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番外 少女の母は悲しみを破壊する。

今回はティアの母親視点です。

「ティア、ティアちゃん! しっかり、しっかりしてちょうだい!!」


 夜の花畑、村の皆が灯りを照らす中……私は必死に愛しい娘のティアちゃんの肩を揺する。

 けれどその瞳には何も映さないで、何の感情も宿らない……。

 まるで、まるで生まれてからの半年のころを思い出して、目に涙が浮かぶ。

 ああ、こんなことなら……こんなことなら、ティアちゃんの「寄るな。我はひとりで村の中ぐらいは歩ける』っていう言葉を無視してでもつきっきりで歩くべきだったわ……!

 そう思いながら私は何度も何度もティアちゃんの名前を呼び続ける。

 もう二度と大切な人が居なくならないために……。



 …………私、ディーネは今は無きアリエス村の村長の娘だった。

 けれど、アリエス村は邪悪なる破壊神の手によって滅ぼされてしまった。

 私と数名の裁縫や服飾の職人は運が良いのか王室から依頼を受けた商品の卸しと王国での最新の服飾を見るためにと、離れたヴァルゴ王国でメイド長の仕事をしている母から招待を受けたため無事だった。

 でも、父も、姉も、弟も……村の人たちも、可愛がっていた羊もすべて……形も残らず滅ぼされてしまった。

 しかも被害はアリエス村だけではなく、近隣にあったタウラスという町も巻き込んでいた。

 それを聞いた後の私の夫となったフリートを含む傭兵たちもとても悔しそうにしていたのを覚えている。


 ……だからだろう、私は自らの心を埋めるかのように同じように傷心していたフリートに声をかけたのは……。

 そしてフリートも寂しかったのもあるし、これまでの旅をともにして好意を抱いていたみたいだった。

 私も彼の少し子供っぽいところが気になったけれど……好きになっていたのだと思う。だから、フリートを選んだのだ。

 そうして私はフリートと愛し合い、夫婦となった。

 同時に私たちアリエス村の元住人とタウラスの町の傭兵たちは滅ぼされたとしても故郷を忘れられなかった。

 だから、母に礼を言い……私たちはヴァルゴ王国を離れ、故郷へと旅立った。


「……本当に、何も無くなったのね……」

「ああ、けど……オレたちは生きてるんだ」


 数週間の旅を経て、私たちはアリエス村やタウラスがあった土地へと辿り着いた。

 けれど其処はかつての光景など無く、あるのは破壊された土地だけだった。

 それから私たちは村を創り始めた。アリエスとタウラスの技術が残るための村を。


 家々が創られ、他の村から羊を買い育て始め、フリートを団長として傭兵団が創られていく。

 その間に他所に嫁いだり出て行った元アリエス村の住人や、タウラスから傭兵として出ており難を逃れた者たちが入村してきた。

 生きている。それを実感するかのように、私たちは一生懸命村を作った。

 そんな中で私はフリートとの愛の結晶がお腹の中に宿った。

 赤ちゃん、私とフリートとの可愛い赤ちゃん。あなたが産まれたころは平和になっていることを祈るわ……。


 そしてある日、お腹の中の赤ちゃんがすくすくと大きくなってきたころ、世界中に悲鳴が響き渡った。

 それが、邪悪なる破壊神の断末魔であることを……、勇者様たちが邪悪なる破壊神を倒したことで私たちはどういう訳か理解した。

 私も勇者様が父さんたちの仇を取ってくれたことに喜ぼうとした。けれど――。


「――――うっ!!」

「ん、なっ!? ディ、ディーネさん! ちょっとーっ、ディーネさんがぁ!!」


 周囲が喜ぶ中、急に私のお腹が痛み出し、その場に蹲ってしまった。

 そんな私の様子に気づいた人が周囲に声を掛けて、私をベッドへと運んでくれた。

 そして目が覚めると心配そうな顔をしたフリートがベッドの脇に居た。


「大丈夫か、ディーネ……」

「フリート……。ええ、大丈夫よ。ちょっとお腹が痛くなっただけだから」

「なら、良いんだけど。無理はしないでくれよ?」

「ええ、わかってるわ。貴方との大事な赤ちゃんですもの、元気に産むわ」


 優しくお腹を撫で、私は心の中で思う。

 赤ちゃん、元気に生まれてきてちょうだい……と。

 そしてそれからしばらくして、再び痛みが置き、赤ちゃんは産まれた。


「ディーネさん。女の子なんですけど……この子……」

「……え?」


 お産を行ってくれた相手が心配そうな表情をしながら、私に抱き上げた赤ちゃんを差し出してくる。

 それを受け取り、顔を見た瞬間……声が洩れてしまった。

 何故なら、産まれた赤ちゃんの髪は黒色で、私ともフリートとも違う髪の色だった。

 そして、瞳も……少し濁ったような金色。

 どういう、こと……? 私は、フリートとしか愛し合っていない。なのにこの子の髪の色も瞳の色も、私たちとは違う。

 フリートも同じことを思っているのか、心配そうに私を見るけれど……離れずに肩を抱き寄せてくれたことで不安な気持ちが安らいでいく。

 そんな私たちへと、お産を行った人がある可能性を告げた。


「……もしかすると、邪悪なる破壊神の断末魔が、このような悪影響を……」

「そん、な……。この子は……大丈夫、なの?!」

「ディーネ、落ち着け。……それで、どうなんだ?」

「すみません。わたしには……わかりません」


 申し訳なさそうに私に言う彼女に、私は何も言えることは無かった……。

 それからしばらく、私は赤ちゃん……ティアちゃんに頻繁に声をかけたり、抱き上げたりするようになった。

 けれどティアちゃんは返事もせず、身動きも取らず……まるで人形のようだった。

 もしかするとずっとこのままなのだろうか、そんな不安を感じながら半年が過ぎた。

 そんなある日のこと。


『あぅあ……!』

「え? い、いまの声って……」


 洗濯物を干していた私の耳に、声が聞こえた。

 初めは幻聴かと思った私だったけれど、足は急いでティアちゃんの下へと向かっていた。

 そして、家の中へと入り……ティアちゃんを見る。すると……。


「あきゃう! あきゃう、あきゃあ!」


 バタバタと手足を動かして、一生懸命ティアちゃんは叫んでいた。

 それを見た瞬間、私の胸に喜びが込み上げ……目に涙が溜まった。


「あ…………。あ、あらあら、ティアちゃん、おっぱいでちゅかー? それとも、おしっこでちゅかー?」


 だけどそんな感情を感じさせるわけには行かない。

 そう思いながら、袖口で涙を拭き。笑みを浮かべながら私はティアちゃんへと声をかけた。

 そしてそれからティアちゃんは感情を表すように良く泣き、良く手足を動かして表現するようになってくれた。

 そんなティアちゃんの姿を見て、私もフリートも自然と笑みが零れ、幸せな家庭が築かれた。


 それから3年が過ぎて、ティアちゃんは良く喋るようになったけれど……なんというか何処で覚えたのか仰々しい喋りかたをするようになっていた。

 なんと言うか、ちょっと背伸びをしたい子供みたいで可愛いんだけれど……もう少し可愛らしくかお淑やかな喋りかたを覚えて欲しいとも思ってしまう。

 でも、元気なティアちゃんの可愛さは私もフリートも分かっている。

 だからといって、ティアちゃんを見た瞬間に抱き上げるフリートの甘々っぷりはどうかと思うわ。

 だって、度を越えてしまっているからか抱き上げられて頬をスリスリされるティアちゃんの顔が凄くいやそうに見えるんですもの。

 なのである程度を見極めて、それを止めるように私も見守っている。

 そしてそのころからか、ティアちゃんは勇者様の近況を良く村に来る行商人に聞くようになった。

 もしかして勇者様に興味があるのかしら?

 でも、一度何気なしにティアちゃんに聞いてみたら、フリートに抱き締められるよりもすっごく嫌な顔をしていたのは覚えているわ。

 う~ん、本当に分からないわね……。


 そう思いながらも、ティアちゃんを見守っていると元気にすくすく育って……9歳になった。

 言動はやっぱり変わることはなかったけれど、元気に育ってくれたし……見た目は私たちの子供なのかって思ってしまうくらいに凄く可愛くなっていた。

 それに、初めて知ることにも真剣に驚いてくれるのが嬉しい。

 その中でも可愛いと思ってしまったのは、8歳の誕生日のときだ。

 ここまで大きくなってくれてありがとう。という意味を込めて昔王国で食べたケーキというお菓子を見様見真似で作って出してみると彼女は凄く驚いた顔をしてくれた。


「な、なんだこれはっ!? 何時ものパンのように硬くなく、フワッとしておりよういに破壊できないぞっ!?」


 そして、食べた瞬間の顔も凄く可愛くって思い出にしたいとさえ思ってしまったほどだ。


「ふぁ……ふぁああ~~……、ふんわりあまくて、とろーりでくちのなかでほろほろで……くぅぅ……かんたんに破壊できるはずなのに、このままにしておきたいとさえ思ってしまうぅぅ~~~~!!」


 ちょっと釣り上がっている目がとろーんと下がってて、口もでれーっとしてて……なんというかフリートがティアちゃんを甘やかしているときの顔に似ていた。

 それを微笑ましく見ていると、視線に気づいたティアちゃんは顔を紅くして俯いてしまった。

 ……でも、顔を下に向けていて表情が見えないけれど、凄く嬉しそうにしているのがわかっていて私たちも嬉しかった。

 これからも幸せな日々が続くのだろう。そう思っていた……。



 なのに、何時ものように帰ってくると思っていたティアちゃんは夜になっても帰ってこなくて、心配になった私は村の皆にお願いして探すのを手伝ってもらった。

 すぐにティアちゃんはお花畑の中で見つかった。

 だけど、ティアちゃんは返事もしてくれず、何の反応も示さない。

 まさか……まさかずっとこのままなの!?

 そう思いながらも必死にティアちゃんの名前を呼び続けた。

 すると私の叫びが通じたのか、ティアちゃんの瞳に光が戻ってきてくれた。


「む…………? 母よ、どうした……?」


 そして、何時ものように何処か偉そうな感じの喋りかたで私に喋りかけてきた。

 それに安堵し、私はボロボロと涙を流してしまった。

 そんな私の様子を見て、悪いことをしたのを理解したようでティアちゃんは皆に謝ってくれた。


 村の皆は、私に心配をかけないようにとティアちゃんに言ってくれて、それを嬉しく思いながら帰り始めた。

 ……のだけれど、ティアちゃんは私に尋ねてきた。


「勇者の面倒を見るにはどうすれば良いのだ?」


 その言葉にポカンとした私、それとフリートだったけれど私たちにそう言ったティアちゃんは……本気みたいだった。

 勇者様の、面倒をみたいなんて……いったいどうしたのかしらティアちゃんは?

 そんなことを思いつつも、母親として私はティアちゃんのお願いを聞いてあげたいと思う。

 だから私はフリートと一緒にティアちゃんに説教をしてから、これまでのことを振り返りつつ……椅子に座っていた。


「……忙しいってわかってるけど、手紙だけなら……良いわよね」


 呟きながら、私はヴァルゴ王国に居る母へと送る手紙を書く。

 これがどういう選択となるのかはまだ分からない。

 でも、ティアちゃんが成長するために必要なことだと思うから……。

 そう思いながら、私は手紙に文字を走らせるのだった。


 …………だけど、それから半年も経たない内に母がメイド長の職を辞して、王国で知り合った男性と共に村に帰って来るのは予想外だった。

こうして、彼女の道は始まったのでした。

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