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第1話 勇者は幸せな未来を破壊され、呑んだくれた。

『『『ありがとう、勇者様ーー!』』』

『『『僧侶様は我らの誇りだーーーーっ!!』』』

『『『姫様ーー、今日もお美しい~~~~!!』』』


 最高神様によって元の世界へと返された俺たちの存在は各国へと伝えられ、凱旋パレードを何処彼処でも行われた。

 かつて旅をするときに寄った町、都市、王都、帝都。

 そんな様々な国で俺、ホープ、ライクは手を振り、笑顔を向けた。

 そんな俺たちへと人々は声を上げ喜び、手を振り返す。

 各国を巡り、最後にはライクの故郷であり、俺の故郷でもあるヴァルゴ王国へと帰ってきた。

 ……だがそんな俺たち……いや、俺へと最悪な出来事が待っていた。


 ――――ライクの妊娠。


 俺は戦いが終わるまではライクとはそういう行為をするつもりはなかった。

 それなのに、ライクは妊娠したのだ。

 そのことに王様も混乱したし、俺も混乱した。

 けれど理由はすぐに明らかとなった。


「す、すみません……。たった一度、たった一度と思い僕が、ライク姫様と一夜を共にしました……」

「ごめんなさい……。ごめんなさい、ブレイブ……本当に、本当にごめんなさい…………!!」


 思い切り頭を下げるホープ、泣きながら俺に謝るライク……その2人を俺は呆然と見ながら、何かが終わってしまったと理解した……。

 出来ることならホープを殴りつけ、ライクを叱咤したかった。だけど、俺は何も言うことが出来なかった……。

 そして、何も出来ないまま……俺はふらふらと、ひとり故郷へと帰った。

 年老いた両親は、俺の表情を見て何かあったのを理解したようだけれど、何も訊ねて来なかった。

 それから暫くして、城から大量の貨幣などが贈られ、爵位が贈られ、この周辺の領主にもされた。

 多分だが……俺への謝罪も込められているのかも知れない。

 そう思いながら、ライクたちのことを忘れようと俺は我武者羅に周辺の整備を行った。


 半年が過ぎ、周辺を根城にしていた野盗を駆逐した。

 とはいっても殺してはいない、ボコボコにして衛兵に突き出しただけだ。


 1年が過ぎ、領主の館として俺の新しい家が出来た。

 そこに両親たちと暮らすようになり、幾つか空いた部屋に信頼出来ると思う文官を住み込ませた。

 同時に王都のほうでホープとライクが子供が出来たことを機に結婚したことが、掲示された。

 産まれた子供の名前は、トゥモロと名付けられたとのことだ。


 ……この頃から良く酒を呑むようになった。



 それから5年が過ぎ、周辺の街道を石畳にすることが出来た。

 これによって商人や旅人、馬車が行き来し易くなった。

 そしてヴァルゴ王国が宗教国家アクエリアスと同盟を結んだことが知らされた。

 当たり前だ。ホープはそこの大司教の孫のひとりなのだからな……。


 ……酒の呑みかたが異常ではないかと両親が心配そうに言うようになった。

 分かっているけれど、止められないのだ。こうすることで何か紛らわせるのだから……。


 そういえばここ最近は剣を振るっていない。



 ……10年が過ぎた。

 俺は殆どの政務を文官たちに任せるようになった。

 この頃から文官たちは俺を何とも言えない目で見るようになった。


 …………両親が死んだ。

 どうやら寿命だったようで、父が亡くなると後を追うようにして母も死んだ。

 そのとき、俺は久しぶりに泣いた。


 この辺りから酒を呑み続けて、よく吐くようになった。

 なのに酒を手放すことが出来ない……。

 しかも手先が震えて剣はもう握ることが出来なかった。



 それから半年が過ぎ、俺は領主から外された。

 そして、勇者という役職も剥奪された……。

 『のんだくれ』が勇者であるのは不名誉なことらしい。

 新しい勇者として、あいつらの子供であるトゥモロがアクエリアスで選ばれたらしい。

 それを侮蔑するように文官だった奴らが俺に言う。

 どうやらもう愛想をつかしているようだ。


「これが勇者だった男の末路かよ……ははっ」


 などと自分を笑いながら、俺はかつて住んでいた家の中で酒の瓶に口を付けて一気に煽った。

 ……今の俺には、酒だけが唯一の救いだった。

 酒は、俺を裏切ったりなんかしないのだから…………。



 ●



 ――ドンドンドンッ! ガンガンガンッ!!


「んっ、んん……? なんだぁ…………?」


 ガンガンと叩かれる音、その音に俺は起こされ……ムクリと起き上がる。

 手が恋人の息子も起き上がるけれど、とりあえず気にしない。


「ふぁああ…………誰だよいったい……」


 汚れ切った寝巻きのズボンに手を突っ込んでぼりぼりと尻を掻きながら、豪快な欠伸と共に音がした入口の扉へと向かう。

 というか、こんな家に何の用だよ? 城の兵士か? いや、もうそれは無いか……元勇者に立場なんて無いんだからさ……。

 そう思いながら、扉を開けると…………少女が立っていた。それも、美が付く少女がだ。

 黒く長い美しい髪、幼い顔立ちながら何処か威圧感を感じる表情、そして俺を見据える金色の瞳……。

 いったい、こんな美少女が俺の家に何の用だ……?


「ふん、やっと出たか。勇者よ、出るのが些か遅いぞ!」

「え、あ、え、えぇ?」


 美少女が口を開けると鈴のように綺麗な声が出たが……その言葉は物凄く高圧的だった。

 それに俺は驚き、間抜けな声を出した。

 だが更に驚くことが起きたのだ。


「まあいい、出たのならさっさと我を中に入れよ。どうした、返事が無いぞ?」

「…………や、いや、ちょっと待って、ちょっと待ってくれ……」

「いいや待たん。我はとっとと休みたいのだ。だから勝手に入らせて貰おう」

「なっ!? ちょ、おいっ!!」


 俺が止めるのも聞かずに美少女はズカズカと家の中へと入っていく。

 そして、室内に転がる大量の酒瓶と異臭に顔を顰めているようだった。


「……これは汚いな。貴様、掃除をしたのは何時だ……?」


 ぎろり、と美少女の金色の瞳が俺を射抜く。

 くっ、な、なんだ……この威圧は……? 落ちぶれてしまった上にのんだくれているけど、歴戦の勇士だぞ俺は!

 その上、この美少女はどう見ても10代だろう!? 俺とは20近く歳は離れているはずだ!


「答えろ……掃除をしたのは何時だ?」

「…………に、二ヶ月前だ」


 射抜くような視線に耐え切れず、俺はそう言う……。

 すると美少女は、顔を下に向けた。

 ……あまりの汚さに、泣いてしまったのだろうか? 

 そう思っていると、プルプルと肩を震わせているのに気づいた。


「ク、クク、クハハハハハッ!! これは、これは破壊(・・)し甲斐があるではないかっ!!」

「は?」

「勇者よ、我は今からこの部屋の汚れを破壊する! だから貴様は出て行ってもらおうかっ!!」

「え、ええ?」


 高笑いしながら、美少女は羽織っていた外套を外す。

 すると、下に着ていた服――メイド服と呼ばれる給仕を行う者が着る服が露わとなった。


「メイド……?」

「そうだ。我は貴様の元に派遣されたメイドだ! 覚悟するが良い勇者よ。これから我が貴様のありとあらゆるものを破壊し尽くしてやろうではないかっ!! 覚悟するがいいっ!!」


 そう言ってメイド美少女は高笑いをするのだった……。

2話目は速めにがんばります。

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