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第23話 メイドは忙しい日を破壊する。

ブクマありがとうございます。

そろそろバトルさんがアップすると思います。

「行ったか……。ではこちらも始めるとしようか」


 勇者を家から追い出し、当て所なくフラフラと歩き出したのを窓から確認すると、我はカバンを机の上に置くと中から道具を取り出した。

 船の形のように見える薬研、その中に入れた物を粉砕するための薬研車。

 上質な石で創られたそれを机の上にズシンと置き、更に中から数種類の瓶を取り出す。


「治癒効果のある薬草、使い方次第で薬になる危険な毒草、組合せで効果が変わる素材……これで良いだろう」


 名前を出すと危険な植物や生物であるから名前を言わずにそう簡単に言いつつ、我は瓶の中に入っているそれらを見る。

 カバンの中の時間も容量も破壊されているから、最良の状態で保存されたままだ。

 その中身を確認し、我は手袋を取り出しそれをはめ、顔にもマスクを装着する。

 肌に当たると薬効が薄れたり、肌が吸収したりしてマズいからだ。


「本当、そんな人体に危険だとしか言いようが無い素材だと言うのに組合せで人体に無害になるとはな……」


 我が祖父は色々と凄い人物だ。

 胡散臭そうに笑う祖父の姿を思い出しつつ、我は行動を始める。


「まずは薬草を潰し……半分ほど粉にしてから毒草を混ぜる」


 薬研の中へと乾燥した薬草を入れ、薬研車を両手で掴み前へと押すとシャーコシャーコと石と石が擦れる音を立てながら、乾燥した葉は砕けていき、その中に毒々しい色をした見るからに毒草を入れる。

 次に乾燥した滋養強壮に効く茸を混ぜ、砕き粉にしていく。

 興奮作用をもたらす蛇の毒腺、生存本能を無理矢理高めるモンスターの触手、それらを混ぜて砕き粉へと変えていく。


「そして最後に、魂の傷も癒す効果がある霊薬の欠片……」


 それらを粉にし、乳鉢へと移すと……次に瓶の中から個包装された包みを開く。

 キラキラとした透明な砂のように見える物。それを乳鉢の中に移した薬へと混ぜて行く。

 ……結果、見た目は真っ黒でキラキラと光る物が見える薬が誕生した。


「最後にこれを、飲み易いように丸薬にしてからスライムの膜で包み込めば……完成だ」


 薄く青く透き通った粘り気のある液体がある瓶を傾け、丸薬にかけると瑞々しい膜となって丸薬を包みこんだ。

 こうして見た目は薬というよりも、ゼリーと言ったお菓子に見えるような代物が完成した。

 それを万が一のことを考えて2つ分作ると、カバンの中へと入れる。

 そんなとき、それまで作業の邪魔をしてはいけないと思っていたのだろうかウィッシュが語りかけてきた。


『ねー、てぃあー』

『なんだ? 言いたいことでもあるのか?』

『うん、つくったそれって……てぃあが使うの? それとも、ますたぁ?』

『……どうだろうな。万が一、と言ったところだろうし。使わないにこしたことはないと考えている』


 そう我は返事を返すと、言い辛そうにウィッシュが……我の口で語り掛けてきた。


「ほんとうに、いいの? これの効果って……」

「別にいい。貴様のことだからこれを理由に勇者を愛したいと思っているのだろうが、これは創った者が受ける義務だと我は思っている」

「……それで、いいならいいんだけど……てぃあ、ますたぁきらいだよね?」

「なるほど、貴様は勇者が好きでも何でもない我に薬の副作用を受けるのが気に喰わない。ということか?」

「……うん」


 我の口から不安そうにウィッシュが言う。

 ……どうやら言っておくべきだろう。


「ウィッシュよ、言っておくが我は勇者が嫌いだ。だから我を倒した仕返しとして奴の幸せを破壊すると決めた。

 だがな、真に嫌いだった場合は奴のことなど忘れていち村人となっていただろうな」

「え、それって……」

「どう考えるかは貴様の自由だ。さて、奴が昼の準備をしようとするか」


 そう言って我は使っていた道具をカバンの中に入れて、席を立つと調理場へと向かう。

 そんな我へとウィッシュは何も語らなかった。



 ●



「どうだ勇者よ、日中は楽しんだか?」

「あ、ああ、楽しんだけど……その」


 昼、少し遅れて勇者が帰ってきたが、何というか我を申し訳なさそうに見ていた。

 いったいどうしたのかと思っていたが、すぐに答えは出た。


「ごめんティアちゃん! 実は、ラストさんからティアちゃんのことを色々と聞いたんだ」

「……なるほど、だから余所余所しかったのか」

「ああ、ティアちゃんが話したくなかったのは話したくないことだろうって思ってたから申し訳なくて……」

「そうか。我は別に構わんぞ。正直、家族構成などを話しても意味がないだろうしな」


 我がそう言うと勇者は微妙な顔をしていた。

 まあ別に良いだろう。

 そう思いつつ昼食を用意すると、勇者は食べ始めた。

 それを見ながら我も食事を取り……昼は終了した。


 そして昼が過ぎ、時間が経つというのに食器を洗うだけ洗ってから何も行動を起こさない我に疑問を抱いたのか勇者が話しかけてきた。


「ティアちゃん、このあとはどうするんだ? いつも見たいに山を散策したりするのか? それとも運動を?」

「いや、とりあえずこのままだな。ああそれと出来れば外には出ずに家の中でだらだらとしていようではないか」

「え? 良い……のか? だってティアちゃん、昨日までは普通に筋トレだ。剣術の稽古だ。山に食材を探しに行くぞ。とか言ってたじゃないか」


 我の言葉に動揺しながら勇者が尋ねる。

 どうやら酷い感じに思われてしまっているようだ。

 だが一度言った手前、何もしないでおく。それに……山よりもこっちのほうがやり易い(・・・・)だろうからな。


「兎に角、今日は何もしない。だからその間に体を休めておけ」

「あ、ああ、わかった……。それじゃあ、ちょっと眠らせて貰うよ」

「そうしておけ、そのほうが良いだろうしな」


 我の言った言葉に疑問を抱いたのか軽く眉を寄せた勇者だったが、日々の疲れもあったのだろう。

 ベッドに入り、少しすると静かに眠り始めた。

 それを見届けてから、我は換気のために開けていた木窓を閉じた。


「これで目は届かないだろう。……普通の者ならば、な」


 とりあえずはそんな特別な者が居ないだろうと思いつつ、我は椅子に座り……仮眠することにした。

 まあ、すぐに目覚めることが出来るようにしてだがな……すぅ……。

 すぅ……。そうして、われのいしきも……やみのなかへと……おちていった…………。





『――――あ』


 どこかから、こえがきこえた。


『――ぃあ』


 ねむい、このまま、ねむらせてくれ……。


『てぃあ!』

「…………む?」


 声が響き、我の意識は無理矢理覚醒させられた。

 だが、頭はまだぼんやりとしている。いったい、何があったのだ?


『てぃあ、そとがしずかだよ!』

『そと、が……?』


 ウィッシュにいわれるがままに耳を澄ます。すると、外からは村の者たちの声も生活の音もまったく聞こえて来ない。

 いったい何が? そう思っていると、クンと鼻に甘い臭いがするのに気づいた。

 その臭いは外から漂っていて、家の中にも入り込んでいた。


「これは……睡眠薬か?!」


 多分使っているのは山のほうでも採れる眠り草と朦朧茸を使って作った眠らせることだけに特化した薬だ。

 それを粉末状にして固めた物を燃やして、風上から煙と共に流したのだ。

 くそ、その考えは無かった! これは猛獣に対して行う方法だから、考えていなかったのだ。

 そのことに少しばかり悔しいと感じつつ、我はカバンの中から辛味を感じる実を取り出すと口の中へと入れた。


「~~~~~~っっ!!」


 瞬間、口の中が燃え上がったと思えるほどの辛さを感じ……息を吐き出す。

 すると、空気と混ざり合って口の中の辛さは消えて行ったが、眠気は完全に抜けていた。

 とりあえず、勇者にも飲ませよう。

 そう思いつつ、もう一個取り出すとアホみたいに開けられた勇者の口の中へと放り込む。


「~~~~~~っっ!!? ~~~~~~っ!!!」


 直後、辛さが口の中に広がったようで勇者は口を押さえて声にならない悲鳴を上げる。

 けれど目が覚めたようだ。


「目覚めたか勇者よ。とりあえず息を吸って吐け、そうすれば口の中の辛さは抜ける」

「ぜ、ぜひ、ぜひふ……すぅ、はぁ……すぅ、はぁ~~……あ、本当だ。それで、ティアちゃん、いったい何が?」

「簡単に言うと襲撃だ」

「は? しゅ、襲撃?」

「誰が寄越したのかはわかりきっている。そして、狙いは我か貴様だ」


 誰か、というよりもあの王子が送り込んだというのを理解しているので我は堂々と狙いが自分たちだと告げる。

 そして、他の村人たちは眠り薬で眠らされているだろうと考えている。


「殺すのか連れ去るのか、どうなのかはわからんが……我らで対処せねばならんことだ」

「それって、つまり……」

「殺される前に殺せ、ということだ」


 我がそう言うと、勇者はゴクリと唾を呑むのだった。

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