10 降臨
「我がブレスを消し去るとは……吸収か、あるいは封印系のスキルか……」
九つの頭を持つ巨大な蛇型のモンスター──いや、神の兵器が俺を見据える。
「だが、人間ごときのスキルでこの我を封じることなどできん。神が作りし最強の兵器、この氷の王はな!」
自信たっぷりに叫ぶ氷の王。
「いや、封じたぞ。お前の仲間みたいなやつ」
俺は全く動じない。
なにせ、雷の王を一瞬で【ブラックホール】に吸いこんで倒したからな。
たぶん、こいつもその雷の王と同レベルの強さだろう。
「な、何っ!?」
氷の王は愕然とした様子を見せた。
「そういえば、『雷の王』の反応がない……なぜだ」
「だから封じたって」
「ちいっ、我の探知装置が故障したか? そうだ、そうに決まっている……人間ごときに我ら『天想機王』が負けるはずがないっ!」
なんか、こいつ……現実逃避を始めてないか?
「故障だ、故障……ははは、心配して損したぞ! あ、取り乱してなどいないからな! 我は最強たる神の兵器! 人間ごときを相手に動揺するなど──」
「【ブラックホール】」
「ほ、ほげぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
うっとうしいので、即吸引してしまった。
討伐、完了だ。
「身もふたもないわね、あいかわらず……」
天馬に乗ったシャーリーが俺の側に降り立った。
「おつかれさま、マグナくん。今回もありがとう」
凛々しい美貌に花のような笑みを浮かべる。
──俺たちは【虚空の領域】から元の場所に戻った。
もちろん『外れ』の神殿は避け、正しいルートから。
ちなみに神殿には巨大な足のオブジェがあった。
第一層と同じ【王の証】らしい。
それを受け取ってから、元の場所に戻ると、俺はシャーリーの天馬に乗せてもらい、ここまで駆けつけたというわけだ。
見るからにピンチだったので、俺だけ先に下ろしてもらい、氷の王の攻撃を封殺。
ついでに本体も吸いこんで倒した──という流れだった。
ぴろりーん。
いつものチャイムが鳴り、中空にメッセージが表示された。
────────────────────
スキルレベルアップ。
【虚空の封環】がLV51に上がりました。
【虚空の封環】がLV52に上がりました。
(中略)
【虚空の封環】がLV70に上がりました。
有効射程距離が500メートルから1000メートルに上がりました。
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雷の王を倒したときと同じく、レベルアップの幅が大きい。
これも【虚空の領域】でレベルアップを評価するチームが決めてるんだよな、きっと。
そして──、
「やっと射程距離が伸びたぞ!」
思わず快哉を叫んだ。
これは嬉しい。
やっぱり【ブラックホール】のネックは射程距離だ。
有効射程に入りさえすれば、魔王の側近だろうと神の兵器だろうと倒せるけど、逆に言えば、そこまで接近しなければどうにもならない。
今回みたいに数キロ離れた場所に複数の敵が出てくると、どうしても倒すまでのタイムラグが生じてしまう。
そして、そのタイムラグの間に被害は拡大する──。
もっともっとスキルを強くして、射程を上げていかないとな。
「これで王都は救われたわね、マグナくん」
シャーリーが俺の側に寄り添った。
「今回もすごかったわよ」
ストレートな賞賛にちょっと照れがこみ上げた。
「本当に……すごいわ」
ふわり、と長い髪の毛が頬のあたりをくすぐる。
ち、ちょっと距離が近くないか、シャーリー。
横目で見ると、すぐ間近に彼女の美しい横顔がある。
「え、えっと……」
至近距離で艶やかに微笑まれ、どきりとした。
やっぱり美人だよな、シャーリーって──。
そんな彼女は無言で俺を見つめている。
吸いこまれそうな、深い色の瞳。
「……せっかく二人っきりになれたのに、すぐ戻ってくることになったわね」
ぽつりとつぶやいた。
「えっ?」
「みんなを助けるためだから、当然といえば当然なんだけど……うう、もう少し二人っきりの時間を楽しみたかった……」
ますます俺を見つめるシャーリー。
妙に心臓の鼓動が高まってしまう。
「え、えっと、空間震動はもう収まったのか?」
俺はドギマギしつつ、SSSランク冒険者たちを振り返った。
「ほほ、無敵のスキルを持っているマグナくんにも、弱点はあったか」
「クールさが足りない。もう少し女慣れしたほうがいいと思う」
ニヤニヤと笑うヴルムさんに、冷静にツッコむブリジット。
「それにしても」
クルーガーが苦笑した。
「俺たちの苦戦はなんだったんだ……まったく。大したもんだな、あんた」
「すごいよねー、君って」
レイアが目をキラキラさせた。
「強い人は好きだよ、ボク」
「えっ!?」
「あ、違うんです。レイアさんの『好き』は恋心的なものではなくて、強者に対する敬意と好意であって、あなたに一目ぼれしたとかじゃないので~」
慌てたように補足するアン。
俺の方は一瞬ドキッとしてしまった。
間近で見ると、レイアもキャロルやエルザ、あるいはシャーリーやブリジットに負けず劣らずの美少女である。
「よかった……またライバルが増えるかと思った」
背後でシャーリーが何かをつぶやいていた。
轟っ……!
大気がうなるような轟音が、空から響いた。
「えっ……?」
驚いて上空を見上げる俺たち。
あまりにも突然で。
あまりにも唐突に。
『それ』は現れた。
空高くから、巨大な隕石が落ちてくる──!





