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第7話 メイドは勇者の評判を更に破壊する。

ブクマありがとうございます。

 クククッ、我に見られていることにようやく気づいたか勇者よ!

 そんな風にキョロキョロしているとは、なんと気配に鈍感なのだ!?

 このような体たらく、我が鍛え直すしかないな。……徹底的になッ!

 だが、その前に上下関係というものを分からせたほうが良いと師匠は言っていたな。

 ならば、今が好機だろう。

 勇者よ、我の三文芝居に付きあって貰うぞ?

 心でほくそ笑みつつ、我は洗濯の手を止め立ち上がる。すると、石鹸で泡が出ることが嬉しいのかきゃあきゃあ言っていた女どもが我が立ち上がったことに気づいたらしい。


「どうかしたの、えっと……ティア、さん?」

「いえ、ただわたくしの主であるブレイブ様が、わたくしを心配しているのかこっそり見ているので挨拶をしようかと思いまして」

「「「え?」」」


 問い掛けてきた女にそう言って、我は勇者がこっそりと隠れている場所を指差す。

 女どもは声を揃えて口にし、その方向を見る。

 すると、気づかれて諦めたのか勇者が気恥ずかしそうに物影から出てきた。

 ……出てきたのだが、酒の飲み過ぎと不摂生で前に突き出た腹が見える上半身裸は少し見苦しい。

 そして現れた勇者を見た女どもは――、


「「「きゃ、きゃああああああ、変態ーーーーっ!!」」」

「違う、変態じゃないっ! 変態じゃないっ!! 俺はただ、代えの服がないから貰えないかって現れただけなんだっ!!」


 ずぶ濡れの浮浪者としか思えないその容姿に悲鳴を上げ、抱き合った。

 そんな女どもに勇者は訴えかけるのだが、犯罪臭が酷すぎるな……。

 仕方ない、優秀なメイドを演じるつもりだったが……ここは我の人気の犠牲となって貰おうか。


「ブレイブ様、その様なお姿で現れては女性の皆様にとって目の毒です。ですからちゃんと何かを着てくださいませ」

「いやだから、君が服を全部持っていったからだろう!? せめて一着ぐらい置いておいても良いんじゃないかな!?」

「申し訳ありませんが、それは出来ません。あのような汚いままの服を着ては体が悪くなります」

「それはわかった。わかったから、せめて一着。本当に一着!」


 悪いとは思ったけれど、洗濯させて頂きました。と物凄く申し訳無さそうに我は勇者にそう言う。

 その姿はきっと傍から見たら、メイド()を叱りつけている主にしか見えないことだろう。

 会話の内容を聞かれていたらどうしようもないがな。

 とか思っていると、勇気を出した。といわんばかりに長的存在の女が我と勇者の間に立ち塞がった。


「そ、それぐらいにしなよ! この子、怯えてるじゃないのっ!?」

「え? い、いや、それはな――」

「それに何? 服が無いからって、怒鳴って恥かしくないのっ?」

「うぐっ!」

「というか、ちゃんと洗って干して綺麗に畳まなかったのがいけないんじゃない!」

「ぐっ!」

「それから――」

「も、もうやめてあげてください……、ブレイブ様も反省しているのか、凄く落ち込んでいますので」

「でも――っ!」


 どうやら長的存在の女は直情的というかいわゆる怒り易い人物だったようで、勇者に怒鳴りつけていた。

 そして怒鳴りつけられる勇者は反論出来なかったからか、グサグサと言葉の剣を付き立てられている。

 そんな勇者を庇うかのように我は長的存在の女に申し訳なさそうに告げると、勇者の前へと進む。

 一瞬身構えた勇者だったが、そんな態度も忘れてしまうことをしてやろうではないか。


「大変申し訳ありませんブレイブ様、わたくしも貴方様のための代えの服をちゃんと用意しておくべきでした。

 至らぬメイドの所業、本当に……本当に申し訳ありませんでした。どのような罰でもお受けしますので、お許しください」

「ぅ、えあっ!? く、くそっ、これは完璧に俺が悪い状況になってるじゃねぇかっ!」


 我の誠心誠意の謝罪に驚いた声をあげた勇者は苦虫を噛み潰したかのような顔になりながら、どうすれば良いのか分からず戸惑っているようだった。

 ついでに言うと勇者の呟いた言葉は小さかったからか、周りには聞こえていない。

 クククッ、これは滑稽すぎて笑いが込み上げてくるではないかっ!!


「って、今笑ったよな!? どう考えても代えの服を残しておかなかったのはわざとだろっ!? これは!!」


 おっといかん、笑みが口に出ていたらしい。そう思いつつ、笑いを隠すために我は口元に手を当てる。

 が、その行動はショックを受けて口元に手を当てている。という風に見えていたらしい。

 その証拠に勇者を見る女どもの視線は、まるで害虫を見るかのようであった。


「うわ、謝っているのに難癖つけてるわ……」

「そんなのだから勇者じゃなくなるのよ」

「きっと罰って、いやらしいことをするに違いないわ!」

「あんな可愛い子に与える罰なんだからきっとそんな感じに決まってるわっ」


 女どもは蔑むように勇者を見つつ我を庇うように前に出て行く。

 その度に勇者は一歩ずつ下がっていき、年甲斐もなく瞳に涙を浮かべ始めていった。

 そして――、


「ぐ、ぐぐ……! ち、ちっくしょーーーーーーっ!!」


 雄叫びと共にその場から逃げて行った。

 クククッ、あぁ! スッキリした!!

 笑みを浮かべたくなるのを必死に堪えながら、我は逃げて行った勇者に愉悦を覚える。

 だが、同時に心の何処かにモヤモヤとした想いが生まれる。

 え、ええい、何なのだ、この思いは……!!


「ふう、悪は去ったわ! 大丈夫、ティアさん?」

「っ! は、はい、ありがとうございます。皆様……」

「そんな畏まらなくても良いわ。その、石鹸とか使わせてくれたし」

「そうそう、初めの挨拶にちょっと緊張しちゃったけど良い子みたいだし!」

「だから気にしなくても良いよ!」


 モヤモヤとした感情を振り払いながら、我は女どもに礼を言うと彼女らはニコニコとした笑いを向ける。

 その笑いを見て、我に対して害意も無いと判断し、同時に庇護下に置かれたと判断する。

 よし、これで我の人気は安泰になるはずだ。

 そう考えつつ、我は健気な感じに微笑むと頭を軽く下げる。


「ありがとうございます。でしたら、わたくしのことはティア、と呼び捨てにしてください」

「え? 良いのかしら……いえ、あなたが言ったんだから良いのよね? わかったわ、ティア!」

「はい、よろしくお願いします。それでは洗濯に戻りますね」


 長的存在である女は戸惑っていたがすぐに切り替え、我に笑いを向けて名前を呼ぶ。

 そんな彼女に返事を返してから、我は洗濯に戻る。

 ……もどる。のだが、なんというか胸の奥に感じるモヤモヤとした想いは燻っていた。



 ●



「……ふう、こんな感じで良いだろう」


 額に伝う汗を袖口で拭いながら、我は洗濯を終えて綺麗になった服が干された様を見て頷く。

 うむ、見事に汚れは破壊された!

 それに満足しつつ、チラリ……と物干しを行った場所から見える家の中を見る。

 掃除が終わりきっていない家の中では、勇者が落ち込んでるのか沈んだ様子が見られた。


「くそっ、くそぉ……ちくしょぉ…………!」


 時折聞こえてくる怨嗟の声、というものが少し、いやかなり鬱陶しいと思う。

 ……これは、少しばかり追い詰めすぎたのだろうか?

 そんなことを思いつつ、我は乾かそうと手に持った服を見る。

 少しほつれてはいるけれど、石鹸で綺麗になった服。まだ湿っぽいが……しかたない。


「――我が手にある衣服に溜まった水分を、破壊(・・)する!」


 我が小さく呟いた瞬間、金色の瞳が輝き――手に持った服に溜まっていた水分は一瞬で破壊され、水分が破壊された服は乾いた。

 そうして手には上着、ズボン、パンツが握られ、ササッと折り畳むと我は家の中へと入る。


「失礼するぞ、勇者よ!」

「……なんだよ? また俺を陥れようというのか?」


 中に入り、勇者に声をかけると勇者は生気の無い瞳で我を睨み付ける。

 その瞳を見て、本当にやりすぎた。と我はようやく理解した。


「先ほどはすまなかったな勇者よ。我も貴様に会って興奮していたらしい! 許せ!!」

「許せ? あんな風に、俺を貶したっていうのに簡単に許せって言うのか!? ふざけるな!!」


 ゆらり、と立ち上がり勇者は我の前へと近付いてくる。

 そんな勇者が我に抱いている感情は、多分怒りだろう。そう思っていると、勇者は我を壁へと迫らせるとバンッと威すように壁を叩いた。


「お前はいったい何がしたいんだよ!? 俺を陥れたいのか!? 奉仕したいのか!? いったい何なんだよっ!!」

「だから本当に申し訳ないことをし――――」


 っ!! まずい……、大丈夫だろうと思ってたが、やはり破壊の力を使った影響が…………。

 突如朦朧とし始めた意識、それを必死に繋ぎとめようと頑張る我だったが、それは何時もよりも激しく、我はあっさりと意識を手放してしまった。


普通に現れて早々、可愛くても自分を貶す女性には怒りしか沸きませんよね。

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