盾代わりになったテーブルに、わたしを隠します。室内を警戒し始めましたが、ネエネエ先輩こと、変質者は華麗にスルーです。

 わたしも、武装していたことを思い出します。マシンガンを肩からスリングで下げながら、新美先生のバックアップに回ります。

「どこだ、出てこい!」

 震える声で、新美先生に、ささやきます。

「先輩です、このサーバーでわいせつな行為や淫らな行為の女王さまをしてるんです。このギルドに見せかけた秘密のお店で、わたしを……」

「え、え、いつもより、ジョークきつくない?」

「ふざけないでください、びっくりしましたよ。ここは私が管理する、ギルドです。それよりこれは何ですか」

 新美先生は、わたしの頭上に煌びやかに輝く、卑猥な単語を指差します。

「強制ログアウトをされようと思って、卑猥なアイコンを表示しました」

「わがギルドの恥です。すぐに消してください」

 新たなガラケーが虚空に現れます。手を伸ばして掴みます。ガラケーを親指で操作して、虹色のアイコンを消します。

「門の警備兵NPCの性格を変えたのは、誰ですか?」

 新美先生の視線は、わたしを射抜いています。『誰』と聞きながら、わたしを疑ってるのバレバレです

「先生、私たちがやって来たときは、すでに変な性格になっていました」

 片腕を高く上げて嘘を言ってます。ネエネエ変質先輩、あのとき事情を知ってた素振りだったぞ。

「ふたりとも並んでください」

 気まずそうなネエネエ先輩と、わたしは、新美先生の前で整列しました。

「さっきも言いましたよね? 私がギルド長のギルドです。警備のNPCがあれでは、品性を疑われてしまいます。誰が警備のNPCの性格を変更したか、知っていたら正直に話してください」

「ごめん新美、俺だ」

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