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番外 王子は少女への想いを破壊された。

番外です。

 子供のころ、僕は珍しく母上に連れられて遠くの村へと行った。

 昔、母上と父上が勇者と共に倒したと言う邪悪なる破壊神が滅ぼしたという村と町の近くにつくられた新しい村。

 そこで僕は黒い髪をした天使のような少女に出会った。


「ルフィーネ!」

「姫様!? いえ、王妃様。何故このような辺鄙な場所に?」

「あなたに会いに来たのよ。だって、あなたわたくしに黙ってお城をやめたのですもの」

「それは申し訳ありませんでした。ですが、こちらにも事情がありましたので……」


 いつも何処か遠くを見つめる母上だったが、この村に来た目的である城でメイド長をしていたルフィーネという女性に会った途端、嬉しそうに駆け寄った。

 突然会いに来た母上に驚いたルフィーネは驚いたように母上を見たが、すぐに丁寧に頭を下げた。

 その様子に母上は少しだけ悲しそうな顔をしたけれど、すぐに笑みを作った。


「そうだわルフィーネ! 今日は息子を連れてきたの! トゥモロ、こちらに来なさい」

「は、はい、母上! トゥモロです、お久しぶりですメイド長」

「こちらこそお久しぶりですトゥモロ様」


 彼女のことは良く覚えていないけれど、母上に挨拶するように言われたので挨拶を行う。

 それに対し、彼女も挨拶を返すが見事なカーテシーだと思った。

 さすが城勤めをしてただけのことはあると納得していると、母上がルフィーネへと話しかけた。


「トゥモロ、今からわたくしはルフィーネとお話をしたいのですが、あなたも一緒に居ますか?」

「え? えっと、どれくらい……ですか?」

「そうですね、久しぶりなので色々と話したいので大分かかる……としか言えませんね」

「王妃様もあまり遅くはならないようにしてくださいね? 一応は宿を取っていると思われますが……」

「ええ、わかっています。それでトゥモロはどうします?」

「えっと、それじゃあ……村の中を見ても良いですか?」


 これは長いだろうと予想したので僕がそう言うと、わかったわ。と言って母上は止めること無く僕を見送った。

 ……できれば大丈夫? とか心配だと言って欲しかったのかも知れないが、僕は行ってきますと言って出かけようとした。

 けれどルフィーネが待ったをかけた。


「お待ちくださいトゥモロ様。護衛の騎士が居るにせよ道案内は必要でしょう。ですので――」


 チリリン、とルフィーネは持っていたベルを鳴らした。

 すると、家の奥の扉から少女が一人出てきた。


「お呼びですか、ししょう?」

「ええ、ちょっとこのトゥモロ様に村を案内して欲しいんだけど、いいかい?」

「任せ――いえ、お任せください、ししょう。はじめましてトゥモロさま、このたび村を案内させていただきますティアともうします」


 黒い髪を揺らしながら、少女はルフィーネとまではいかないけれど綺麗なカーテシーを行い、僕たちへと挨拶をした。

 珍しい髪の色、優雅な立ち振舞い、物語で聞いたことがあるような妖精みたいな愛らしい姿、そして何より僕を見た金色の瞳に……胸がどきどきした。


「あ、あのその、よ、よろしく……!」

「はいよろしくお願いします、トゥモロさま。それではまいりましょうか」


 そう言ってティアは僕と護衛の騎士たちとともに村の中を歩いていった。

 アリエスのとくさんであった羊や、その羊の毛を使って織られた生地などといった物。

 タウルスの傭兵たちの訓練風景、騎士たちが驚きの声を上げてるのが聞こえたけれど、そのどれもが僕には入っていなかった。

 僕が捉えているのは、色々と説明を行うティアの姿だけだったから……。

 けれどそんな素敵な時間はすぐに終わりを向かえた。

 一晩騎士たちが用意した宿に泊まり、翌朝に母上と共に宿の前に停留した馬車の前でルフィーネと挨拶を交わしていた。


「久しぶりに話すことが出来て嬉しかったわルフィーネ。でも、決心は変わらないのね……」

「はい、今の私はあの子を一人前にするのが目的ですから」

「わかったわ。……もしそうなったら、彼に…………いえ、なんでもないわ」


 母上はルフィーネに何かを言おうとしていたようだけれど、すぐに悲しい顔をして口を閉ざした。

 ……何を言いたかったのだろう? まあそんなことはどうでもいい。僕がいま気になるのは。


「あの、ティアは? 見送ってくれないの?」

「申し訳ございませんトゥモロ様、ティアは朝の訓練がありますので見送りには来れません」

「そんな! 僕はティアに会いたいんです! だからティアに――「トゥモロ、我侭を言ってはダメよ」」


 僕の願いは母上に却下され、僕は何もティアに会えない悔しさに歯を噛み締めながら馬車の中へと入る。

 そして外では母上がルフィーネに僕のことを謝ってから、また会えることが出来るようにと再会を誓っていた。

 そんな2人の姿をどこか遠くのように思っていると、母上が馬車へと入り……馬車は出発した。

 ガタガタと車輪が走る音が聞こえる中、僕は母上にお願いをした。


「ねえ、母上。お願いがあるんだ」

「……なんですか?」

「僕、ティアがほしいんだ。だから、彼女がいちにんまえのメイドさんになったら、僕にちょうだい」

「それは出来ないわ」

「どうしてっ!?」

「ルフィーネから聞いたのだけど、彼女は自分で仕えるべき人物を決めているらしいわ」


 ティアがほしい、そういったのに手に入らないことに怒る僕へと母上は告げる。

 ティアが仕えたいと言ってる人物のことを。


「あの子は、勇者の世話をしたいと言ってるみたいなの。だから諦めてちょうだい」

「勇者…………」


 勇者、勇者になれば彼女は、ティアは僕の物になるんだ。

 勇者に、なれば……。



 ●



「くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉっ!!」


 苛立ちながら、部屋の調度品に八つ当たりをする。

 鬱憤を晴らすために、僕に気がある貴族の娘も家畜のように汚らしい悲鳴を聞きながら、腰が抜けるまで抱いた。

 僕に仕えるために差し出されたメイドも、婚約者が居るからイヤだ止めてほしいと叫びながら抵抗したが、頬を殴りつけることで黙ったから思う存分抱いた。思う存分子種を与えてやったら、婚約者であろう男の名前を呟きながら謝っていた。

 綺麗に磨き上げられた鏡も、殴りつけたためにヒビが入っている。殴り付けたからだ。

 赤く染められた豪奢なカーテンは引き裂かれたように無様になっている。事実手で引き裂いたからだ。


「ティア、ティア、ティアアアアアアァァァァァァッ!! なんで、なんで、あんな男と……あんな男なんかとぉ!!」


 思い返すだけで奥歯がギリギリと噛み締めたくなり、気がつくと奥歯が砕けていたようで口の中にゴリッとした感触がある。

 プッと吐くと砕けた歯と血が床にこびり付いた。

 けれど痛みは感じない、それほどまでに僕の腹は怒りで煮え繰り返っているのだから。


「ああっ、ああっ、ああくそっ!! 許せない許せない許せない!! ティアを、よくも僕のティアをぉぉぉ!!」


 穢された、穢されてしまった。僕のティアが、僕だけのティアが!!

 あの妖精みたいに細い肢体、サラサラとして綺麗な黒髪、黄金と見間違うほどの金色の瞳! そのどれもがあの男に奪われた!!

 ガスガスと床を踏み、壁を蹴る。物を投げてガラスが割れる。


「彼女が欲しいから、僕は勇者となったのに! それなのに、それなのにぃぃぃぃ!!」


 怒りに満ちた叫びが周囲に木霊しているが、気にしない。それほどまでに怒っているからだ!

 ……が、怒りが頂点に達したのだろう。不意にすぅっと頭が冷めるのを感じた。

 そして妙案が浮かんだ。


「ああそうだ。あの男がいなくなれば、ティアは僕の元に来てくれるに決まってる……」


 きっと彼女はあの男に弱みを握られて脅されているんだ。

 だから、僕に助けてって言ってたんだ。

 そうに決まってる。


「でも僕が助けに行ったら、面倒になるだろうから……あいつらに頼むか」


 ティアに似た雰囲気の女性を味わいたいから一度依頼したあいつら。

 あいつらなら、ティアを自由にしてくれるに違いない。


 待っててねティア、もうすぐキミを自由にしてあげるからさ……!

こう自分の考えが正しいと思う人物って手が負えないですよね。

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