5 虚空城への旅路2
俺たちは一直線に続く街道を進んでいた。
当然、この道も灰色である。
「悪いな、二人とも。俺のスキルに巻きこんでしまって」
俺はキャロルとエルザに頭を下げた。
「謝らないでください、なのです。きっとすぐ戻れるのです」
にっこり微笑むキャロル。
「そうそう、水臭いわよ。私たち、仲間じゃないの」
エルザも微笑んでいる。
二人の優しさが心にしみた。
「……ありがとう、二人とも」
俺も礼を言って、微笑みを返す。
とにかく【虚空城】まで行くことだ。
そして、最上階の通路から元の世界に戻らないと。
「透明の城……か。近くまで行くと、ぼんやり見えるって言ってたよな」
さっき出会った黒い人形集団……【回収チーム】の言葉を思い出す。
「キャロル。あなた獣人だし、目がいいでしょ? 何か見えない?」
「んー……今のところ、まだ何も見えないのです」
エルザの問いに、ふるふると首を振るキャロル。
とにかく歩くしかない。
「あ、見てください、なのです」
ふいにキャロルが声を上げた。
「見つけたのか、キャロル」
「お城ではないのですが──」
キャロルが指さしたのは右手側の方向。
天に届くような塔が見えた。
「あれは……」
塔の表面に紋様が見える。
【現在の射程──500メートル】
そう書いてあった。
スキルの射程距離を示すモニュメント的なものだろうか。
【がんばってレベルを上げましょう。まだまだペースが遅いですよ! まずは目指せ10キロ!】
とも書いてある。
「お、おう……」
自分のスキルに励まされてしまった。
──っていうか、レベルを上げていくと、射程距離が10キロとかになるのか。
いや、『まずは』って言葉から考えると、さらにもっと伸びるんだろうな。
最終的にどこまでいくんだろう……?
と、
「貴様は──」
前方の大気が揺らぎ、巨大なシルエットが出現した。
ぼろぼろのローブをまとった骸骨。
「お前……ライゼルか!?」
俺は思わず身構えた。
「ひええ、マグナさんがスキルを使えない場所で襲ってくるなんて……」
キャロルが青ざめている。
「あたしが盾で守るわ。二人とも後ろに!」
エルザが一歩進み出て、奇蹟兵装『スヴェル』を構えた。
彼女も力を上げているとはいえ、相手は魔王の腹心である魔軍長だ。
どこまで立ち向かえるか。
どうにかして【ブラックホール】が使えればいいんだけど……。
「今度こそ貴様を打ち倒してくれよう──朽ちよ、冥府怨霊陣!」
ライゼルが呪文を唱える。
「それって、確か──」
二億以上の死霊を呼び出す、ライゼルの必殺術だ!
空間が歪み、そこから死霊の群れが出現する──。
「むっ!?」
いや、一瞬湧き出したように見えた死霊は、空気の中に解け消えてしまった。
「……ちいっ、この世界では手を出せんか」
ライゼルが悔しげにうなった。
「えっ」
「ここは貴様のスキル内の世界。いわば、貴様はこの世界の王だ……我が魔法を唱えても、貴様を倒すどころか、魔法を発動することさえおぼつかん」
スキルが使えないからどうなることかと思ったが、それなら安心だ。
「おお、魔族にまで王様扱いなのです。すごいのです、マグナさん」
「やるわね、マグナ」
キャロルとエルザから変に感心されてしまった。
「だが、いい気になるな」
俺をにらむライゼル。
「いずれ魔軍長最強の『鳳炎帝』が貴様を殺しにくる……貴様が、魔族を倒し続けるかぎり、な」
「鳳炎帝……?」
「くくく、この我とは比べ物にならぬ猛者よ。あまりいい気にならないことだ──」
言ったところで、その体が揺らいだ。
「むむ……引っ張られる、か。そろそろこの場に留まれぬようだ。さらば」
そう言い残し、ライゼルの姿が消滅した。
「消えた……」
俺は呆然とつぶやいた。
「転送完了したわ。あー疲れた」
「さすがに魔族の大物だと、吸いこむのが大変ね」
突然そんな声が聞こえてきた。
どどどどどどっ……!
土煙と足音を立てて、何かが近づいてくる。
【回収チーム】のときと似たような雰囲気だ。
もしかして──、
「あ、王様!」
「初めまして。あたしたち、この第一層で【転送チーム】をやってまーす!」
十数体の赤い人形だった。
さっきの黒い人形はのっぺりした人型というデザインだったが、こっちはどことなく女の子を連想させるデザインだ。
「【転送】って、どういう意味だ? ライゼルを消したのは、お前たちなのか?」
たずねる俺。
「『消した』っていうのは、ちょっと違いまーす!」
「この第一層から第二層へ『送った』んでーす!」
「送る……?」
首をかしげる俺。
「【ブラックホール】に吸いこまれた者は、基本的にこの【虚空の領域・第一層】にきまーす!」
「第一層の【転送チーム】が第二層へ、第二層の【転送チーム】が第三層へ……と送っていって、最終層まで行くと、そこで消滅したり、幽閉されたり……ってなるんでーす!」
知らなかった、【ブラックホール】ってそういう仕組みだったのか。
そういえば、スキルで吸いこまれた者がどうなるのか? って、あんまりちゃんと考えたことがなかったな……。





