第24話 勇者はメイドと敵を破壊する。
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「多分、我らを害そうとする者たちは現状我らは眠っていると思っているはずだ。だから今の内に準備をするぞ」
戸惑っている俺に向けて、ティアちゃんはそう言うとカバンの中から色々取り出し始めた。
メインの武器は体の何処かに隠し持っているであろう黒いマチェットだろうけど、カバンからは投げナイフが数本収められたバンド、ガントレット、グリープを取り出していく。
そしてそれらをティアちゃんははめて行き、それらが終わると……メイド服のスカートを手で軽くいじった。
するとティアちゃんが穿いているスカートのスリットが開き、彼女の太ももが露わとなった。
その露わとなった太ももへとティアちゃんは投げナイフを収めたバンドを巻く。
その際、チラリと太ももの先……下着が見えそうになり顔を背ける。
「準備完了。そして勇者よ、貴様にはこれを与えよう」
「え? これって……」
着々と準備を進めて行くティアちゃんを再度見ると彼女はカバンに手を突っ込み、ある物を取り出した。
それは鞘に収まった一本の剣だった。
受け取れと言うように差し出され、ついそれを受け取った俺は剣を返すことが出来ず……鞘から剣を抜いた。
抜いた剣は良くある数打ち物とは違うように感じられ、なんというか良いものであると俺でも感じられた。
「タウラスが懇意にしている職人が打った鍛造物の剣だ。焼けた鉄を型に流して造る大量生産された鋳造物とは違うぞ」
「こんな良い物……使っても、良いのか?」
「当たり前だ。というか使わないと貴様はどうやって戦えと言うのだ?」
そういえばそうだった。俺が持っていた剣は錆びていたために山賊にあっさりと折られたんだった……。
それを思い出しながら俺は剣を見て、ティアちゃんを見て……頷いた。
「有難く……使わせて貰うよティアちゃん」
「貴様が扱える物を選んだつもりだから、自分の身は自分で護れ勇者よ。でないと……死ぬぞ」
「わ、わかった……」
ティアちゃんの纏う空気が何時もと少し違うことで俺も気を引き締めることにし、剣を鞘から完全に抜く。
防具なんて無いからどんな攻撃が来たとしても避けるか、剣で弾くかにしないといけないな。
そう考えていると、ティアちゃんが入口へと静かに動き出した。
誰か、居るのか? ティアちゃんを見ているとそう感じられてジッと動かないようにしている。
声を出してはいけない、直感で理解し黙っているとそれは正解だったらしい。
極力音を立てないように開かれようとしていた扉を見て、誰かがいるのがすぐに分かった。
そして――、
「――シッ!!」
「なっ!? 眠っているは――ぐげっ!?」
マチェットを構え、開かれた扉からスルリと中へと入ってきた真っ黒な装束に身を包んだ男へとティアちゃんは跳びかかる。
跳びかかったティアちゃんに男が驚きの声を上げ、何故起きていると言おうとしていたようだが言い終わる前に首へとマチェットが突き刺さった。
そしてそのまま壁へと張り付けられて死んだ。どう見ても即死だろう。
そう思っているとティアちゃんは外に視線を向けた。
「……逃げられたか。そしてばれたな……」
「ティアちゃん?」
「気を付けろ勇者よ。我らが起きているのに気づかれた。だから奴らはなり振り構わず来るだろう」
「っ! わ、わかった……」
彼女の言葉に息を呑み、ゆっくりと頷く。
本気で殺しにかかってくる。それが理解出来たからだ。
恐怖か、それとも緊張かは分からないが自然と体が強張り震えが起きる。
そんな俺の様子に気づいているのか気づいていないのか、ティアちゃんは男の死体を漁り始めた。
「こいつは何処の者か分かれば良いが……まあ、考えられるのはひとつだけだろうがな」
呟きながら装備や持ち物を検め、服を剥がし上半身を見て行くと……目的のものを見つけたようだった。
「やはりな……。勇者、これを見ろ」
「これって、刺青? どこかで見たような気が……」
刺青、そう刺青だ。男の死体の脇腹にはサソリを模したであろう刺青が彫られていた。
そしてこの刺青には覚えがあるような気がしたが、すぐに思い出した。
「そうだ、スコーピオ! 暗殺者集団のスコーピオだ!!」
「ああ、我も父から奴らには特徴として体の何処かに刺青があると聞いただけだったから見るのは初めてだが、スコーピオの一員だろうな」
「聖剣ウィッシュ欲しさに高慢な貴族が雇ってきて、何度か襲われたことがあるけど……あいつらはしつこすぎた」
「あれはしつこかったねー……」
随分昔だったけれど当時を思い出すと、ティアちゃんの口からウィッシュも嫌そうに言った。
奪われかけたのだから仕方ないだろう……。
そう呟いていると、ティアちゃんが死体を漁って見つけた持ち物の中の小瓶の中身を嗅いで顔を顰めた。
「勇者よ、どうやら貴様は眠っているときに発作で死んだ。そして、我は何処かへと居なくなっていた。
という筋書きにするつもりだったみたいだぞ」
「えっと、それってどう言う……」
俺が尋ねると、ティアちゃんは死体から取り出した小瓶を見せる。
多分薬、だよな? そう思っていると……、
「この薬は見た目と臭いからの判断だが飲んだら胸の鼓動が激しくなり、もがき苦しみながら死ぬだろうと思う」
「……寝ているときに飲まされたら、そのまま死ぬだろうな」
「その通りだ。本来ならば胸の発作に使える薬だろうに……」
あのまま、ティアちゃんが起こさなかったら俺は眠ったまま死んでいただろう。そう判断して、ブルリと体が震えた。
そんな俺の様子に気づいているのか、ティアちゃんが声を掛けてくる。
「とりあえずは眠ったまま殺そうとしていることは失敗に終わった。だから今度は……む、伏せろ勇者よ!!」
「え――うわっ!?」
「――ぐあっ!? め、目が――ぐぎゃっ!!」
突然走り寄ってきたティアちゃんに戸惑う俺へと、ティアちゃんは返事もなく突如足を払い転ばせる。
直後、木窓をぶち破って黒尽くめの男が家の中へと入ってきた。
家に入り即座に俺に攻撃を行おうとしていたのだろう。だが、ティアちゃんが投げた薬の小瓶が男の前で中身をぶちまけて男の顔にかかった。
薬は刺激がある物だったようで、男は顔を手で押さえてしまった。
そしてその隙にティアちゃんがマチェットを大振りし、脇腹から胴体を切り裂いた。
「くそっ、やはり力が足りんな……! つぇりゃ!!」
だが力が足りなかったのか、胸の真ん中辺りで止まりそれを忌々しそうに見ながら男の腹を蹴りつけて、マチェットを引き抜いた。
けれどその一撃は男の心臓を半ばまで斬っていたようで、床に倒れた男の体はビクンビクンと震えていたがしばらくしたら動かなくなった。
それを見届けていたのか分からないけれど、ティアちゃんは俺に中断した会話を続ける。
「だから今度はこういう感じに直接殺しに来たようだぞ勇者よ」
「え、いや……ちょっと待ってくれよ! どうして殺すのをやめないんだよ!!」
「前のときも止めたか?」
戸惑う俺が叫ぶと、ティアちゃんにそう尋ねられた。
その言葉を聞いて俺は思い出す。
「そういえば……、雇い主が失脚しない限り何度も襲って来ていた」
「だろう? 奴らは雇い主の金さえあれば何度も襲ってくるらしいぞ」
思い出したことに被せるようにティアちゃんは言う。
その言葉を聞きながら、俺はスコーピオの暗殺者の死体を見るが……彼らはいったい何を思っているのだろうか?
「こいつらが何を思っているか、と思ってるだろうが我らに分かるわけが無い。だから今は生き残ることだけを考えろ勇者よ」
「っ! わ、わかった……!」
「よし、では外に出るぞ。今ここでやりあったとしても貴様には不向きで相手には有利だ。だから広い場所に出るぞ」
そう言ってティアちゃんは素早く家の外へと出る。それを追いかけるようにして俺も家の外へと飛び出した。
外へと飛び出し分かったが、村の中は甘い臭いに包まれていて、村人が時折倒れているのが見えた。
だけど人が少なく感じるのは何故だ?
「眠くなった。少し休めば問題ないだろう。そう考えて休んだと考えたほうが良いだろう。人質という無駄な労力はしないらしいからな奴らは」
「なるほど……。じゃあ、倒れている人たちは?」
「体を動かせば眠気は覚める。そう考えた奴らだろうな。……だが、例外は――あるっ!!」
「えっ!? ティアちゃん!? ……え?」
突然ティアちゃんは太ももに巻かれたバンドから投げナイフを抜くと、その一本を倒れている村人に投げ付けた。
その光景に驚き、戸惑いの声を上げた俺だったが、ティアちゃんの投げたナイフは倒れた村人の背中に付き刺さる……ことはなかった。
何故なら、ティアちゃんの投げたナイフが突き刺さるはずだった村人は地面に体を転がし、ナイフを回避すると同時に地面から飛び起きると俺へと短剣を片手に襲いかかってきた!?
「気づかれたか、だが問題はない」
「う、うわっ!?」
突然のことで驚き、俺は後退りをする。が、最悪なことに足を縺れさせてその場で尻餅を突いてしまう。
マズい、立ち上がらないと! 突き刺そうとしている短剣を防がないと!! そう思うが死の恐怖からか立ち上がることが出来ない。
立ち上がれ、避けろ! 頭でそう叫んでいるが体は動かない、しかも突き刺そうとしている短剣は禍々しい色をしているからきっと毒が塗られているだろう。
「――死ね」
「っ!!」
男の口から放たれた冷酷な声と共に短剣は俺を突き刺す……はずだった。
視界がゆっくりと動く中、短剣が握られた男の腕は俺に近付いてくる。同時に男の手首目掛けて黒い軌跡が横から走るのを俺は見た。
直後、短剣を持っていた男の手首が斬り飛ばされ、短剣ごと何処かへと飛んでいき――痛みを堪えながら男が後ろに跳ぼうとした。
だが――、
「――かふっ」
「判断するのが遅かったな。我が獲物を逃がすと思うか?」
何時の間にかもう片方の手に握られたティアちゃんのマチェットは、後ろに跳ぼうとしていた男の胸元に突き刺さっていた。
男は口から血をむせるように吐き出し、ビクビクと体を振るわせる。
それをティアちゃんは溜息を吐きながら一瞥してから、蹴りを入れて刃を抜いていた。
軽くマチェットを振るって血を払ってから、ティアちゃんは俺に手を差し伸べて立ち上がらせた。
「ああいった村人や町人に変装して背後から襲う者たちもいるらしいぞ」
「よ、良く気づけたね?」
「毎日村人に会っていれば分かるものだ」
「そ……そうなんだ」
「ああ、そういうもの――だ!」
言い終わった瞬間、ティアちゃんは手に持っていたマチェットを投げ付けた。
いったい何処に投げたんだ? というか突然どうしたんだ? そんな疑問を抱きながら投げ付けたほうを見ると……黒尽くめの男の脳天にマチェットが突き刺さっていた。
「やはり戦闘の勘が戻りきっていないようだな。完全に安全になるまで気を抜くな」
「あ、ああ、ごめん――っ!」
ティアちゃんに言われ、気が抜けていたことに反省しているとゾクリとした気配を感じ、無意識に剣を振るった。
直後、キィン! という金属と金属がぶつかり合う音、そして両手に衝撃が走った。
そして赤い瞳と目が合った。
「……気づかれた」
「あ、危なかった……! ?」
とても残念そうに赤い瞳をした敵、声からしてティアちゃんと同じ歳ぐらいの少女が残念そうに距離を取る。
けれどまた攻撃を仕掛けてくるかも知れない。そう判断し剣を構える。
ん? なんだか今、首のほうにちくりとした気がしたけど……気のせいか?
「勇者よ、問題はないか?」
「ああ、大丈夫……だけど、本当に危なかった」
「だろうな。だが、その相手は貴様に任せたぞ」
え? それってどう言う?
振りかえろうとした俺だったが、ティアちゃんに止められる。
「振り返るな勇者、隙を見せたら貴様は死ぬぞ」
「っ!! あ、ああ、わかった……!」
「だが我が何をしているのか、気になって仕方ないのだろう。だから言っておく……暗殺者のリーダーと対面した」
そう言ったティアちゃんの声には、何時もの余裕が感じられなかった……。
ティアがメイド修行を始めたのは11歳ぐらいです。
そこから17歳ぐらいまで色々な訓練を積みました。