8 加速する快進撃
首尾よくダークメイガスを倒した俺は、【素材回収モード】で奴らの持つ装飾品を証拠代わりに回収した。
そして、ギルドに戻る途中──。
「うう、ごめんなさいぃ……」
エルザはすっかりしょぼくれていた。
「私なんて……どうせ私なんて……ううう」
めちゃくちゃ落ちこんでる。
「エルザさん、元気出してください、なのです」
「クエストは無事達成できたんだし」
俺はキャロルと一緒に彼女を慰めた。
「いいのよ。私なんて盾使いのくせにまともな防御もできないのよ……そうよ、無能なのよ雑魚なのよ役立たずなのよ……うううう」
一気に卑屈キャラになってしまった。
普段は強気だけど、案外こっちが素なのかもしれない。
「勇者でも落ちこぼれ、冒険者でも落ちこぼれ……はあ」
まあ、あの盾は全然防御力がなかったのは事実だけど。
「『スヴェル』の力をちゃんと引き出せば、三分だけ無敵の盾になるはずなんだけど……上手くいかないのよね」
「三分だけ無敵の盾に?」
「神の武具の力を引き出すのは『心の強さ』なの。ちゃんとした使い手なら、下級魔族の攻撃くらい『スヴェル』で完封できるはずよ」
俺の問いに答えるエルザ。
「私はどうも、それが……」
逆に言えば──メンタル面を鍛えれば、盾使いとして十分な戦力になるんじゃないか、エルザって。
「なあ、もう少しがんばってみないか」
自分でもそんな言葉が出てきたのは、ちょっと意外だった。
落ちこむ彼女を見て、放っておけなくなったのかもしれない。
こうして知り合い、パーティを組んだのも何かの縁だしな。
「マグナ……?」
「三分限定とはいえ、無敵の盾なんだろ。ちゃんと発動できるようになれば、使い道はあると思うぞ」
驚いたようなエルザに微笑む俺。
「そうなのです。あたしもがんばってマグナさんをサポートするので、エルザさんもぜひ!」
キャロルが笑顔で元気づけた。
「……ありがと、二人とも」
エルザは涙を拭いて礼を言った。
「あなたたちと一緒にパーティを組めて、よかった」
「デレた、エルザがデレた!」
「これはいいツンデレさんなのです!」
俺とキャロルは思わずにっこり。
「シールダーは何かと重宝するし、またパーティを組んでみないか?」
「なのです」
エルザを誘ってみる。
二人より三人の方がにぎやかで楽しそうだし、な。
「私で……いいの? 落ちこぼれなのよ」
「じゃあ、こっから成長すればいい」
「よろしくなのです」
俺たちが差し出した手に、エルザはしばし黙考し──、
「じゃあ、よろしくねっ」
極上の笑顔を見せ、手を重ねてくれた。
──こうして、俺たちのパーティに三人目のメンバーが加わったのだった。
次の討伐クエストは『毒蜥蜴』がターゲットだった。
外見は大きなトカゲみたいなモンスター。
口から吐き出す毒の息が厄介だ。
こいつを相手にするときは、『解毒魔法』を使える僧侶をパーティに加えるのがセオリーなんだけど、俺には【ブラックホール】がある。
キャロル、エルザとともにバジリスクの住処である湿地帯を進んだ。
俺は【ブラックホール】を前方に展開したまま先頭を歩いている。
「毒の息が漂ってきたら、すぐに吸いこむんだ。いいな?」
と、【ブラックホール】に呼びかける。
やがて──前方から薄緑色をした霧が漂ってきた。
「これが毒の息か?」
そう思ったとたん、
ひゅおんっ!
【ブラックホール】が全部吸いこんでしまう。
俺たちの元には毒霧はまったく届かない。
さらに進むと、巨大なトカゲモンスターに遭遇した。
ターゲットであるバジリスクだ。
「よし、次は本体を吸引だ」
俺の呼びかけとともに、【ブラックホール】がバジリスクを一瞬で吸いこんだ。
あっけなく任務完了である。
「あたしたち、何もやってないのです……」
「私も……」
後ろでキャロルとエルザが顔を見合わせた。
「もう少し余裕のある局面だったら、エルザが『盾』を使いこなす訓練をやってもいいんだけど──毒息が相手だとちょっと危険だからな」
と、俺。
「悪いけど、今回は瞬殺コースにさせてもらった」
それはそうと、このスキルはやっぱり使える。
俺はますます手ごたえをつかんでいた。
相手が遠距離攻撃手段を持っていようが、【ブラックホール】を展開しておけば、全部吸いこんで無効化できる。
もちろん敵本体も、視界にとらえた瞬間に吸引して倒せる。
「これなら、どんなモンスターだって敵じゃない──」
その後も、俺たちは毎日のように高ランクのモンスターを狩り続けた。
何せ、攻防一体の【ブラックホール】でどんな敵でも簡単に吸いこみ、倒せてしまう。
まさしく、連戦連勝の日々。
ある程度の余裕をもって対処できる敵のときは、エルザに『盾』の練習をしてもらったけど、やっぱり簡単には使いこなせないみたいだ。
まあ、この辺は気長にやるしかないだろう。
そして──。
二週間が経つころには、俺たちはCランクパーティに昇格していた。
※
北部大陸、冒険者ギルド本部。
「Cランク冒険者、マグナ・クラウド?」
ギルド最強の猛者たち──SSSランク冒険者たちの定期会合で、その名が話題に上がっていた。
「知らないのか? 最近、頭角を現してきたという冒険者だ」
第二階位竜をたった一人で狩ったという『炎竜殺し』が言った。
「立て続けにクエストをこなしているという話だぞ。いずれも信じられないほど短時間で、しかも完璧な討伐を成功させている」
うなずいたのは、成層圏の彼方までも狙撃すると噂される『魔弾の射手』。
「噂ではドラゴンすら一瞬で倒すらしい」
楽しげに笑ったのは、風魔法を極めた魔法使い『烈風帝』だ。
「ほう……」
他のSSSランクたちもそれぞれ感心したように、あるいはライバル心を刺激されたように、各々の反応を見せている。
ドラゴンといえば、個体によっては彼らSSSランクですら手こずる相手だ。
それをCランク程度の冒険者が瞬殺するというのは驚嘆すべき話だった。
「今度の査定でBランクに上がるらしいぞ。ちょっと前までは最底辺のEランクだった、って話なのに──」
「なんでも強力なスキルを身に着けたらしい。どんなものでも吸いこめるとか」
「まさしく超新星だな。こんな猛者が冒険者界隈に潜んでいたとは」
「だが、冒険者の世界には他にも猛者は大勢いる。この厳しい世界で彼がどこまで上がってこれるか──楽しみだ」
「ああ、お手並み拝見だ」
いずれ上がってくるかもしれない、近い将来のライバルに──。
SSSランク冒険者たちは好奇と期待の表情を浮かべていた。
日間ハイファンタジー11位、日間総合24位まで上がっていました。読んでいただき感謝感謝……(´Д⊂ヽ