18(最終話) なんでも吸いこむ! ブラックホール!
俺たちは『虚空の領域』から元の場所へと戻ってきた。
魔王は魔界に帰っていった。
皇帝はしばらく【ブラックホール】内に閉じこめておいて、とりあえずベアトリーチェを助け出そう。
俺はキャロル、エルザとともに隣接する城に入った。
兵士たちが襲いかかってくるものの、俺は【ブラックホール】でなんなく完封。
途中からは、襲われることさえなくなった。
そして最上階に着き、大広間に入る。
「よう、マグナ・クラウド。どうやら、魔王でもお前には敵わなかったみたいだな」
広間で待っていたのは、黒い鎧を着た魔族の剣士だった。
金髪の、勝ち気そうな青年。
ルネ・ラーシェル。
以前にも一度手合せをしたことがあった。
魔族というには邪悪さを感じず、むしろ強さだけを求める求道者のような印象だった。
ルネは俺に挑み、敗れ、しかしそのことに清々しさを覚えたのか、笑顔で去って行った。
そんなルネが、なぜ俺の前に──?
「この辺りに強烈な魔力が発生したから追ってきたんだ。けど、ちょうど到着したころに消えちまった。で、どうしたもんかと思ったら……今度はお前の気配を感じたんだ。だから待っていた」
「待っていた……? 俺を?」
「もう一回、勝負しようと思ってな」
ルネがにいっと笑う。
以前よりも精悍さを増した笑み。
あれから、また修羅場をくぐって来たんだろうか。
だけど、その眼光に敵意はない。
あるのは、以前と同じ清々しさ。
そして爽やかさ。
どこか競技者を思わせるような──。
「私たちも興味があるな」
ルネの背後から現れたのはリオネスたちだった。
いつの間に知り合ったんだろう?
──俺はリオネスたちから、ことの顛末を聞いた。
最強の魔軍長ポルカが立ちはだかり、絶体絶命の窮地に立たされたこと。
それを救ったのがルネであること。
そして、ルネは帝城の最上部辺りから強烈な魔力を感じ、それを追ってきたのだという。
リオネスたちも、それについてきたのだ。
後は、ルネがさっき語った通りだった。
「不思議な感覚だが──その魔族に関しては、邪気を感じなかった。討伐する必要はない、と勇者であるこの私が、そう感じてしまうほどに」
と、リオネス。
「だから、ここまで一緒に連れてきた。彼には命を救われた恩もあるしな」
「悪い、マグナ。けど、こいつは悪人じゃないって気がするんだ」
と、これはクルーガー。
「魔族相手に変な話だけど、な」
「で、俺に挑むっていうのか、ルネ?」
「ああ、俺の最終目標はあくまでお前だからな」
ルネが俺を見据える。
「皇帝や……魔王との決着もついたみたいだし、ちょうどいい。お互いに最強の敵とやりあった後ってことだ。なら──これは頂上決戦だよな?」
楽しげに笑う、魔族の剣士。
そう、本当に楽しげに──。
「戦争とは無関係の、ただの戦士としての勝負。そう考えればいいのか?」
「ああ。俺は、俺の強さを試したい。そして、『今』を超えたい。それだけだ」
ルネが剣を抜いた。
俺は前面に黒い魔法陣を展開した。
じゃあ、ここは──。
殺意も敵意もない。
ただの、純粋な勝負だ。
──勝負の決着は、シンプルなものになるだろう。
俺が奴を吸いこむか。
それをかいくぐり、奴が俺に一撃を届かせるか。
結局のところ、その一点で勝負がつく。
「おおおおおおおおおおおおおおっ!」
ルネは剣を構え、刺突の体勢で突進した。
視認すら困難なほどの超速の突進だ。
「さあ、受けてみろ! マグナ・クラウド!」
ルネがさらに加速する。
「今の俺の力は、ポルカとの戦いで得たものだ。限界の果て、そのさらに先へと到達した強さだ! これなら、お前に届く──」
俺はハッと目を見開いた。
「【ブラックホール】の吸引が……弾かれる……!?」
いや、それも違う。
ルネは、自分が吸いこまれるよりも速く、移動している。
「俺はもっと強くなる! 昨日よりも今日、過去よりも、今! そして未来へ──」
限界をどこまでも超えた先にある加速。
俺が『運命超越者』だというなら、ルネはさながら『限界超越者』だ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
咆哮とともに、魔族の剣士の一撃が俺を捕らえる──。
否、その切っ先は、俺の眼前で止まっていた。
「あと一歩……届かねぇか……ちっ」
ルネが悔しげに言った。
悔しそうに、だけど清々しそうに、笑った。
しゅおんっ……!
直後、【ブラックホール】がルネを吸いこむ。
「……っと、ルネを戻すんだ、【ブラックホール】」
俺は慌ててスキルに命じた。
ばしゅんっ……!
吸いこまれたルネは、すぐに俺の前まで戻ってくる。
「すごいな……」
俺はルネを見つめ、素直に感嘆した。
魔王ですら完封した最強無敵のスキル──【ブラックホール】。
その力をかいくぐり、ルネはここまで俺に肉薄してみせた。
誰よりも強くなりたい、という一心だけで。
すごい、と素直に思う。
素直に──敬意を払う。
「俺の、負けか」
言いながら、ルネは爽やかな笑みを浮かべていた。
「けど、これで終わりじゃない。俺はもっと強くなる──その手ごたえをつかんだんだ」
「ルネ……」
「どこまでも……限りなく強くなれる。その境地を目指し続けることができる。そいつが何よりも嬉しいし、楽しい。燃えてくるぜ」
ニヤリと笑い、魔族の剣士は背を向ける。
「じゃあな、マグナ。次に会うときはぶっ飛ばしてやるからな」
そして、ルネは去っていった。
俺は【ブラックホール】に吸いこんだ皇帝を、連合軍の首脳の前まで連れていった。
それで帝国の敗北は決まり、彼らの世界侵攻には終止符が打たれた。
まあ、実際には賠償金やらなんやら……政治的な難しい問題はこれからなんだろうけど。
そして、しばらくの時が過ぎ──。
俺は、今も変わらず冒険者をやっている。
かたわらには狐っ娘キャロルと勇者エルザがいてくれる。
天軍の誘いも、勇者ギルドの勧誘も、全部断った。
俺は今の生活が、やっぱり性に合っている。
「ド、ドラゴンだーっ!」
前方から悲鳴が聞こえてきた。
通りがかった村を巨大な竜が襲っている。
そういえば、初めて【ブラックホール】を身に着けたときも、ドラゴンと戦ったっけ。
「マグナさん」
「マグナ」
キャロルとエルザが俺を見つめる。
「ああ、行くか」
俺は体の前面に、黒い魔法陣型の【ブラックホール】を展開する。
ドラゴンが振り向いた。
ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
威嚇してくるが、無駄だ。
俺には、無敵のスキルがあるのだから。
そう、なんでも吸いこむ【ブラックホール】が。
しゅおんっ……!
【終わり】
これにて完結となります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
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