9 剣と盾3
序盤はマグナ視点、その後は女勇者アイラ視点です。
俺はキャロルとともに走っていた。
超魔戦刃の三人は、卑劣にも俺じゃなく仲間を狙うと言い出した。
絶対に阻止しなきゃ──。
気ばかり逸るが、スピードでは向こうのほうが上だ。
すでに三体とも見えなくなっていた。
十メートルほどのサイズがあるとはいえ、かなり距離が離れたのか、姿を確認できない。
事前にセルジュから施されていた風の術を使い、みんなと念話で通信しようと思ったのだが、なぜかできなかった。
超魔戦刃がなんらかの妨害をしているのか、あるいは距離が離れすぎているのか──。
「こっちなのです、マグナさん」
狐耳をぴょこんとさせながら、キャロルが言った。
「戦いの爆音が聞こえるのです。爆風に乗って、かすかな匂いも──」
「誰か分かるか?」
「たぶんエルザさんとアイラさんなのです。戦っている相手はラシェルという人かと……」
さすがは獣人の感知能力だ。
こういうとき、本当に頼もしい。
「よし、そっちに向かおう」
ラシェルには石化能力がある。
エルザの盾で防げるだろうか。
そして、あのサイズの敵を相手にアイラの剣は通じるんだろうか。
自分が戦うより、よっぽど緊張する。
無事でいてくれ、二人とも。
俺は祈りながら、キャロルとともに戦場へ向かう──。
※
「はあ、はあ、はあ……!」
全力の雷撃を放ち、アイラは荒い息をついた。
文字通り精神力を絞りつくした攻撃だった。
「まさか、四天聖剣でもない勇者ごときにあたしが──」
ラシェルが呆然とした声でうめく。
巨大な体に亀裂が走り、がしゃん、とガラスのような音を立てて砕け散った。
同時に、爆風が吹き荒れる。
「戻りなさい、【光聖牢獄】」
エルザが素早く防御フィールドを手元に戻し、周囲に張り巡らせた。
爆風はそのフィールドに遮られ、二人には届かない。
「助かったわ、エルザ」
「盾役だもの。これくらい当然よ」
ふふん、と鼻を鳴らすエルザ。
「いえ、その……あなたが気合いを入れてくれたというか、おかげで戦う気力が湧いたというか」
彼女の存在が、アイラの闘志を奮い立たせてくれた。
だが、感謝の気持ちを素直に告げるのが、どうにも照れ臭かった。
「以前に比べて随分と防御力が上がったんじゃない、エルザ?」
「私は常に進歩しているのよ。すでに以前の私とは別物──奇蹟兵装もランクアップしたし」
エルザはたちまち得意げな顔になった。
褒め言葉にやたらと舞い上がりやすいのは、以前のままだ。
「まあ、今回の勝利は私の超絶防御能力があってのことね! 感謝しなさい、敬いなさい、跪きなさい! おーっほっほっほっ!」
気持ちよさそうに高笑いまで始めるエルザ。
「まあ、あなたがいなければ負けていたわね」
今は、素直にそう認めることができた。
と、ラシェルを撃破したためか、石化していた足が元に戻る。
「じゃあ、引き続きリオネス様の捜索をしましょうか」
「そうね」
二人は進み出す。
いや、進もうとした。
「──エルザ」
「──ええ、誰か来るわね」
気配を感じとり、二人は茂みに身を隠す。
木々の向こうから人影が近づいてきた。
敵か、味方か。
もしも敵なら──もしも先ほどのラシェルと同じく超魔戦刃なら、消耗している今の状態で戦うのは危険だ。
あるいは帝国の精鋭兵の可能性もあるし、森に生息する危険なモンスターかもしれない。
この付近は危険地帯なのだ。
特に、今は以前以上の──。
(来る……!)
アイラもエルザも緊張に身をこわばらせた。
次の瞬間、前方から紫色の霧が漂ってきた。
毒か、呪いか。
あるいは瘴気の類か。
いずれにせよ、明らかな敵意のこもった禍々しい霧だ。
「エルザ!」
「奇蹟兵装アイギス──【輝きの盾】!」
エルザが防御スキルを発動させる。
半径二メートルほどで、先ほどよりも範囲は狭いが、よりまばゆく輝く障壁が出現する。
おそらく効果範囲を削った分、防御力を上げたタイプの障壁なのだろう。
紫の霧はエルザの障壁に触れると、
バチッ、バチバチバチィッ!
激しいスパークをまき散らして消滅した。
「へえ、今のを防ぐかよ」
「なかなかの防御能力のようですね」
茂みの向こうから二つの人影が現れた。
「あなたたちも──そうなのね」
最悪、ね。
内心でつぶやいた。
目の前に現れたのは、少年と初老の男だ。
ラシェルと同じ超魔戦刃だと、気配だけで分かる。
しかも、それが今度は二体──!





