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吸血学院  作者: anti wonder
1/3

#1

 クリムソン学院、通称『吸血学院』。その名の通り、吸血鬼の為の学院だ。全校生徒、180の内、80%は吸血鬼で、15%は人間。残りの5%はそのどちらでもない希少種である。これは、吸血鬼が如何に社会に溶け込み、人間を筆頭とするあらゆる種族と共に生活していけるかを学ぶ、という吸血学院の学風の元、人間の生徒を受け入れたためである。


 「ええと……たしか………1年……C組…ここ…」


 この娘、漆箱(ななは)も、吸血鬼や人間だけでなく、希少種をも受け入れる吸血学院に入学するのは自然な流れであった。漆箱は吸血鬼の父と、ゾンビと人形(パペット)の混血、ミイラパペットの母の間で産まれた「ブラッドパペット」という希少種で、吸血鬼の陽光に弱い特性、ミイラパペットの熱、衝撃に弱く、魅了能力を持ち、そして皮膚が蜜蝋である特性を引き継いでいる。


 漆箱が適当に一番後ろの席に座って、しばらくすると、教室のドアが開いて、マグマ?が入ってきた。


 「え、えええ―――――!?!?!?」


――――――――――――――――――――――――


 「僕は見ての通りラバースライム。今日から1年C組を担当することになりました。気軽にラバーちゃんって呼んでね」


 どうやらさっきのマグマは担任の先生だったようだ。座ってる席順に自己紹介するも、漆箱は緊張と担任の先生への恐怖で、他の生徒の自己紹介は耳に入っていなかった。


 「では次…漆箱さん」

 「…」

 「漆箱さん?」

 「あ、は、はい…!」


 どうしよう、なんと言えば、ええと、ななはです、あれ?それから、だから

激度の緊張状態に陥った漆箱は、ついに限界を越え、爆発した。


――――――――――――――――――――――――


 「……ここは…?」

 「目が覚めた?ここは保健室よ」

 「保健室…たしか自己紹介を…」

 「驚いたわ。まさか自己紹介で爆発する娘がいるってね」

 「爆発………あ!そうだった!あ、あの、あの後どうなったん……でしょうか…」

 「あの後、貴女は保健係の娘に運ばれてここに来たのよ」


 漆箱、彼女の種族、ブラッドパペットは、緊張や恐怖などの劇的な感情に影響され、蜜蝋の皮膚が一気に破裂し、中から血が噴き出す性質がある。漆箱もこのことは、同然ながら熟知していたけれど、自分の意思で制御できるものではなかったのだ。


 「私は、また、やってしまったん、ですね……」

 「まあまあ、そう落ち込まないで」


 もぞもぞ


 「ん…?」


 その時、奥の方から何か動く音がした。人間か吸血鬼ふたりほどの大きさのあるものがもぞもぞと、蠢いているような…。


 「え?」

 「あ…キャ―――――――――!!」


 奥の方にいたのは、何故だか一糸まとわぬ白い吸血鬼と、紺色の吸血鬼が絡み合っている姿だった。


――――――――――――――――――――――――


 「あ、あのさっきはごめんね」

 「すまないな、あんなところを見せて、驚かせてしまったな」

 「い、いえ、あの、その、こちらこそ、お邪魔して、ご、ごめんなさい―!!!」

 「お、落ち着いて!夢はその、体についたものを拭いてもらってたの」

 「…体についたもの?」

 「そこは私が説明するわ」


 保健室の先生、サメ先生はそう言って説明を始めた。

白い方の吸血鬼はアルビノヴァンパイアのはかな、3年生なので先輩。

紺色の方の吸血鬼は白夜はくや、同じく3年生の先輩。

体の弱い儚先輩を心配して保健係をずっと続けた白夜先輩は、今日も儚先輩を連れて保健室に来て。アルビノヴァンパイア故にいつどの時も足りなくなりがちの血を補給する為に、血液の入ったアンプルを渡してたらこぼして、制服が汚れてしまって。血を拭く為に脱いでいたところを漆箱に見られた、という事だった。


 「ちなみにね、儚ちゃんは2代目の保健室の妖精ってあだ名が付いてるんだよ」

 「あ、ああ、サメ先生!!それは言わないで下さいぃ!!恥ずかしい…」

 「ふふふ、もしかしたら漆箱ちゃんが3代目になるかもね」

 「私が……妖精…」


 うん、それは、ないかな…。


 「まあ、そうならないのが一番いいんだけれどね」

 「ごめんなさい、その、保健室は、よく利用することに、なりそうです……」

 「じゃあ、夢と一緒だね!保健室友達!」

 「夢…君もここはあまり来ないのがいいんだぞ」

 「ええ、白夜までそんなこと言うの―??」

 「言うぞ、何度でも、君の為だから」

 「あ、う、うん…」


 儚先輩の顔が耳まで赤くなった。もしかしてこの二人って…。


 「ちなみにこの二人は付き合ってます」

 「言っちゃうんですか…」

 「まあ、校内では誰もが知ってるしね」

 「そ、そうなんですか…」


 傍らでそういうことを言っていても、彼女たちにはまるで聞こえなく、彼女たちだけの世界にいるようだった。


―――――――――――――――――――――――


 時間は過ぎて放課後、といっても入学式の日なので午前中に終わりだけど。家に帰ったら…


 「漆箱ァ――――――!!」

 「パ、パパ…苦しい…緩めて…」

 「大丈夫だったか漆箱?みんなが苛めたりしなっかったか??担任の先生もいい人だったのか???」

 「とりあえず、今は…パパに…苛められてる…かな…」

 「な、なんだって―――――――!?」

 「そこら辺にしておきなさい、あなた」

 「はい……」


 玄関のドアを開いたどたん、パパが文字通り飛び出してきて、抱きしめてきたのだ。パパは私のことが大好きで大好きで、いつも私のことを考えて、心配してくれてる。俗に言う娘馬鹿というものだけれど。一方、お母さんは落ち着いていて、パパのことを宥めたり、いつも優しくしてくれる。どちらも大好きな私の両親だ。

ちなみにパパのこと、パパって呼んでるのは、パパをお父さんって呼んだら「もう私のことをパパとは呼んでくれないのか、漆箱…」と言いながら、悲しむからだ。


 「漆箱、学校はどうでしたか?」

 「お母さん、うん、その、普通、だったよ…」

 「そう…」


 お母さんはそれから学校のことは何も言わなかった。


―――――――――――――――――――――――


 次の日


 「うう…行きたくない…」


 昨日あんな事があったばかりだから、どんな顔をして教室に入ればいいのか…。


 「あら、もう起きていましたのね、漆箱」

 「うん…」


 お母さんは私の顔をしばらく見つめて、それからこう言うのだった。


 「漆箱、あまり行きたくないのでしたら、行かなくてもいいのですよ。学校にはわたくしから伝えておきますので」


 私の顔を見ただけでお母さんは全てを理解したようだった。私は申し訳ないと思って。


 「ううん、大丈夫。ちゃんと行くよ、学校」


 と答えた。


――――――――――――――――――――――――


 教室の前、あまり考えすぎるとまた爆発しかねないので、覚悟を決めて一気に教室のドアを開けた。その瞬間、教室内に溢れ返っていた騒々しい雰囲気は、一斉に鎮まり、教室の中を静寂が支配した。私はそれでも気負いせず、自分の席に向おうとしたけれど、その席には既に誰かが座っていた。そうか、昨日私が保健室にいる間に、席決めがもう終わったのか…。

私が途方に暮れて、また爆発しそうになっている時、いきなり後ろから話が掛けられた。


 「ねえ、漆箱さん」

 「は、はひ!?」

 「あはは、落ち着いて漆箱さん。あたしは二視ふたみ。ツーフェイスって言う種族でさ、漆箱さんと同じ希少種なんだよ」

 「…うん…」

 「それで漆箱さん、自分の席分からないんじゃないかと思ってさ、話かけたわけ」

 「…ありがとう……」

 「あはは、どういたしまして。これからも何か困ったことがあったら気軽に話かけてよ。あたしに出来ることなら手伝うからさ」

 「うっ………ううぅ」

 「ええ!?な、泣かないでよ!」

 「…うぅ……嬉しくて……ありが…とう…」


 その後、漆箱はホームルームが始まるまで泣き続けた。

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