4 クエスト対決
さっそくクエスト開始だ。
クエスト内容は近隣の村を荒らすオーガたちを退治する、というもの。
よくあるパターンの討伐クエストである。
俺たちが現場の村に到着すると、戦いの物音が聞こえてきた。
「お、あいつらに先を越されてるな。俺たちも行くぞ」
「はいなのです」
俺はキャロルとともに先へ進む。
村の入り口付近で冒険者たちと巨大な鬼──オーガたちが戦っていた。
「く、くそおお、強いぞ、こいつら!」
「いったん、退くんだ!」
奴らは苦戦しているようだった。
背を向け、散り散りに逃げていく。
「オーガは全部で七体か」
Bランクくらいの冒険者じゃないと、倒すのはちょっと骨だな。
あいつらはたぶんCランク相当。
実力的には、対処するのは厳しいって感じか。
ましてEランクの俺ならなおさらだ。
「ただし──今までなら、な」
俺はニヤリと笑った。
「マグナさん……?」
「さがってろ、キャロル」
さあ、頼むぞ俺のスキル。
奴らに勝つために。
キャロルの名誉を守るために。
そして、俺の未来を切り開くために──。
「発動!」
究極スキル【ブラックホール】。
突き出した右手から、闇が生まれる。
闇は突風を巻き起こし、その風がオーガたちにまとわりつき──、
しゅんっ……。
一瞬ですべてのオーガが闇の中に吸いこまれた。
リトルドラゴン戦と同じく瞬殺である。
戦いというよりも、単なる作業。
圧倒的な吸引力だった。
「わあ、やっぱりすごいのです!」
キャロルが嬉しそうに、ぴょん、と跳ねた。
俺はにっこりと彼女にうなずき、
「あ……これだと素材を手に入れられないな」
ハッと気づく。
クエスト達成には、その証拠となるものが必要だ。
一般的には、モンスターの体の一部──それは武器や各種アイテムなどに使われる──を『素材』としてギルドに持ち帰ることで証拠にすることが多い。
だけど俺のスキルは、モンスターを跡形もなく消し去ってしまう。
もちろん、素材なんて残らない。
「どうしたもんかな……」
ぴろりーん。
中空から、そんなチャイムが聞こえた。
ん、これってもしかして──。
────────────────────
スキルレベルアップ。
究極スキル【虚空の封環】がLV2になりました。
スキル効果に【素材回収モード】が追加されました。
【素材回収モード】を使用しますか? YES/NO
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そんなメッセージが表示された。
「素材回収モード?」
その名の通りの効果なんだろうか。
「『YES』だ。オーガの素材を回収したい」
声に出して告げると、
────────────────────
術者の意志を確認しました。
回収モードON。
以後、術者の新たな意志を確認するまで、このモードを続行します。
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メッセージが現れ、黒球の中から七体分のオーガの角が出てきた。
「……便利だな」
俺はそれらを拾い、ニヤリと笑った。
こうして、クエスト対決は俺たちの勝利に終わった。
「も、申し訳ありませんでしたぁっ!」
冒険者たちは全員キャロルに向かって土下座した。
ゴネられることも覚悟したんだが、どうやら奴らは俺がスキルでオーガたちを吸いこむのを見ていたらしい。
で、その威力に完全にビビったようだった。
心なしか、俺を見る目がおびえているような……。
「い、いえ、もういいのです」
キャロルは戸惑い気味だ。
冒険者たちはなおもペコペコと謝り、去っていった。
ま、とりあえず落とし前はつけられたかな。
「じゃあ、行くぞ。キャロル」
「マグナさん……?」
「このスキルがあれば、いくらでもクエストをこなせる」
俺は彼女に微笑んだ。
「いっぱい稼いで、お前の里に送金するぞ」
「えっ、もしかして──あたしを仲間にしてくれるんですか?」
驚いたようなキャロル。
「キャロルさえよければ」
「もちろんなのです! 嬉しいのです!」
キャロルは本当に嬉しそうに、ぴょん、と跳ねた。
「あたし、マグナさんになんとお礼を言っていいか……」
「別にいいよ。俺だって相棒がいたほうが便利だしな」
何度も頭を下げるキャロルに、俺はにっこりと言った。
「あたしにできることがあったら、言ってくださいなのです。言葉だけじゃなく、できれば何か形のあるお礼がしたいのです」
律儀な娘だなぁ。
形のあるお礼……か。
俺はあらためて彼女を見た。
ふわふわした毛皮に覆われた耳と尻尾。
特に尻尾は、触れると気持ちよさそうだ。
ぶっちゃけ、モフモフしてみたい。
触り心地を堪能してみたい。
「いや、さすがに『尻尾をモフモフさせてくれ』は厚かましすぎるな。いかんいかん」
俺は慌てて首を振った。
「『もふもふ』……ですか?」
しまった、口に出して言ってしまってた!
「えっと、尻尾を触りたい、ということですよね? マグナさんがお望みなら、その……どうぞ」
キャロルは恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、腰をひねり、ぴょこんと尻尾を跳ねさせた。
「えっ、いいのか?」
「恥ずかしいですけど、マグナさんになら──」
と、キャロル。
「これでお礼になるのなら。どうぞ、なのです」
「じ、じゃあ、ちょっとだけ……」
俺はお言葉に甘えさせてもらうことにした。
そっとキャロルの尻尾に触れる。
き、気持ちいい──。
毛皮はふかふかしていて、尻尾は温かくて、柔らかくて。
うん、こうして軽く触れてるだけでも癒される感じだ。
「ふわぁ……」
思わず、そんな声が出てしまった。
「マグナさん……?」
「あ、悪い。キャロルの尻尾があまりにも心地よくて」
「そんなにいいんですか? じゃあ、もうちょっと触ってもいいのです」
「本当か!」
「そこまで喜んでもらえるとは思わなかったので。あたしまでちょっと嬉しくなってきたのです」
はにかんだように微笑むキャロル。
「じ、じゃあ、もうちょっとだけモフモフしてもいいか?」
「ふふ、どうぞなのです」
「よし、もふもふもふっ」
「あ、ちょっとくすぐったいのです」
「じゃあ、これくらいに弱めて……もふもふのもふっ、と」
「ふふふ、まだくすぐったいのです」
そんな彼女と戯れつつ、ふと気づく。
俺が本当に欲しかったものは、無双のスキルなんかじゃなく。
ただ、こうして──一緒に楽しんだり、喜んだりできる仲間だったんじゃないか、って。
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