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第4話 少女は空間を破壊する。

ブクマありがとうございます。

「ほうほう、勇者がりょうしゅをつとめる町のかいどうはいしだたみになったのだな?」

「ああそうなんだよ。お陰で馬車はスムーズに行けて大助かりさ」

「それは良かったな。……それで勇者のほうはどうなっているのだ?」

「ははっ、ティアちゃんはいっつもそればかりだなー。本当、勇者が大好きだね」


 そう言って笑いながら、度々話したことで親しくなった行商人は我のことを見る。

 勇者が好き? そんなわけは無いだろう。我はこの9年間、いつどうやって勇者に復讐をしようかと必死に考えているのだからな!

 そんな我の考えを分かっていない行商人は、勇者のことを話し始めた。


「勇者ブレイブ様なんだけどね、知り合いの商人の話だと……ちょっと酒を呑み過ぎているらしいんだよね」

「……酒か?」

「ああ、嗜む程度なら良いんだろうけど……勇者様の両親も心配する量らしいんだよ」


 ふむ……酒浸り、というやつか。我は呑んだことが無いから分からないが、美味い物なのだろうか?

 …………わからん。一度父親の呑んでいる物を呑もうとしたら、母親に怒られたからな。

 首を傾げつつ、行商人に礼を言うとその場を離れた。


「……やはり、実際に見てみないと分からないだろうな」


 ぽつりと呟きながら、我は人目に付かない場所へと歩き出す。

 これだけ成長したのだから、今の我には少しだけだが使えるはずだろう。

 そう思いながら我は人目に付かない場所に到着する。

 ちなみに選んだ場所は……花畑の中で傍から見れば我は花を愛でているようにしか見えないはずだ。


「さて、では始めるとしようか……」


 ちょこん、と花畑の中に座り込むと我は目を閉じる。

 そして意識を外に向けるのではなく、中へと向ける……。

 中、筋肉や、臓器、といった肉体の内側、ということではない。

 魂、根源、存在概念……自身の内側。其処へと我は意識を向ける。

 触れるのは、自身の存在概念――破壊神である我の根源。

 黒く濁った、禍々しい魂……それが我の、破壊神としての魂。

 それに触れた瞬間、我の体と存在概念が繋がるのを感じた。


「――――っ!! ……っふぅ」


 深く息を吐き、ゆっくりと目を開ける。

 すると綺麗だと思っていた花畑に何も感じることは無い……いや、むしろ破壊したいとさえ思えてしまう。

 この破壊衝動を感じることで破壊神としての存在概念に繋がることが出来たと理解する……が、これは永続的には無理だな。

 このまま永続的に繋がり続けていては、遠からず暴走してしまうだろうし……。

 それに体も疲れてしまうだろう。ならば、無理が無い範疇で収めるとするなら――。


「もって15分、だろうか……、ならばやるべきことをおこなうとしようではないか!」


 自信を持って言うと、我は力を行使する。

 目の前の空間の距離を――『破壊』する!

 パリン、と我がそう念じた瞬間――目の前の空間にヒビが入り、割れた。

 そして割れた空間の向こう側には花畑は映っておらず、この村には無い大きな建物が見えていた。


「破壊には成功したみたいだな。……9年振りだとしても、我自身の力だ。使い慣れないわけがない」


 其処から更に中を見るために、我は空間の視界固定を――『破壊』する!

 そう念じながら空間に手を向ける。すると、建物を映していた空間が我の思うままに動き出し始めた。

 やつは中に居るだろう。そう目算をしながら映し出される空間を移動させると空間は中を映し出す。

 中では複数の男たちが、ああでもないこうでもないと話しているのが見える。


『おい、あの村の税の徴収はどうなった?』

『領主様の返答待ちだ!』

『くそっ、遅れるの確定だろ! 何処に居るんだあの人は!!』


 ……見るからに忙しそうだな。そして、何を言っているのかはさっぱり解らん。

 だがここに勇者は居ないようだ。ならば次のほうに向かおう。

 そう思いながら映し出す空間の場所を変えていく。

 ……ちなみに我が破壊した空間は一方的なものだから、こちらから様子は見えたとしても向こうからは見えることはない。


『……ブレイブは、またのんでいるのか?』

『ええ、仕事をそっちのけで呑んでいるみたい……』

『そうか……、最近は剣もロクに振っていないみたいじゃないか』

『やっぱり、ライク姫様とのことを引き摺っているのね』


 違う場所に移ると、2人の年寄りが話し合っている。

 会話の内容からして……勇者の両親だろうか?

 というか酷すぎるみたいだな。そう思っていると、老人のほうが咽た。


『ゴホッ、ゴホッ!! ……正直、そろそろダメになりそうな気がするんだよ』

『…………そう、ですか。あなたがそうなら、わたしも……でしょうね』

『だろうな……。けど、おれたちが死んだら……ブレイブはどうなるだろうか』

『わかりません……。けど、決してひとりには出来ませんね……』

『そうだなぁ……』


 寂しそうに勇者の両親たちは寄り添っていた。

 ……正直、破壊神の破壊概念を表に出しているからか、その感情が良く分からない。

 いや、むしろ破壊したいとさえ思ってしまう。

 だから我は勇者の両親がいる場所から移動を行う。


 そして、我が見ている空間はようやく勇者を見つけた。

 あのとき、我を倒してから9年経っているからか、あの頃と比べると勇者は少し歳をとっていた。

 だからだろう、あの頃と比べて体付きが衰えている様に感じるのは……。

 同時に……何処か疲れた様子を見せながら、酒瓶を直接咥えてそれを傾けて呑んでた。


『ぷはぁ……、あぁ……うまいうまい……。ほんとう、さけは……うめぇよなぁ……』


 とても美味しそうには見えない飲みかたをしながら、勇者はそう言って更に酒を呑む。

 話には聞いていた。けれど、実際に見ると……なんとも言えない気分となってしまう。


「これが、いまの勇者……だと言うのか?」

『あん? 今何処かから声が聞こえたような……気のせいか』


 だから口からそんな声が零れてもおかしくはないはずだ。

 そして腐っても勇者だったのか我の声が聞こえたようだった……けれど、感覚が鈍りすぎているのか我に気づくことは無かった。

 こんなものが、こんなやつが、我を倒した……我を倒した勇者だと言うのか!?

 このままでは我は復讐出来ないではないか!!

 そう思っていると、空間に歪みが生じ始めた。


「そろそろ時間ということか? ――いや、待て。なんだ、これは……!?」


 歪み始めた空間、けれどそれは破壊を行った空間が修復し始める兆しではなく……違う空間に映るためのものだった。

 だが、なんだ……なんだこれは!? 我がやったのか? いや、我は――破壊神にはこういったことは出来るはずが無い!

 ではいったい何が? そう思っていると空間にそれは映された。

 っ! これは……未来? そしてあれは……勇者、か?

 我が見る空間、其処には汚らしいひとりの中年が薄汚れたベッドの上で胸を掻き毟っていた。

 その姿はつい先ほど見た姿よりも汚れ、弛み、醜かった。

 そんな勇者が今、胸の病で苦しんでるようだった。


『グ――グウウ……、む、胸が……だ、れか……たすけ……て、くれ……! ひと……りは、いや……だ。だ――か……だ――』


 勇者は必死に助けを求める。けれど其処には誰も居ない。

 そして、周りには誰も居ないまま、勇者はひとり寂しく死んだ……。


 ……これが、やつの未来だと言うのか?

 我が破壊した空間に干渉した何かがこれを見せた意図はなんだ?

 我に何かをしろというのか?

 ふん、馬鹿らしい! 勇者が死ぬのならば我の復讐は達成されるではないか!!

 そう、これで良い……これで良いのだ。


 …………だが、我の目的はなんだ?

 決まっている、()が我の手で勇者に復讐をすることだ。

 我自身による勇者への復讐だ!!

 それ以外に考えられるはずが無い!!


「……だが、どうすれば良いのだ? どうやって我が直接勇者に復讐をすることが出来るのだ?」


 ぽつり、と呟いた瞬間――頭の中に、ほんの一瞬だが……別の未来が見えた。

 そこで我は――、我は…………。


「そうか、そういう……こと、なのか…………」


 そう呟きながら、我の意識は深い闇へと沈んでいった。

 そして、気がつくと……心配そうに我を見る母親の姿があった。


「ティア、ティアちゃん! 大丈夫? しっかりして!!」

「む…………? 母よ、どうした……?」

「ああ良かった! 心配したのよ。またあんなことになってたんだから!! 本当に心配したのよ!!」


 我が声をかけた瞬間、母親は安心したようにボロボロと涙を流し始める。

 そんな我らを安心そうに周囲の村の者たちが見ているのに気づいた。

 同時に、今の時刻が夜であることにも。


「心配をかけた。すまなかった母よ。村の者たちももうしわけないことをした」

「はあ~~……。無事で良かった。けど、ディーネさんを困らせたらいけないぞ?」


 謝ると村の者たちを代表して牧羊を行っている青年が声をかけてきた。

 そう言われると、物凄く悪いことをしたような気になってしまう。……事実悪いことなのだろう。


「わかった。これからはあまり心配かけないようにしよう」

「あはは……心配は掛けるのか……」

「よしっ、村の皆。ティアを探すのを手伝ってくれて本当にありがとう! そしてティア……後でお説教だぞ?」


 父親が村の者たちに頭を下げ、我を見て言う。……これは怒っているな。

 そう思いながら後が怖いと感じつつ、我は言いたいことを言うことにした。


「母よ、ひとつ聞きたい」

「何かしらティアちゃん?」

「勇者の面倒を見るにはどうすれば良いのだ?」


「――――はい?」


 我の問い掛けに、母親はポカンとするのだった。

読んでくださりありがとうございます。


一応母親視点を入れてから、本編に戻りたいと思います。

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