表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/168

5 第二のクエスト

「Dランク昇格おめでとうございます、マグナさん」


 ギルドのクエスト受注窓口に行くなり、窓口嬢がにっこりとほほ笑んだ。


「Dランク? ああ、そういえば……」


 この間のオーガ討伐で俺のランクが上がっていたんだった。


 ちなみにギルドの冒険者ランクは週一での更新だ。

 オーガ七体を俺とキャロルの二人で(実際は俺一人だが)倒した、ということで、一気に昇格が決まったらしい。

 キャロルも同じくDランクに上がっているそうだ。


「ありがとう。何年もずっと底辺だったから、あらためて考えると感慨深いよ」

「よかったですね」


 礼を言う俺に、窓口嬢も嬉しそうにうなずく。


「今日は新しいクエストを受注しに来たんだ」


 と、本題に入った。


「あ、それならいくつか新規案件がありますよ。近隣の森に──」

「マグナ・クラウドっていうのは、お前か?」


 窓口嬢の言葉をさえぎるように、背後から声をかけてくる者がいた。

 振り返ると、筋骨隆々とした戦士風の男が立っている。


「俺はCランクパーティをやっているジャイルってもんだ。よかったら俺たちのパーティに加わらないか?」


 お、今までずっとぼっちだったのに、昇格したとたんパーティに誘われるとは。


 やっぱり冒険者は実力の世界だよなー、と今さらながらに実感する。


「なんでもオーガ七体を瞬殺するほどの攻撃力があるらしいじゃねーか。俺たちのパーティはアタッカーが不足していてな。お前みたいな奴なら大歓迎だ」


 と、ジャイル。


「俺たちは戦士1、魔法使い3、僧侶1って構成だ。前衛が不足してるんだよ」


 五人パーティか。

 確かにクエストをこなすには、人数の多いパーティに加入した方が何かとはかどるからな。


「前向きに考えさせてもらう。あ、俺にはもう一人、仲間がいるんだけど。そいつも一緒に、ってことでいいんだよな?」

「あー……お前のことは事前に調べさせてもらったんだ。ツレってただの人数合わせっていうか……要はコレだろ?」


 ジャイルが小指を立てる。


 時代遅れなジェスチャーだが、意味は知ってる。

 キャロルが俺の愛人とか情婦だって言いたいのか。


「俺たちが求めてるのは凄腕だけだ。お前一人でいいんだよ。足手まといはいらねー」

「お断りだ」

「お、おい」


 鼻白んだようなジャイルを、俺はひとにらみした。


「お前とは仲間になれない。じゃあな」


 言って、俺は窓口に向き直る。


「話の腰を折って悪かった。さっきの新規案件の話を教えてくれ」




「次のクエストを受けてきたぞ」


 俺は、ギルド内の待合室にいるキャロルの元に戻った。


「はいなのです」


 うなずいて、キャロルが俺を見つめる。


「……本当に、あたしが相棒でいいのですか?」


 どこか自信がなさそうに告げるキャロル。


「えっ」

「実は、ちょっと気になって──マグナさんの様子を見に行ってしまったのです。すみません。ちょうどマグナさんが勧誘されているところを見てしまって……」

「……聞いてたのか、あの話」

「はいなのです……」


 しゅん、とうなだれるキャロル。


「マグナさんの実力なら、もっとすごい冒険者パーティに入れるのです」

「何言ってんだ。俺の仲間はキャロルしかいない」

「でも、あたしには大した力はないのです。いちおう【九尾の狐】の眷属の端くれで、ちょっとした治癒能力は持ってますけど──他に特技らしい特技なんて」

「キャロルには素晴らしいモフモフがあるだろ」


 俺はそうフォローしておいた。

 ……いや、フォローになっているのかどうか、微妙に疑問ではあるが。


「とにかく、これからも一緒にがんばろう。な?」

「……ありがとうございます」

「というわけで、クエストの説明をするぞ。今回も討伐系だ」


 スキル【ブラックホール】は、やはりモンスター討伐にもっとも効果を発揮すると思う。


 たとえば、採集系のクエストに【ブラックホール】を使っても、目当ての素材以外のものもまとめて吸いこんでしまうだろう。

 あるいは探索型のクエストなんかは、【ブラックホール】では直接の役には立たない。


 だから、今後のクエストはそれ系のものを中心に選ぶつもりだった。


「今回のターゲットは『レッサーデーモン』だ」

「レッサーデーモン……下級魔族ですね」


 魔族というのは、こことは違う闇の世界──『魔界』の住人である。


 魔王エストラームやその腹心クラスは、神や天使に匹敵する力を持つ強大な存在だ。

 それに次ぐ上級や中級の魔族も、圧倒的な力を持っている。


 立ち向かえるのは、最強の『SSSランク冒険者』や、上位クラスの『勇者』くらいだろう。


 ただし、下級魔族であるレッサーデーモンにはそこまでの力はない。

 個体差もあるけど、ほとんど獣同然の知能しか持たない、ただのモンスターだ。

 もちろん、並のモンスターよりはずっと強力なんだけど……。




 俺たちは近隣の森にやって来た。


「この森の奥にレッサーデーモンの巣があるそうだ。近づいて、【ブラックホール】で吸いこむぞ」

「はい、マグナさん。思いついたことがあるのです」


 ひょいっ、と片手を上げるキャロル。

 まるで学校の生徒みたいなノリだ。


「なんだ、言ってみたまえ、キャロルくん」


 俺も、なんとなく学校の教師っぽく言ってみた。


「わざわざ近づかなくても、ここから直接吸いこめばいいのでは?」

「なるほど」


 言われてみれば、その通りだ。


「【ブラックホール】、森の奥にいるレッサーデーモンを吸いこめ」


 言いつつ、スキルを展開する。

 俺の前方に黒い穴が出現し──、


────────────────────

 現在、スキルの吸引対象は『術者が敵と認定した者』に設定されています。

 吸引対象が射程距離外にいます。

虚空の封環(ブラックホール)・LV2】の射程距離は100メートルです。

 スキルレベルを上げて射程を広げるか、現在の有効射程である100メートル内まで近づいてから、再度スキルを使用してください。

────────────────────


「なんだ、射程距離外って……?」


 もしかして、レッサーデーモンが【ブラックホール】の効果範囲の外にいるってことか?

 もっと近づかないと吸いこめない、とか?


 うーん、無敵のスキルではあるけど、さすがに万能ではないんだな。

 その辺は俺の立ち回りでなんとかするべき領分、ってことか。


「行こう、キャロル。俺も気を付けるから、お前も周囲に気を配ってくれ」


 俺はキャロルとともに歩き出す。


「レッサーデーモンがどこかにいたら、すぐに合図を。俺が即スキルを発動して吸いこむ」

「らじゃーなのです」




 というわけで、俺たちは森の中を進む。

 幸い、敵の不意打ちはなかった。


「あれがレッサーデーモンの巣か」


 俺は前方を指さした。


 森の茂みの奥に、小さな廃屋がある。

 昔は人が住んでいたようだが、今は無人らしい。


 あるいは──レッサーデーモンに、すでに殺されてしまったのか。


 小屋の近くに黒い影が見えた。

 ヤギの頭に筋肉質な人型の体、コウモリ状の翼、長い尾──といった姿をしている。


「さっそく【ブラックホール】で吸いこむぞ」


 俺は足元に黒い穴を出現させる。

 そこから吹き出した風がレッサーデーモンを絡め取り、一瞬で穴の中に吸いこんだ。


 討伐、完了。


 あらためて見ると、確かにレッサーデーモン以外のものは何も吸いこんでいなかった。

 俺やキャロルはもちろん、前方の廃屋も、周囲の木々や地面も。


 ──現在、スキルの吸引対象は『術者が敵と認定した者』に設定されています。


 スキルの説明通りだ。


 そういえば、以前にキャロルに絡んできた冒険者とのいざこざでも、【ブラックホール】は効果を発揮したっけ。

 あれも『俺が敵と認定した』からなんだろう。


「スキルの効果にもいくつかのルールがあるんだな」


 射程距離も含め、今回のクエストでいろいろと学ぶことができた。


 この調子で【ブラックホール】を使いこなし、どんどんクエストをこなしていこう。


 キャロルと一緒に。

 冒険者パーティとして、一歩一歩成長していくんだ──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


▼書籍化作品です! タイトルクリックで小説ページに飛べます!▼

☆黒き剣帝 元最強のアラフォー全盛期を取り戻して無双ハーレム

▼ノベマ限定作品です。グラスト大賞に応募中! 応援していただけたら嬉しいです!▼

☆冴えないおっさん、竜王のうっかりミスでレベル1000になり、冒険者学校を成り上がり無双

なんでも吸い込む! ブラックホール!! (´・ω・`)ノ●~~~~ (゜ロ゜;ノ)ノ
あらゆる敵を「しゅおんっ」と吸い込んで無双する!!!

モンスター文庫様から2巻まで発売中です! 画像クリックで公式ページに飛びます
eyrj970tur8fniz5xf1gb03grwt_p5n_ya_1d3_y





ツギクルバナー

cont_access.php?citi_cont_id=314270952&s

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ