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第33話 メイドは不可能を破壊する。

お待たせしました。

「な、なんとか……なんとかならないんですか……?」


 呆然としていた国王がふらふらと視線を彷徨わせながら、勇者に尋ねる。

 答えようにも答えることが出来ない勇者は視線を我に向ける。

 なのでキッパリと告げる。


「無理だな。あれはもう馬鹿王子であって馬鹿王子でない。所謂人間を辞めた存在というやつだ」

「そ、それでも……、それでも何か手はあるはずじゃないですか……?」

「……そ、そもそも、何であなたがそんなに詳しいのです……?」


 届かないどころか、まったく無い望みに縋り付こうとする国王を見ていると、王妃が我を見る。

 こいつにとって我は最も信頼している侍女の孫なのだから……少し強い一般人にしか思っていないのだろうな。

 まったく、笑えてくるではないか……。


「ク、ククッ、ククククッ!! 気づかないのか? まあ無理はないだろう、何せ貴様らの中では我は滅びたのだからなぁ?」

「え……?」

「な、何を言ってるんだ……?」


 突如笑い出した我を戸惑いながら2人は見る。

 そんな2人を笑いながら、我は彼らを見る。


「我は破壊神、貴様らが滅ぼした邪悪なる破壊神だ」

「「なっ!?」」

「そ、そんな……生きていた、っていうのですか?」

「いや、何故そんな姿をして……?」


 信じられない、そう言うように彼らは呟く。だが彼らの中には戸惑いと恐れが感じられた。

 無理もないだろう、十数年経ったとしても忘れられない死闘だったのだからな。

 だが我が何者であるかを告げた結果、馬鹿王子が戻れないと言うことは理解出来ただろう。


「そんなことはどうでも良いだろう? 貴様らは一縷の望みを信じて勇者に助けを求めようとしているようだが、それはもう無理だ。奴はもう人ではない、ましてや神でもないからな」

「そ、そんな……。それじゃあ、それじゃあトゥモロは……」

「勇者に殺させる。出来るか、勇者よ?」


 愕然とし、床に膝をつく国王を見下ろしながら、我は勇者に言う。

 どうにかしたい、そう思っているであろう勇者の体はビクリと震えた。

 ……表情を見ると、苦しそうな顔をしているのが見えた。

 どうにも出来ないのだから仕方ないだろう?


「それでも、それでもなんとか出来ないのか……? ティアちゃん、キミならなんとか――「助けてどうする?」」


 言い切る前に勇者の言葉を切る。

 そして、勇者へと尋ねる。


「助けてどうするつもりだ? たとえ助けたとして、奴は礼を言うか? 言わないだろう、むしろこんな目にあわせた貴様を許さないだろうし、貴様から我を奪おうともするだろう」

「そ、そんなことは僕がさせません。ですから……!」

「無理矢理抑えつけた。その未来はきっと貴様の死だ。いや、貴様らの……だろうな」

「…………くっ、そんなことは……」

「ありえるだろう? 現に貴様らは殺されそうになったのを忘れたか?」


 反論しようとする国王へと我は言う。

 すると国王は悔しそうに項垂れた。

 王妃にいたっては、何も言えずにいた。


「それと……力を完全に使いこなせていない今が有利だぞ。選べ勇者よ、この一時の優しさで世界の死を選ぶか、それとも……世界のために馬鹿王子を殺すかを」


 真剣な瞳で我は勇者を見る。

 正直、ここで奴を倒さなければ本当に世界は滅びるだろう。

 ただし女(美人美少女限定)は邪神へと至る馬鹿王子の供物として狂気に歪んだ快楽を与えられて生かされる可能性はあるがな。

 けれどそれは言わない、そう思いながら勇者を見ていると奴は我を見た。

 その瞳には、若干の迷いが見られたが……勇者らしい瞳だった。


「決まったみたいだな、勇者よ? 貴様はどうするつもりだ? 馬鹿王子と世界どちらを選ぶつもりだ?」

「ティアちゃん、俺は……どっちも救いたい」

「…………は?」


 期待していた回答とはまったく違いものが出たからか、我の口からは間抜けな声が洩れた。

 だが当たり前だろう、どちらかを選ばないといけない。という問いかけに両方を救いたいと返事を返したのだ。

 それを言う可能性も考えてはいたが、本当に言うと思っていなかったからそんな声が出たのだ。

 だが……、


「……貴様はどういうつもりだ? 我は貴様の力量では、どちらかしか選べないと分かって言ってるのだが?」

「うん、それは何となく分かる。ティアちゃんが俺に両方できるわけが無いって分かってるからそんな選択を出してきたんだっていうことは」

「~~~~っ、そう言うことを言うなと言ってるだろう?」


 真剣に我を見ながらそう言った勇者に気恥ずかしくなり、奴の顔をまとみに見れない。

 というか本当、簡単に信じるんじゃない……この馬鹿。


「…………あ、あれが本当に邪悪なる破壊神だって……」

「わたくしにはそう見えません……、むしろ……いえ」


 そんな我らの様子を見ていた国王たちが唖然としながら呟くのが耳に入る。

 それで余計に恥かしくなってくるのを感じた。


「~~~~~~っっ!!」

「ティアちゃん、答えてくれ。俺はトゥモロを助けたい、そして世界も護りたい。その方法を君は知っているんだろう?」


 恥かしがってる我の様子に気づいているのか、それともいないのか分からない。けれどその瞳からは覚悟が感じられた。

 その瞳から向けられる視線を感じながら、我は溜息を吐く。


「……貴様は本当に勇者なんだって、こういうときに改めて思い知らされるな」

「ティアちゃん……、それじゃあっ?」

「言っておくが、助けることが出来るという確証はないぞ。それだけは理解しろ勇者、剣を貸せ」

「確証が無くても、助けることが出来る可能性があるならそれに賭けたい」


 そう言って勇者は我に剣を差し出してきた。

 我が与えた剣だ。それを床に置き……太ももに隠し持っていた投げナイフを1本取り出す。


『ウィッシュ、一時的に与えることは出来るな?』

『わかんない……、けどますたぁが頑張るなら、あたしもがんばる!』

『そうか、ならば聖剣の本領というものを発揮してみせろ!』

『うん!』


 心の中で話をし、決定する。

 そしてすぅ、と息を吐き――投げナイフで手首を切った。

 スッと走る銀閃のあと、焼け付くような痛みと共に皮膚が切れ始め……ダクダクと血が零れ始めた。


「「「なっ!? いったい何をしてるんだ!?」」」

「黙っていろ。我の血が必要なのだからな」


 ダクダクと零れる血、それを床に置いた剣へとかける。

 打ち鍛えられた刀身と絨毯が敷き詰められた床が血で染まっていく……、その光景を見ながら我は囁く。


「――宿れ、貴様は一時ながら聖剣となった。その使命に、勇者を助けるために――目覚めろ」


 直後、ただの剣は時間制限のある聖剣へと変化した。

 その証拠に刀身が淡い光を放っている。

 しゃがみ、聖剣を掴むと勇者に差し出す。


「受け取れ、勇者よ」

「ティ、ティアちゃん……これは……? いや、この感覚、分かる。分かるけど……え、どうして?」

「疑問は後にしろ、今はアレを救うことだけでも考えていろ。それと……」


 無いよりはマシだろう、そう考えながら我は奴の唇へと唇を重ねる。

 軽めのキス、ただし……少しの間だけ勇者の肉体の衰えを『破壊』することを目的としたもの。

 唇から放し、距離を取り――笑みを浮かべる。


「破壊神からの祝福だ。救いたいと思うのなら全力で救ってみろ。諦めずになぁ…………ぅ、血を流しすぎた……」


 突如フラリとする体。

 体を支えることが出来ず、その場でへたり込むと未だ血の流れる手首を片手で押さえる。

 その姿を心配するように勇者が見ているが、返事を返すように視線を向ける。


 ――今は我を心配してる場合じゃないだろう、と。


 我の視線に気づいたのか、勇者はハッとする。そして……。


「ありがとう、ティアちゃん。ホープ、ティアちゃんをお願いできるか?」

「え、あ……は、はい……」

「ティアちゃんは無理だって言ってたけど、助けてみせるから」


 そう言って勇者は馬鹿王子に向けて駆けて行く。

 その姿を見ながら、我の意識は深く沈んでいった……。

最終戦です。

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