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吸血学院  作者: anti wonder
2/3

#2

 その日は気まずさはあったものの二視のお陰で何事もなく平和に過ごした…と思っていた。昼休めまでは。


 「おい」

 「…」

 「聞いてんのか?てめぇだよ。聞こえねぇのか?」

 「……は、はい。な、なんで…しょう…か…」

 「昨日あんなことをしでしかといて、よくそんな顔して普通に授業聞いてんだ?ああん?」

 「……こめん…なさい…」

 「自己紹介の前もなんか魅了使いやがって、その次は血吹雪と来て、そんなに目立ちたいのか?なんなら、学校のど真ん中でてめぇの体を使って血花火でもするか?ああ?」

 「…………申し訳……ありません……でした………」

 「今日はこんぐらいで勘弁しとくけどよ。次、変な真似しようってんなら覚悟しとけよ」

 「………………はい………」


 吐き捨てるように悪態を叩き付けて、彼女は去って行った。

 彼女の名前は茨鋭(しえ)。吸血鬼で、中学の頃からヤンキーだったようだ。今はヤンキーの仲間と違うクラスになってイライラしてるようだ。このクラスで、私とは違う方向性で浮いてる娘だった。


 「あれ?なんかあったの?漆箱さん、大丈夫?」

 「ううん、なんでも…ないよ…」

 「…そう?ならいいけど。それより漆箱さん、一緒にご飯にしよ。お弁当?それとも学食か購買?」

 「え、えっと…お弁当……だよ…」

 「そっか。あたしパン買ってくるから、ここで待ってて」

 「うん…」


 そう言って二視さんは購買へと向かった。私は、そういえばお昼、誘ってくれてありがとうって、言えなかったことに気がついたけど、既に二視さんは見えなくなっていた。


――――――――――――――――――――――――


 気に入らねぇ。あいつ、たしか漆箱だったか。

 そうだ、こういう時は野郎共(皆女だが)のとこに行って見るか。気分転換にもなるかもしれねぇし。


 1年B組の前にヤンキーの下っ端共がいたので話を掛けた。


 「お前ら」

 「あ、姉貴。どうかしたんですか?」

 「俺は何かあった時だけしか来ちゃダメなのか?」

 「い、いえ。そんなことは」

 「はあ、まあいい。最近、調子はどうだ?」

 「それが…いえ、なにも。普段通りです」


 その時、隣のクラスの内から何かが壊れる音と共に悲鳴が聞こえてきた。


 「…なんだ?今のは」

 「え、えっと、これは…」


 さすがに下っ端の態度にイラついて来た茨鋭は、何か言う前に隣のクラスのドアを開いた。

 すると


 「ううっ、負けた…」

 「痛えぇ」

 「ふん、所詮は蚊の下位種ですね。相手に足りえません」

 「くっそぉ…」

 「姉貴より強いかも…」

 「ちょっと待て、今のは聞き捨てられねえ。言ったのは誰だ?」

 「ひえっ、この声は…!?」

 「あら、この下位種共の親玉じゃありませんか。どうやら、わたくしよりもか弱いらしいですが」

 「…テメェ…」

 「丁度良いですわ。この機会にしっかりと格を付けておきましょう。場所はそちらから」

 「…わぁった。じゃあ、放課後の川辺で」

 「承知致しました。では、また」


 それだけ言って浄華はその場から離れた。

 ヤンキー吸血鬼達は、茨鋭の様子を伺いながらそわそわしていて、それを見た茨鋭はますます不機嫌になり、唾を吐いて場を離れた。


――――――――――――――――――――――――


 そして放課後、川辺には相対する二人の人影と、野次馬の人影が落とされていた。


 「あら、ちゃんといらっしゃいましたね。てっきり、怯んでお家にお帰りになられたのかと」

 「…その口、二度と開けなくしてやる…」

 「なんと悍ましいこと。恐ろし過ぎて欠伸が出ますわ」


 浄華の話が終わる前、既に茨鋭が動いていた。浄華の懐まで接近した茨鋭は、爪を長く伸ばして、浄華の首を引っ掻いた。と、誰もが思った。


 「残念」


 茨鋭が引っ掻こうとした所には浄華の手が待っていた。その手に光の粒子が集まっていくのを見た茨鋭は、すぐさま身を引いて回避の動作に入った。


 「お口ではその様なことをおっしゃいましても、やはり怯えていらしたのね」

 「好きなだけ吠えていろ」


 浄華が光の粒子を放つ前に茨鋭は走り出した。光の粒子が茨鋭にぶつかる寸前、茨鋭は横に身を捩ってそれを避けた。


 「死ねえええっ」


 再び浄華の身を切り裂こうした茨鋭は、急に勢いが途切れ、その場で倒れた。


 「あ、れ……」

 「気付くのが遅いですわ。もう貴女は、わたくしに勝つどころか触れることさえないでしょう」

 「くぅっ…」


 倒れた茨鋭の身体から血が流れだした。茨鋭の横腹の辺りに、ぽっかり穴が空いていたのだ。


 「さっき、やられたのか…」


 茨鋭が光の粒子を避けたと思った瞬間、光の粒子は軌道を変えて、茨鋭の横腹から反対側の横腹まで体を貫通したのだ。


 「でも…まだ…まだやれる…」

 「まだ続けるおつもりですの?お辞めなさい。これ以上続けても意味はありませんし、貴女の命の保証も出来ませんわ」

 「…うっせぇ…」


 そこからは目を背けたくなる様な展開だった。一方的に蹂躙される。一度たりとも触れられることのない浄華と、血塗れになって起き上がる茨鋭。

 浄華の言う通り、もはやこの戦いに続ける意味など無かったが、それでもなんとか爪を届かせようと茨鋭は踏ん張り続けた。それはヤンキーのリーダーとしてのプライドなのか、それとも、いずれ浄華によって、自分の立ち位置を奪われる恐れや寂しさからなのか。それを知ることは永遠にやって来ることはない。


 そして、いつしか茨鋭の体が動かなくなった。死んだのだ。


 「あね…き…」

 「おいおい…うそだろ…」

 「はあ、だから申し上げましたのに。死ぬからやめなさいって」


 本来、吸血鬼は死ぬことはない。そう思われていたのは人間側からした誤解であって、吸血鬼も死ぬ。人よりも遥かに長い寿命を持ち、圧倒的な身体能力を持つ。だが人外の存在から見た場合、確かに吸血鬼は強く、寿命も長いが、それをも超える強さや寿命を持つ種族も多い。そしてこの様に、その力によって殺されることもある。


 「もう良いでしょう。わたくしは帰ります。彼女の亡骸は、まあ、朝になれば消えていることでしょう」

 「お、おい…!浄華、いや、浄華様!」

 「はい?なんのことでしょうか」

 「その…オレを部下にしてくれねえか…!?」

 「おい、本気かお前?」

 「いや、一理ある。姉貴が倒され死んだ今、オレ達がついていくのは、それを成した浄華様であるべきだ」

 「なんなのでしょうか、この方達がおっしゃっていることが、まるで理解できませんわ」

 「浄華様、どうか!」

 「浄華様!!」

 「嫌ですわ。汚らわしい。近づかないで下さる?」

 「浄華、様…!」


 結局、浄華がヤンキー達を部下として受け入れることはなかったが、ヤンキー達は付いて行くことを心の中で(勝手に)固く決めるのであった。

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