満月の変身
「変身」昔から 物語の大きな大きなテーマですよね!
でもこちらは ほのぼの まったり な大人の童話です。
その夜は月が特別に綺麗でした。
丸い丸い月が普段よりも
それはそれは大きく見えたのです。
静まり返った夜に
満月の柔らかな黄色い光が降り注ぎ
森を静かに照らします。
月の光には不思議な力があって
世界に様々な変化をもたらすのです。
特定の一族には
身体の奥底に眠る神秘の力を呼び覚まし
太古の力を取り戻す、と信じられてきました。
世界各地に伝わる
人狼や蝙蝠男の伝承は満月の光が起こす奇跡のひとつと考えられているのです。
森に1人の男が住んでおりました。
男には父も母もおらず
たった一人、狩りをして生活していました。
男が幼い頃亡くなった父の最後の言葉は
「成人した最初の満月の光で
お前は真の姿に変わる」
というものでした。
そう、今夜が男が成人して最初の満月だったのです。
満月の柔らかな光が男を包み
男の体に激痛が走ります。
腕に顔に足に獣毛が伸び
爪が勢いよく生えました。
鋭い牙が 伸びて 口からはみ出しました。
変身する。この俺が 獣に変身する!
混乱する頭の中でそう叫びました。
男の姿はみるみる 獣に変身していきます。
身体中に痛みが走り、同時に身体の奥底から無尽蔵に湧き出るエネルギーを感じました。
男は咆哮をあげました。
森の中に響き渡る獣の⋯⋯
「⋯⋯ ⋯⋯ ハーハー ⋯⋯ 」
あら 咆哮が聞こえません どうしたんでしょうか
息が漏れる音しか聞こえません
満月の光を浴びてその男変身しました。
男はもう一度雄叫びをあげようとしましたが
しゅーとか は〜とか 息が漏れる音しか出ません
男が変身したのは ウサギでした。
大事なことなのでもう一度言います
狼やコウモリや吸血鬼ならわかるのですが
ウサギでした。
ウサギには声帯にあたる器官がありません
ウサギは鳴かないのです。
とりあえず 毛むくじゃらにはなりましたし
牙も生えましたけど とても小さな お口です。
そもそも草食動物ですしね。
骨もとっても細くて すぐに骨折しちゃいそうです。
男は そっと顔を触って、
それから
長いお耳も触ってみました。
手で触れた音がすごく大きな音で聞こえました
(ごそごそごそ!)
男はすごく びっくりしました。
不意に ポロポロポロポロポロポロポロっと
まん丸の小さな うんちが たくさん出ました。
男はびっくりしました。
そして頭の中で(ええええええ!)と思いました。
ウサギは相当無表情です。
男の(ええええ)はよくわかりませんでした。
とりあえず 美味しいニンジンが食べたくなりました。
男の一族は人狼ならぬ「人兎」の一族だったのです。
残念ながら攻撃的な特殊能力はありません。
だってウサギですからね。
満月の夜にウサギになっちゃったら
怖い肉食獣に気をつけなきゃいけません
でもとびきり速い脚があります。
とびきりよく聞こえるお耳があります。
森に流れる風の音
その風にそよぐ草や葉の音
とおくとおく 流れる 山水の音
小さなちいさな虫の羽音
満月から降り注ぐ月の光の音も
ウサギには聞こえました。
お尻からぽろぽろと ちょとこぼれました
かっこわるいですね。
遠くで 動物が跳ねる音が微かに聞こえました。
月の光を浴びた 何かの一族かもしれませんし
普通の山に住む動物かもしれません。
ウサギ以外が出てきたら
こまるなぁ
男はそう思いました。
一族の可愛い女の子のウサギだったらいいのになぁ。
そう思い
音の鳴った方へ ぴょんぴょんぴょん
男は跳ねて行きました
でもウサギって男の子でも女の子でも
見た目全然わからないんです。
走っていく男のお尻に
まん丸な 真っ白い尻尾が揺れて
とってもキュートなんです。
ぴょんぴょんぴょん。
その夜は月が特別に綺麗でした。
丸い丸い月が普段よりも
それはそれは大きく見えたのです。
おしまい。
今回はオチらしいオチ無しです。ウサギ飼っているので 可愛いウサを登場させたくて書きました。ウサって犬や猫みたいに表情無いんですよー。
ほぼ無表情。キティちゃんが無表情なのも ウサギの真実の姿なのです。お尻とまん丸尻尾がとってもキュートですよ〜
読んで頂きありがとうございました。
また遊びに来てくださいね。