6 女勇者エルザ
翌日、俺はキャロルとともに次のクエストを受注しに行った。
「連日おつかれさまです、マグナさん、キャロルさん。あの……そんなに立て続けにクエストを受けて大丈夫ですか?」
窓口嬢が心配そうな顔をした。
「平気平気。前回もその前も楽勝だったし」
「マグナさんが全部瞬殺してしまったのです」
「ふふ、お二人のご活躍は噂になってますよ」
にっこりと笑う窓口嬢。
「そのご様子だと大丈夫みたいですね。では、新規案件はこちらになります」
と、クエストの内容が書かれた説明書を見せてくれた。
「一番報酬が高いのは、これか」
夜ごと近隣の村を襲うという魔物『ダークメイガス』の討伐クエストだ。
「ダークメイガス?」
「名前の通り、魔術師みたいな能力を持つ下級魔族だな」
たずねるキャロルに説明する俺。
「最近、魔族の出没が増えているようなんです」
窓口嬢が言った。
「冒険者ギルドだけでなく、勇者ギルドでも警戒態勢を強めているとか」
『勇者ギルド』というのは、名前の通り世界中の勇者たちを束ねる組織だ。
平たくいえば、『冒険者ギルド』の勇者版だな。
「そういえば、三百年ぶりに魔王が攻めてくるんじゃないか、なんて噂を聞いたな」
と、俺。
「そんなことになったら世界の危機です……」
窓口嬢が両手で体を抱くようにして震えた。
「そうなったら守ってくださいね、マグナさん」
「えっ」
「頼りにしてます」
ふふっ、と悪戯っぽく微笑む窓口嬢。
その仕草がやけに可愛らしくて、ちょっと照れてしまった。
「……むー」
なぜかキャロルが拗ねたように口をとがらせた。
「え、えっと、じゃあ、このクエストを受けさせてもらうよ」
妙な空気になったことを感じ、俺は窓口嬢に言って受注手続きをした。
それからキャロルとともに窓口を後にする。
「今回はもう一人、メンバーが欲しいな。できれば防御能力の高い人間が」
「防御能力?」
キャロルがきょとんと首をかしげた。
ついでに狐耳も、ぴょこっ、と揺れた。
可愛い。
「もふもふ」
思わずそっと触れてしまった。
「きゃんっ!? 不意打ちもふもふは駄目なのです」
「あ、悪い」
「ちゃんと一声かけてくださいね。びっくりするのです」
ちょっとだけ拗ねたようなキャロル。
「じゃあ……もふもふしてもいいか?」
「どうぞなのです」
キャロルがはにかんだ笑みを浮かべた。
「でも、恥ずかしいから少しだけ……」
やった、今日はサービスがいい!
俺はキャロルの狐耳を軽くもふもふさせてもらった。
ふう、気持ちいい。
「よし、キャロルのもふもふを堪能したところで本題だ」
「はいなのです」
俺たちはクエストの作戦会議モードになった。
「ダークメイガスは魔法攻撃を使ってくるんだ。たぶん有効射程は数百メートルくらいはあるはず。要するに、こっちよりも遠い距離から攻撃してくる」
「遠い距離……」
「俺の【ブラックホール】の有効射程は100メートルだ。射程距離ではこっちが負けてるから、先制攻撃されることが前提になる。だから、それを防ぐためのメンバーが必要なんだ」
いくら無敵の【ブラックホール】でも、それを使う俺自身は生身の人間。
敵の攻撃が直撃したら、ひとたまりもない。
俺はさっそく追加パーティメンバーの募集をかけた。
もちろん、この間のジャイルみたいなのは絶対にパスだ。
「この私が大貴族クゥエル公爵家の令嬢にして神に選ばれし勇者エルザ・クゥエルよ。称えなさい、崇めなさい、おほほほほほほほほ!」
応募してきたのは、やけにテンションの高い女の子だった。
長い金髪は縦ロールになっており、ゴージャスな雰囲気はいかにも貴族令嬢という感じだった。
身に着けているのは、水着を思わせる軽甲冑──いわゆるビキニアーマーである。
背中には巨大な盾を背負っていた。
盾使い、か。
「勇者さん……ですか?」
「闇の魔族と戦うために、神に選ばれた特別な素質者──それが勇者よ」
キャロルの問いに、エルザは胸を張って答えた。
豊かな胸が、ぷるん、と揺れた。
噂には聞いたことがある。
魔王エストラームが率いる闇の軍勢──魔族に対抗するため、神に選ばれた戦士。
それが勇者だ。
彼女はその一人なわけか。
「ん? でも俺が探してるのは勇者じゃなくて冒険者なんだが──」
「……勇者だけでは食べていけないから、冒険者も兼業でやってるのよ」
言いづらそうに話すエルザ。
「食べていけない?」
「私、勇者としてはその……あまりランクが高くなくて、勇者ギルドではロクに仕事をもらえないのよ。まあ、要するに落ちこぼれというか」
エルザが言った。
勇者業界(?)もなかなか大変らしい。
それに、彼女の境遇にはちょっと親近感を覚えるかもしれない。
「給金も全然もらえなくて、しかも『私は史上最強の勇者になるわ! 退路を断つために、実家からの援助は受けない!』なんてタンカを切っちゃったから、お金に困ってて」
うーん……そこはあまり親近感を覚えないような。
「で、副業として冒険者を始めたんだけど、こっちでもランキング最底辺だから全然パーティが組めなくて、仕事もこなせなくて……」
「そうなのか……」
「魔族が相手なら勇者は絶対的な戦力になるわよ。ほら、仲間にしたくなったでしょ? ね? ね?」
必死のアピールだ。
「えっと、今回のミッションには高い防御能力が必要なのです。その辺、エルザさんはどうなのでしょう?」
キャロルがたずねた。
「防御能力……それなら、私には神から授かった武具があるから問題なしね!」
エルザは胸を張ってふんぞり返った。
「神の武具っていうのは、お前が背負っている盾のことか?」
「そうよ」
俺の問いにうなずくエルザ。
「勇者はね、全員が神から特別な武具を授かっているの。聖なる属性を宿した武具だから、邪悪な属性の攻撃は簡単に弾き返せるわよ。どう、有能でしょ、私? おほほほほほほほ!」
自信たっぷりだ。
考えてみれば、魔族の天敵は『勇者』。
エルザは今回のクエストにうってつけのクラスと言えるかもしれない。
とりあえず彼女をメンバーに加えて、今回のクエストに挑んでみよう──。
日間ハイファンタジー12位まで上がってました。ありがとうございますm(_ _)m
もうちょっとで一桁順位……!