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21歳以上サーバーにログインしました

「あれ、ネエネエ先輩いない?」

 『共トレ』内で、わたしは現実と同じ、体躯です。ネットで顔出しは危険なので、顔は違います。前もって課金してあり、顔を買っていました。性別や身長、体型は変えれますが、普段使わないサーバーではそこまでするのは、面倒です。性別も、女性のままです。

 ゲーム内は夜です。辺りは繁華街になっており、お店のド派手な看板が多くあります。道行く人は、頭の上にサーバー内での名前が、表示されています。プレイヤーの分身で、アバターと呼ばれています。通る人が、わたしをチラッと見て通り過ぎます。

「ねえねえ、ゲームの開始前に利用規約読んでて、遅くなってゴメン」

 ネエネエ先輩らしき人は、わたしの前で手を振りながら、不意に出現しました。一瞬、ビクんと、わたしの体が揺れます。

 頭上に表記される名前は“風音”です。もちろん、本名でありません。顔も課金したのでしょう、別顔ですが美人です。顔に、ややネエネエ先輩の面影はあります。喋り方と体型でネエネエ先輩と判断しました。ネエネエ先輩は周囲に人がいないタイミングを、見計らったように絞ったような小さな声です。

「リフォーム」

「先輩、風音って、どうお呼びすれば良いんですか?」

「リフォーム」

 あ、合言葉だ。先輩かなり警戒しすぎ。自分を棚に上げます。仕方ないことと心は理解していても、わずかながら落ち込みます。

「住宅!」

 わたしはおなかのそこから出すように、軍隊風声で応じました。

 近くを歩く迷彩服のプレイヤーさんが、わたし見てから、目を逸らしました。駆け足になり、曲がり角で消えます。

 失礼な! 顔は覚えておきましたが、現実と違い、顔は課金すれば変えれるのです。

 ネエネエ先輩の戦闘服が一般サーバーと同じ、アメリカ軍の砂漠用迷彩風なので分かります。わたしの姿を見て、目を限界まで見開いてから、ゆっくり瞼を下ろします。

 わたしは、ウエストを見下ろすようにしました。

 緑色Tシャツにデニムの青い短パンです。背中にはマシンガンや予備武器などを背負ってますが、似合いません。迷彩服はどうなったのでしょう。首を傾げます。

「わたしは適当に名前つけたから、好きなように呼んでね。ねえねえ、ここ21歳以上専用サーバーだよ」

 風音をどう呼べばいいのか、先輩に対して、回答に困る問題です。

 しまった。ここ、21歳以上専用サーバーです。ここでは、マシンガンと武器のIDともかく、迷彩服のIDは、登録していません。

 顔を登録したのは、お母さんが、ネットで顔出すの危ないから、と前、一緒に来たとき、登録してました。わたしが運営さんのお店で、好きな顔を選んで、お母さんが買ってくれました。

「かわいい顔、素敵! ねえねえ装備買いに行く、それとも近くの運営さんのお店で、戦闘服のID登録する?」

「かわいいですか? でも、先輩に及びません。先輩、どうして迷彩服を登録しているんですか?」

「えー、えー、何度か21歳以上サーバーで何度もゲームしたんだ」

 気恥ずかしそうに、手を頭の後ろに当てて笑っています。わたしが前、21歳以上サーバーに来た時は、母のキャラ、つまり、母の21歳以上サーバー専用アバターでした。つまり、母なのに中の人はわたし状態です。

 なりすましと批判を浴びないよう、人から声をかけられれば、ダッシュで逃げてました。

 迷彩服は母のを使ってました。別アカウントなので、ミスりました。

「迷彩服、せっかくだから、新しいの買いたいです。急いで買ってきます」

「うんうん、私もついてく」

 アスファルトの道路を、ホテルの浴室にあるような、下駄で駆け抜けます。

 絶対に脱げず、怪我しないのは、ゲームだからです。近くの看板をスルーして、曲がり角で狭く暗い道に入ります。

 路地の暗がりを抜けました。広場になっており、夜に使う野球場のように、煌々と明かりで照らされています。

 現実と明らかに違うのは、照明設備がどこにもないことです。

 広場には、多くの人が突っ立ってました。アイテムを、売っているのです。プレイヤー間では、“自販機状態”と呼ばれています。

『共トレ』にログインしてから、虚空にコンソールを出し、自動販売を設定します。現実で、バグ技を使ってヘッドギアを外してしまうのです。ちなみに、現れるコンソールはガラケーです。

 こうすれば、プレイヤーは他ごとをしてても、勝手にアイテムが売れるのです。アイテムには相場があます。NPCを使って、運営さんが売る店より、安く設定できます。

 たまに、メッチャ安いアイテムを、物凄く高い金額で売っている人がいるので、注意が必要です。ただ、立っているだけの人の前には、シートの上にアイテムが並んでいます。

 目ぼしいものを探すのも、一苦労です。とりあえず、近くに立つ、黒髪で奇麗で肌の露出が多いお姉さんに、声をかけました。シートには、安っぽい小さなナイフと花しか置かれていません。

 アバター美人でスタイル抜群です。中の人はどうか知りませんが、それは言わないのが絶対のマナーです。

「すみません、ほかに何か売っていませんか?」

 自販機状態では、想定されるセリフを事前に登録しておけば、自動応答システムが作動するはずです。

「女には売れないよ」

「何言ってるんだコイツ」

 わたしは、ネエネエ先輩に体を向けながら、お姉さんを指差しています。中に人は、いないからコイツ呼ばわりしました。

「コイツって、アンタ気に入らねえなぁ」

 ブーツが動き出し、わたしの胸倉を掴みます。自動販売状態で、プレイヤーがログアウトしたら、アバターは動くことはできません。明らかに、自動販売状態にしながら、プレイヤーさんは、しっかりログインしていたのです。中に人がいる、と言われる状態です。

「すみません。中に人がいないと思ったんです」

「いようがいよまいが、人さまをコイツ呼ばわりするんじゃねー」

 首根っこを押さえられ、広場の隅にある木箱の裏側に、連れられ、足の下駄がずるずる擦れています。波止場にあるような大きな木箱は、雰囲気を出すためだけのモノです。運営さんが、最初から置いています。

 一般サーバーでの利用価値は、裏側で取引したり、内緒話をする程度です。21歳サーバーは、違うのかも。お姉さんから逃げ出そうと、足をバタバタさせます。いつの間にか、脇に抱えられていました。視界で地面が揺れるだけです。

「すまない、ソイツは私のツレなんだ。許してやってくれないか」

 ネエネエ先輩は、余裕をかまして、イケメンなセリフを言ってます。現実なら、どう対応するのか気になります。わたしはブーツにジャラジャラとチェーンをつけてる、お姉さんに言い返しました。

「ゲーム内で何されても、痛くないぞ、コイツアホちゃうか」

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