3 虚空の封環と史上最強の魔王3
「千里眼で見た通りですね。人間が二人と獣人が一人」
魔族の少女がつぶやいた。
氷のように冷たい瞳には、ゾッとするような威圧感がこもっている。
以前に戦った不死王ライゼルと同じくらいの、強烈なプレッシャー。
おそらくは、魔軍長クラスの魔族だ。
「彼らをどう見る、ステラ?」
「それほど大きな魔力は感じません。あの女は勇者のようですが、奇蹟兵装の気配からして、かなりランクが低い方でしょう」
魔王の問いに、ステラと呼ばれた美少女魔族が答える。
「うう……どうせ私は最低ランクよ」
あ、エルザが落ちこんでしまった。
「獣人は『九尾の狐』の眷属ですね。治癒能力には長けているかもしれませんが、攻撃面で恐れる必要はないと思われます。そして最後に──」
ステラが俺を見た。
その額に黄金の瞳が出現する。
三つの目を持つ魔族……!?
「やはり、彼から強大な気配を感じます。外見は単なる冒険者ですが、特別な異能を秘めているようです」
「私たちを殺しにきたの……?」
エルザが険しい表情で魔王と少女を見据える。
「たとえ、あなたが伝説の魔王エストラームといえども、私の仲間たちは傷つけさせない!」
盾を、構える。
「エストラーム?」
魔王が訝しむような口調でたずねた。
「それはかつての魔王の名だな。俺の名は、フリードだ」
「かつての?」
今度は俺が訝しむ番だった。
どういうことだ……?
それはまるで、エストラームが過去の魔王であるかのような言い回しだ。
つまり、ここは現在の魔界ではなく──。
「魔界には結界が敷いてある。魔族以外の者は本来入れない」
魔王フリードが言った。
「お前たちはなぜここに入ってきた?」
ぞくり。
魔王から強烈なプレッシャーが放たれる。
俺は【ブラックホール】を身に付けてから、色々な敵と相対してきた。
その中には魔軍長のライゼルなんてやつもいたけれど──。
さすがに魔王を名乗るだけあって、こいつのプレッシャーは桁が違う。
いや、次元そのものが違う。
「侵略ならば容赦はしない」
「ひええ……」
キャロルが悲鳴を上げた。
エルザの方も顔面蒼白だ。
二人して、左右から俺の袖をギュッとつかんでいる。
大丈夫だ、二人とも。
たとえ相手が魔王でも──。
俺が守ってみせる。
この【ブラックホール】で。
「だが、お前たちからは敵対する気配を感じない。まずは──話をしたい」
魔王はいきなり襲いかかってはこなかった。
思ったより友好的な態度だ。
「なぜ、この世界に来たのか。その理由を問いたい」
俺たちは魔界に来た経緯を魔王フリードとステラに説明した。
といっても、俺たち自身も分からないことだらけなんだけど。
「……なるほど、迷い人か」
「ああ、魔界を侵略する意思はない」
魔王の言葉にうなずく俺。
「っていうか、たった三人で魔界をどうこうできるわけもないし」
「いや、お前のスキルなら不可能じゃない」
魔王が俺を見つめた。
禍々しいデザインの仮面の奥で、強烈な眼光が俺を捉える。
その瞳は、魔王というには不思議なほど澄んでいた。
邪悪さを、感じない。
むしろ、温かみさえ感じるほどの──穏やかな、それでいて強い意志を感じさせる瞳。
「防御も回避も無効化する、すべてを吸いこむ無敵のスキル──それに対抗できる魔族が存在するか、どうか」
「い、いや、侵略する意思はないから」
俺は魔王の言葉に慌てて首を振った。
フリードはそんな俺の返答に、かすかに微笑む。
「それよりもここから出る方法を探しているんだ。俺たち、人間界に戻りたくて」
そう、大事なのはそこだ。
もしかして、魔王なら魔界から人間界に戻る手段を知っているんじゃないだろうか。
「人間界へ、か。確かに人間界から魔界への侵入は容易じゃないが、逆はそれほど難しくない」
と、フリード。
よかった、帰る手段がありそうだぞ。
「だが、このまま戻っても……そこがお前たちの住む世界とは限らない」
「えっ」
「なぜなら、お前たちは過去からやって来た時の旅人──その可能性が高いからだ。今、お前たちを人間界に戻しても、そこはお前たちから見て未来の世界じゃないのか?」
言われてみれば、そうかもしれない。





