2 ひたすら掘る
ため息まじりにゴブリンの死体を確保しようと、落とし穴に降りようとする。
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!
そのとき、雄叫びが響いた。
「げっ、リトルドラゴン!?」
上空から巨大なシルエットが降りてくる。
「なんで、こんなところに──」
うめいたところで、ハッと気づいた。
「そうか、ゴブリンだ」
リトルドラゴンはモンスターを餌にするって聞いたことがある。
俺が今、射ち殺したばかりのゴブリンを狙って現れたってわけか。
『リトル』と名前がつくものの、小山のような巨体である。
最強モンスターの代名詞ともいえる竜の眷属。
本来ならAランクパーティが戦うような相手だ。
見つかったら、俺なんてひとたまりもない。
恐怖で、全身から汗が噴き出す。
心臓の鼓動が爆発しそうだ。
「どうする──」
とりあえず、身を隠すしかない!
「【落とし穴】!」
俺はとっさにスキルを使った。
落とし穴の底に、さらに落とし穴を作ったのだ。
こんな使い方は初めてだった。
その穴に、俺は身をひそめた。
しばらくしてリトルドラゴンは去っていった。
ゴブリンの死骸を食われてしまい、素材を回収することはできなくなった。
今回のクエストは失敗だ。
だけど、命が助かっただけでももうけものだな。
「はあ、リトルドラゴンでも簡単に倒せるような冒険者になれたらなぁ」
ふと、そんなことを思った。
いかんいかん、気持ちが自嘲気味になっている。
気を取り直そう。
人間、分相応が一番なんだ。
高ランクの冒険者になりたい、なんて夢はとっくの昔に捨てた。
諦めたんだ。
俺は、そんな華々しい人生は送れない。
だから、自分の手持ちスキルを活かして、地道に生きるしかないんだ。
俺は【落とし穴】から──正確には【落とし穴】の中の【落とし穴】から出ようとする。
ぴろりーん!
音がした。
「あれ、これって──スキルレベルアップのときの祝福音だよな?」
スキルっていうのは、使い続けていると『熟練度』が上がり、一定の度合いでレベルアップするのだ。
────────────────────
スキルランクアップ。
【落とし穴】が進化し、第2階層に達しました。
────────────────────
あれ、スキル『レベルアップ』じゃなく、スキル『ランクアップ』?
「どういうことだ?」
そもそも、第2階層ってなんだ?
スキルが進化したって表示されているけど……。
俺は首をかしげ、考える。
「──待てよ」
俺は【落とし穴】を今までにない使い方をした。
【落とし穴】の中に、さらに【落とし穴】を作るという使い方を。
それがランクアップの契機になったとしたら──?
「もしかして……」
声が、わずかに震える。
ほんのちょっとした好奇心と、興奮。
まさか、とは思う。
だけど、試してみてもいいかもしれない。
「【落とし穴】」
俺はスキルを発動した。
生まれた【落とし穴】の底にもう一つ【落とし穴】を作る。
そして──、
「【落とし穴】」
さらに、二つ目の【落とし穴】の底に三つ目の【落とし穴】を。
ぴろりーん!
────────────────────
スキルランクアップ。
【落とし穴】が第3階層に達しました。
────────────────────
またスキルが進化した……のか?
「もしかして【落とし穴】を重ねまくれば、どこまでも進化するんじゃないか?」
興味がわいてきたぞ。
単なる外れスキルだと思っていたけど、進化させまくったら、もっと使えるようになるかもしれない。
さっそく俺は試すことにした。
【落とし穴】の底に【落とし穴】を。
さらにその底に【落とし穴】を。
さらにさらにその底に──。
とりあえず50回くらい掘って、深さは100メートルくらいになった。
あらかじめ最初の【落とし穴】の縁にロープをくくりつけてあるから、地上まで戻ることは可能だ。
俺はさらに50回、無心で掘りまくる。
と、
ぴろりろりーん!
今までと違う音がした。
────────────────────
スキルランクアップ。
【落とし穴】が第100階層に達しました。
究極スキルポイントを1取得しました。
究極スキルポイントを100集めることで、当スキルは究極スキルへと進化します。
────────────────────
「究極スキル?」
初めて聞く言葉だった。
「究極っていうくらいだから、普通のスキルよりもけた違いにすごい……とかだろうか?」
ますます興味がわいてきた。
俺はいったん地上に戻り、夢中になって掘りまくった。
キリよく100個掘っては、地上に戻る。
さすがに何百回と繰り返すと疲れるし、飽きてきた。
「あとは明日にしよ……」
都合400回。
究極スキルポイントを4集めたところで、その日のスキルアップは終了だ。
これを100ポイント集めるのか……うーん。
「けっこう遠い道のりだけど、地道にやるか」
翌日も、その翌日も。
俺は【落とし穴】を掘りまくった。
なんとなく──予感があったのかもしれない。
究極進化したスキル。
それを得ることができたら、今までの落ちこぼれ人生が好転するかもしれない、って。
最底辺の冒険者。
停滞した人生。
そんなものが──前に向かって、動き出すんじゃないか、って。
「だから、俺は」
掘って、掘って、掘りまくる。
また掘って、掘って、掘りまくる。
そんな単純作業も、究極スキルへの期待感からか、全然苦にならなかった。
俺は【落とし穴】の連続発動を何日も繰り返し、そしてついに──。
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