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第19話 メイドと勇者の生活は破壊される。

ブクマありがとうございます。

 邪悪なる破壊神だったことを勇者に告げると、奴は予想が当たってしまったという感情と、信じられない。という感情が篭った瞳で我を見ていた。

 まあ、その感情は分かる。

 この17年間、我が何故このようにして生まれ変わったのかを考えたがまったくわからなかったのだからな。

 そう思いながら、我は勇者を見ていると……奴は震える声で、


「どうして、今になって……」

「言っているだろう。貴様の幸せを破壊するために来たと」


 勇者の言葉に間髪入れずにそう告げる。

 そして、だが……。と付け加える。


「貴様は幸せになどなっておらず、死の未来すら見えたではないか。我を倒したというのにだ」

「それは……」

「だから我は貴様を幸せにしてやるために来たのだ。……まあ、こいつの感情も混ざっていたのだろうがな」


 我の言葉が意味不明だと思っているであろう勇者を見ながら、我は自身の胸に手を当てる。

 こいつ――聖剣ウィッシュの存在を。


「そうだ。ウィッシュは、無事……なのか?」

「ああ、無事だ。今までと同じように我が油断せん限りは何時までも眠り続けるだろうな」

「…………なあ、せめてさ――「ダメだ」」


 何を言おうとしているのか、それを理解しているから即座に勇者の言葉を却下した。

 どうせアレだろう? たまにでも良いからウィッシュに自由を与えてくれとか言うのだろう?

 そう思いながら勇者を見ていると、当たっているようで何も言えないようだった。

 ……だが、そうだな。こいつをだしにするのも良いだろう。


「勇者よ。貴様はウィッシュを表に出したとして、見返りはあるのか?」

「え? 見返り……」

「そうだ。見返りだ。そうだな……。我が求める見返りは」


 我が告げた言葉、その言葉に勇者は「え……? 本当に、それで良いのか?」と間抜けな顔をしながら尋ねる。

 その問い掛けに我は頷くと、勇者は――頷いたのだった。



 ●



 日の光が大地を照らし始める中、村の外周を走る影が2つ。

 その内のひとつは当たり前の如く我で、もうひとつはといえば……。


「ぜ、ぜぇ……ぜえ~~……!」

「遅い! もう少しスピードを上げろ勇者よ!」

「わ、わかってるけど……こっちはもう40間近なんだよ!」

「我の父もそれぐらいだが、全身鎧を着て全力疾走をしても平気だぞ!!」

「そ、そんなこと、いったって……ぜぇ……!」


 先を走る我はその場で脚を動かしながら勇者を待つ。

 ちなみにメイド服ではなく、動き易い半袖短パンという格好だ。ちなみに勇者もそれに近い格好である。

 そんな勇者は息を絶え絶えにしながら、悪態を吐きつつもフラフラとした足取りだ。……けれどその足は止めることが無い。

 近付いてくる勇者を見ていると、自然と口が開き、言葉が洩れた。


「ますたぁ、がんばってー♪ ――む、むぅ」


 洩れ出した言葉に我はすぐに苦虫を噛み潰したような顔をする。

 当然だ。洩れ出た言葉は我が思ったものではないのだから。


『貴様、共存を許したからと言って、勝手に喋るのはどう言うつもりだ?』

『ふんだ。てぃあがますたぁをいじめるからわるいの!』


 聞こえてくる声はぷんすかと怒っているような気配を感じる。

 だからその言葉に返事を返す。


『そうかそうか、ならばまた我の中で眠るか?』

『そうしたら、ますたぁとのやくそくをやぶることになるんでしょ?』

『……くそっ、数日しか経っていないのに知恵がついてきたな』

『とーぜんだよ! いろんなものをみれるようになってるからね!』


 そのドヤっとした声を聞きながら、我は溜息を吐く。

 いやまあ、同じ物を見せるぐらいと思ってしまった我も我なのだが……。

 そう思いつつ、勇者が追い付くとまた走り始める。


「さあ勇者よ、早く付いてくるが良い!」

「ま、まって、すこし……すこしやすませて……!」

「待たん。頑張って走って、体に溜まった汗を流すがよい!!」


 息絶え絶えの勇者を叱咤し、我は駆ける。

 そんな我に追い付こうとしているのか、必死に勇者は舌を垂らしながら汗だくの顔を見せる。

 それがここ数日の始まりだった。


「ぜひー……! ぜひーー……!!」

「まったく、不甲斐無いな勇者よ。衰えを見せているという理由もあるのだろうが、酒に溺れていたというのも理由だろうな」


 家の裏、ここ最近我が早朝訓練を行っている場所で勇者は汗だくになりながら、地面に倒れこんでいた。

 ちなみに胸が上下し、家畜みたいな鳴き声をあげているが気にしないでやろう。

 そう思いながら、我はカップに水を入れて飲み干し水分を回復させる。


「ふう、美味いな」

「テ、ティア、ぜひ……ちゃ、お……れにも、み……じゅぅ……!」

「ならば起き上がるがよい勇者よ」

「こ、れいじょう……うごけ、ない……」


 どうやらすぐに運動するように言っているように見えたようだ。

 そこまで言うならやってやろうか? そう思っていたが、ウィッシュの奴が訂正を口にした。


「ちがうよますたぁ。ねころんだままのんだら、のどつまっちゃうからおきないとあぶないよ」

「あ、あぁ、なるほど……。よい、っしょ……っと」


 ウィッシュの言葉を聞いてようやく理解したようで、勇者は体を起き上がらせる。

 それを見届けてから、手に持ったカップに水をすくうと差し出した。


「さあ、飲むが良い勇者よ」

「え? あ、ああ、えと、本当に……良いのか?」

「別に構わん。だがどうしたのだ、うろたえた声など出して」


 差し出したカップを前にオロオロする勇者を見ながら我は首を傾げる。

 ……回し飲みを気にしているのだろうか? 別に気にしなくても良いだろう?

 どうするべきか、飲むべきか飲まないべきか。そんな風に悩む勇者を見ていると、決意したのか奴は我からカップを貰うとそれに口を付けて喉を鳴らしながら水を飲む。


「んぐ、んぐ……! ぷはぁ!! ぃ、生き返ったぁ……!」

「そうか。だが飲むのはもう一杯だけだぞ? それが終われば続きを始めるのだからな」

「う……っ。わ、わかったよ……」


 顔を顰めながら勇者は返事を返し、我にカップを出したのでもう一杯水を入れると、勇者は即座に飲み干した。

 それを見届け、手拭いを投げ付けると勇者はそれで顔の汗を拭っていく。

 そして我は脇に置いていた物を勇者に渡すと自らも同じ物を持つ。


「あまり痛くしないでくれよ?」

「何を言っている。痛くしないと練習とは言わないだろう」

「けどなあ……って、うおっ!?」


 無駄口を叩く勇者へと我は握り締めた物――木剣を勇者に向けて振るう。

 咄嗟のことだったが、なんとかついてきたのか? それとも無意識に上げた木剣が当たったのかは分からない。

 けれど、カァーーンと木独特の音が響き渡る。

 手から腕に木剣の衝撃が伝わると共に、手を引き二撃目へと移る。


「さあ、次々行くぞ勇者よ! はあっ!!」

「くそっ、いきなり過ぎるだろう!?」

「当たり前だ! 戦いの中で攻撃しますよー、などと言う馬鹿が何処にいる!?」

「それもそうだなぁ!!」


 我の言葉に返事を返しながら、我の打ち込む木剣を勇者はなんとか防ぐ。

 一拍置きながら木剣を横から、上から、斜め下から、斜め上から、下からと当たればただではすまない威力の一撃を放っていくが、勇者はその一撃一撃を木剣で弾き、防いで行く。時折、腕が下がってあと少しで当たりそうになるが、特に問題は無い。

 この訓練を開始して数日が経っているからか、当初と比べて勇者は我の木剣を自らの木剣で弾いたり防いだりする回数が段々と増えてきていた。……やはり昔の経験が少しは残っているのだろうな。

 そう思いながら、微かに口の端を上げると握り締めた柄に力を込める。


「この速度は大丈夫なようだな? ならば一段上げるぞ?」

「ちょ!? これでも精一杯なんだけどぉ!? それ以上上げると――いてぇっ!! ふげっ!!」


 木剣を振るう速度を一段階上げた。その瞬間、一拍置いて振るう木剣は横振りを行うと共に腕を回し反対側のがら空きの胴体へと打ち込む。

 その速度についていけなかった勇者は、木剣を握る腕に我の木剣が当たり……木剣が落ちた。そしてその直後に反対側の脇腹へと木剣の一撃が当たった。

 当たった所が痛かったのか、勇者はその場で脇腹を押さえて倒れ込む。


「うぅ……ちょっと、待って。ちょっとまってくれ……」

「はあ、情けないぞ勇者よ。今の速さが追い付かないのは仕方ないとしても、これは速さを重視したから威力は少ないのだぞ」

「そ、そうは言っても、痛いものは痛いんだよ……!」


 痛みを堪えているのか、息絶え絶えに話す勇者を見つつ……やはり人間は脆いものだと再認識してしまう。

 とか思っていると、心の中でウィッシュの怒った声が聞こえ始めた。


『ひどいよてぃあ! ますたぁいたがってる!』

『これでも加減はしているぞ。貴様も我の中で見ていたのなら、父を含めたタウルスの連中との訓練を知っているのだろう?』

『それはそうだけど……、でもでもますたぁいたがってるよ!』

『酒に溺れる姿よりもマシだろう?』


 我のその言葉で何も言えなくなったのか、ウィッシュは口を閉ざした。

 ……ちなみにタウルスの訓練は殴る蹴るは当たり前だったし、骨を折るなど日常茶飯事だった。

 そして我の骨を折ったり傷を付けた団員は、理不尽だろうが父に同じ目に遭わされていた。本当に理不尽だな。

 そんな昔のことを思い出していたが、勇者はまだ起き上がらない。


「勇者よ。痛みを鈍くする危険なクスリでも飲むか? もしくは痛みを堪えて起き上がれ」

「わ、わかった……よ」


 我の言葉に勇者は脇腹を押さえながらフラフラと立ち上がる。

 それを見ながら、我は満足する。

 というか、クスリなんぞに頼ってしまってたら我は勇者を軽蔑していただろうな。


「さて、では続きを……といきたいが、腕が上がらないようだな。ならば、腹筋を鍛えるようにするか」

「た、助かった。って言えば良いのか、どうなんだろうか……」


 安堵するも何処か嫌な予感を感じている勇者を見ているが、それは正解だ。

 何故なら上体起こしを100回を休憩挟んで2回だからな。しかもちゃんと頭を前まで出さないとカウントしない。


「では腿を持ってやるから、ちゃんと起き上がるように」

「分かったよ。……っふ! んっ、っく~~~~……っ!!」


 プルプルと腹を動かしながら、勇者は起き上がろうと頑張る。

 だが、腹に力が入らないのか、まったく起き上がることが出来ていない。

 それを見ている我だったが、不意にこの村では聞き慣れない車輪の音に気づいた。

 ……何か厄介ごとでも起きるのだろうか、そう思いながら小さく息を吐いた。


 そしてその予感が当たりだというように、村の中を馬の蹄の音が響き……同時に眠る者を叩き起こすように鐘の音が鳴り響いたのだった。

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