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吸血学院  作者: anti wonder
3/3

#3

 翌日

 登校した漆箱は、まず茨鋭が来ているかを確認した。また何か言われそうなら、保健室に逃げようと思ったからだ。

だが茨鋭は教室にいなかった。HRにも出席せず、隣のクラスにもいる様子も無く、それどころか、


 「浄華様!」

 「何事でしょうか。わたくしは貴女方等と馴れ合うつもりは御座いませんが」


 茨鋭ではなく浄華の元にヤンキー共が集っていたのだ。

 何かが可笑しい。そう思っても漆箱に何かが出来ることもなかった。実際、茨鋭がいなくなって漆箱も気が休まってはいたけど、何処が違和感の様なものが残るのも事実だった。


――――――――――――――――――――――――


 数日後、相変わらず茨鋭の姿が現れる事もなかった。

 しかし生徒から先生まで、その内の誰かが疑問を訴えることもなかったし、隣のクラスでもすっかり浄華がヤンキー共のリーダーという扱いになっていた。茨鋭に良き思い出もない漆箱だったが、どうしても気になってしょうがなかった。それは、かつて「揺り椅子探偵」と呼ばれていたお母さんや、捜査部*(作中の警察に似た機関)に務めているパパの間で産まれたという、血脈故のものとも言えるかもしれない。


 「あ、あ、あのう…」

 「あれ?漆箱さん?どうしたの?保健室?」


 とりあえず、通りすがりのクラスメイトを掴んで聞き込みをすることにした。


 「い、いえ…その、茨鋭…さんに……ついて………聞きたい…ことが…」

 「…う〜ん…もう来ないようなら、それでいいんじゃない?隣のクラスも、このクラスも静かになったし、雰囲気も和らいだわけだしね」

 「…はい…そうですね…」


 その後も教師や、隣のクラスのヤンキーなどあっちこっち聞き回っても大した収穫はなく、また数日が過ぎで行った。


――――――――――――――――――――――――


 そんなある日


 「失礼します…」

 「あら、漆箱ちゃん。いらっしゃい」

 「ああ!漆箱!夢ね、今日は漆箱、来ないのかな?と思って寂しかったけど。来てくれたんだー!嬉しい!」

 「あ、はい…儚先輩…。貧血気味で…。サメ先生も…こんにちは…」

 「あーあ、私より儚ちゃんの方が先なんだー」

 「い、いえ…!そんなことは…!」


 そういえば、茨鋭のことをサメ先生や儚先輩に聞いていなかったことに気付いた漆箱は、早速聞き込みを始めた。


 「サメ先生…。その、私のクラスの…し、茨鋭…さんについて…ですけど…」

 「茨鋭ちゃん?ヤンキーで無断欠席してる娘のこと?」

 「は、はい。只単に欠席しているのではなくて、少し様子が可笑しくて。隣のクラス…茨鋭さんの…仲間というか、ヤンキーの方々も、茨鋭さんを居なかったみたいに扱ってる様で……誰に聞いても何があったのか知らないようですし、そもそも気にしていない。来なくなってもう大分時間が経ったのに」

 「ふふ、どうしたの?いきなり達弁ね。漆箱ちゃんが茨鋭ちゃんについて聞き込みしてるって噂は本当みたいね」

 「あ、い、いえ……。その、そういう、訳では…なくて……」

 「まあ、冗談はさておき。心配なの?それとも何か別の理由かしら?」

 「茨鋭さんは、居なくなる前、私に警告していました。血を噴き出す様な騒ぎを起こすこと…目立つことをするのをやめろ、と。その時は怖かったですし、あまり、いい気分ではありませんでしたが。それでも、パパは言ったんです。どんなに悪い者でも人権がある、その者のことを邪険にしたりしてはいけない。ですから私は、たとえ茨鋭さんでも、いきなり居なくなって、皆が居なかったことにしようとしても、何があったのか、ちゃんと知った上で。皆を説得して、茨鋭さんがいつでも帰って来られる様にしなくてはならないのです」

 「ふーん、そこまで考えていたのね。うん、いいわ。そういうことなら生徒会を尋ねるといいわ」

 「生徒会…?」

 

 生徒会、確か人間の生徒会長に吸血鬼の副会長と聞いたことがある。入学式には生徒会長ではなく副会長が前に立っていたので、生徒会長がどんな人かは知らないけど。副会長は口調こそ砕けていたものの、キリッとしてて真面目そうな吸血鬼だった。

 とりあえず、生徒会は今日の放課後に尋ねよう。

 

 「ねえねえ、漆箱!」

 「はい…なんでしょう?…儚先輩」

 「漆箱って本読む娘?夢はね。白夜がいない時はいつも読んでるんだよ。青春物?っていうの?」

 「いえ、私は……たまにしか…読みません…けど」

 「そっかー。じゃ他には?何か好きなことか、普段よくやってることとか。夢、もっと知りたいな!漆箱のこと!」

 「ええと………少し…恥ずかしい話ですけど…ぬいぐるみを集めたり、縫ったり……とか…」

 「お人形さん!!見たいなーー!!!」

 「…………じゃあ…今度…持って…きますね」

 「やったーー!!漆箱が縫ったお人形さん♪漆箱が縫ったお人形さん♪」

 「歌にしないで下さい……」

 

 そうやって儚先輩と他愛のないお喋りをしている傍らでは、サメ先生が何故か優しい微笑みで見守ってくれていました。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 放課後、生徒会室の前。漆箱は生徒会室のドアをコンコンとノックした。1秒…2秒…それから10秒…反応はない。誰も居ないのかと思い、帰ろうした時、いきなりドアが開いて

 

 「へっへん。こんなものなんぞやってられません!あたいは偉大なる人間様で生徒会長です!!こんなちっぽけな部屋の隅っこで書類なんかと睨めっこしてる暇はないのです!!」

 「ちょ、ちょっと、待てぇい霊長たまァァーー!!今日ばかりは我慢できねぇぞぉぉ!!!いつまであたしにやらせる気だぁあ!!!少しは自分でやれぇぇ!!!」

 「嫌ーです!そもそもあたいにそんな仕事、似合わないでしょう?真面目なマナの方がよほどお似合いですよー!」

 「くそぉ、確かに霊長が真面目に書類を見ている姿が想像できねぇ…」

 「ははは、それでは諦めて素直に書類作業に戻ることですね。あたいはこれにてしっつれー♪」

 「いや待て!イメージの問題じゃなくて、これは霊長の仕事だろうが!!!ってもう居なくなってるしーーー!!!これ、今日までなんだけどーーー!!!」

 

 と、そんな逃走劇が繰り広げられていたのだ。

 

 「あれ!?わりぃ!さっきので倒れた?手ぇ掴まって」

 

 生徒会室から飛び出したふたりを避けきれず、尻餅を搗いた漆箱に気付いて、副会長のマナが手を差し伸べてきた。

 

 「は、はい…なんか凄い…方でしたね…」

 「アハハハ、なんか恥ずいとこ見られたな。あいつ…霊長は昔からあんなんなんだ。いつもあたしが振り回されて…」

 「その、話だと……幼馴染…ということ…ですか…?」

 「ああ、そうだ。腐れ縁って奴だな。悔しいが」

 

 マナのお蔭で立ち上がった漆箱はお礼を言って、自分が生徒会を訪ねた理由を説明した。

 

 「なるほど、無断欠席の一年生か。おっけー。こっちで調べるわ」

 「ありがとう…ございます」

 「あ、そういやお前さん。たしか名前、漆箱って言ったよね?」

 「あ、はい…そうです」

 「ええと、どこだっけ…あ、あった!これこれ。来週の月曜日、放課後に希少種交流会があるんだけど。まあ強制参加ってなわけじゃねえんだけど、わりと皆参加するんだわこれが。今年からは1年生の希少種4名を入れて9名だ。場所は生徒会室の隣の会議室で、その時間はあたしらや教師も立ち入らねえ。あんたらでわいわい楽しくお茶会してくればいい」

 「…そういうものも…あったんですね。分かりました…。私も…参加します…」

 「お?その意気だ!来週から月に2回。2週目と4週目の月曜日に定期的に開催だ。お前さんの意にそぐわない感じなら途中から抜け出して次からは不参加ってことでも全然構わないし、そんなことで問題視するようならあたしらで対応すると約束しよう。まあでも、心配しなくてもあいつらはただおもしれぇだけで無害だ。1年生ズはまだ知らないけど…少なくともお前さんはおもしれぇ」

 「………え、えええ!?わ、わ、わた、私が…おもしろ…え?」

 「そういう所だ。そういう所」

 「ええ………」

 

 話が途切れた思ったら、マナがARホログラムサポーター*(通称ARHS、設定を参照)で時間を確認していた。

 

 「あ、やっべ、もうこんな時間か!?すまん、あたしゃもういくわ。また今度な!」

 「す、すみません…!!引き止めてて……」

 「いいんだよ、こんぐらい。これでも一応先輩だしな!」

 

 それだけ言ってマナは生徒会室のドアを思いっきり開けて中に駆け込んだ。漆箱は、副会長、マナ先輩は入学式で思った様に真面目で良い方でしたと思いながら帰路に就いた。

設定


 *捜査部*

 

 言葉通り、捜査をする機関。警察に似た機関だけど、捉えた犯罪者を刑務所に収監する権限があり、法律を作ること、裁判を執行することなどは出来ない。

 捜査部は大きく分けて以下の5つの部署を持つ。一般的な犯罪が起こった場合、現場の情報や監視カメラを元に捜査する一般課、異能を用いた犯罪を異能を用いて解決する異能課、逃走犯を追跡する追跡課、刑務所で看守の仕事をする刑務課、電子上の犯罪に対応する電子課の5つである。

 作中では、漆箱の父は一般課に所属する中堅の刑事に当たる。

 

 *ARホログラムサポーター*

 

 生物の視覚にしか映らない実体のないシステム。スマホのように色々な機能が搭載され、個人や団体でアプリを作ることも出来る。

 ARホログラムサポーター、略してARHSは、大きく分けてパーソナルARホログラムサポーターとパブリックARホログラムサポーターに分けることができる。前者は個人の視覚にしか映らなく(ロックを解除することで画面を共有することは出来る)、素人でも簡単にカスタマイズすることが出来る。そして後者は全ての生物の視覚に映り、広告パネルや映画館などに使われる。

 ARHSは光を見ているわけではなく、直接脳に伝わった電子情報を認識するものだ。なお、都市を構成する床のタイルや建物に組み込まれた媒体を通して電気や電子情報が伝達されるので充電の必要はなく、電波が入らなくなることもない。地面から離れた空中の場合でも、都市の中央にある、巨大ビルの最上階に設置された電波塔から都市の全域に直接電波が届くので問題はない。

 端末に関しては、旧型の場合、小型の手のひらサイズの端末があって、それを所持しないとARHSを利用することは不可能であったが、新型では端末を持ち歩く必要もなくなった。

 今作では、このアイテムが重要なキーワードになるわけではないけど、生活する上で登場する日用品の一つ、スマホだと思ってくれれば問題ありません。

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