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保存癖

作者: 潮路


 父は自分で買ったものを絶対に捨てない人である。

 ゴルフクラブ、将棋盤、ワープロ、カセットレコーダー、ファミコンと数本のソフト。

 時が幾ら経とうとも、それらは父の自室に安置されている。定期的に点検をしているらしく、埃は被っていないし、実際に動作もする。

 とまあ、それだけ聞くと物を大切にする古き良き日本人なんて話になるのだが、悲しいことに、父は自分が買ったものは何でも残すので、部屋の片隅には菓子パンの袋、ペットボトル、段ボールといったものが丁寧に整頓されている。


 誤解を招かないように言うと、父は物を捨てられないわけではない。捨てないのだ。その証拠に他人から貰ったものならば、それがどんなに高価な、あるいは大切なものであろうと躊躇いなく捨てている。

 中学校の工作で、私が自分なりに端正込めて作った何かの物体を、父はその日の内に可燃ごみに出した。貰った時の第一声は「明日がごみの日で良かった」。

 既に父の実態を知っていた当時の私は憤慨した。駄菓子の袋でさえ残す癖に何故だと。

 

 父本人から聞いた話では、この行いが始まったのは母と結婚した日からである。

 それから三十年もの間をかけて、父の自室は自分のもので埋まった。その中に他人のものは一切ない。

 自分のものがどうしても溢れだす場合においては、居間に置くか、誰かに譲ったりして調整を行う。どうやら他人の手に渡ってからの末路は行いの範疇外となるらしい。私が衝動的にもらい受けたエキゾチックな土偶が、何かの手違いで粉々になった際も、父はまるで興味を示さなかった。

 必要な食材や家具などは、母を介して購入している。先述した通り、父の他人のものに対する扱いは荒く、食料なら所々ついばむだけで大半を残し、家具ならば力任せに動かして壊し、すぐにゴミとして排出するーー家出前の私の毎日はゴミ出しから始まっていたのだ。


 そんな父が最近、母と喧嘩した。

 日々の仕事に対する労いのつもりで作った手編みのマフラーを、本人の目の前で机の上に放り投げたのだ。

 その翌日から朝食を作らなくなり、愛妻弁当も作らなくなった。夕飯こそは情けで作っているらしいが、実に質素なものらしい。

「何とかして機嫌を直したい」といつになく真面目な口調で相談され、親孝行のつもりで話に乗った。

 

 この一週間、コンビニ弁当ばかりになってしまった。あれは思ったよりも嵩張る。

 どうしたらいい。このままだと、物が溢れてしまう。


 そんなだからだよ。

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