第14話 メイドは山賊団を破壊する。
ちょっと流血多めです。
ひとり、ふたり……勇者ともうひとりを取り囲んでるのは9人か。
これで全部、とは言わないだろう。
もしくは狩りの邪魔をしてきたあれらが仲間だったのだろうか?
まあ、もういないもののことなど気にする必要はないな。
っと、そういえば、狩った物を早く処理しなければならないのだったな。速く処理をしないと肉が駄目になるからな。
「仕方ない。ならば巻きで行かせてもらおうか」
そう呟きながら、我はナイフ片手にスタスタ勇者たちの下へと近付く。
こいつらなど投げ付けられたナイフで十分だろうしな。
そして我の近付く方向で何かに気づいたのか、男たちは下卑た笑みを浮かべた。
「おいおい元勇者よお、このメイドはお前に関わりがある人物みたいだなあ? よし、お前ら! 元勇者を八つ裂きにする前に見せしめだっ! この女を犯すぞ!!」
「「よっしゃーーーーっ!! 貧相だけど久しぶりの女だーーーーっ!!」」
「っ! や、やめろっ! ティアちゃん、にげ――ぐうっ!!」
男たちはげらげら笑い、手をワキワキさせながら我を見る。
きっと頭の中では我を集団で襲いかかって、動けない状態にして泣き叫ぶ中で愉しく愉しく凌辱するイメージでもしているのだろう。馬鹿だな。
そして地面に倒れた勇者も近い物を想像したのか我に向けて叫ぼうとしていた。だが、ナイフを投げてきた男に腹を踏まれ息が出来なくなったようだった。
……おい、勇者にこういうことをするのは我だけなのだぞ? 貴様がやって良いものではないのだぞ?
そんなことを思うと腹の奥がムカムカし始めた。
この怒りを発散させて貰おうか?
「へへへっ、それじゃあ一発目はおれから行かせてもらうぜー! いっただきま~~――――あぺ?」
そんなムカムカが込み上げる我へと男の一人が飛び出してきた。
こんな少女に武器も必要は無いだろうし、力づくで押し倒せば良いだろうと思ってるようだ。
なので、素早く腕を振るい……手に持ったナイフを使って飛び出してきた男の口の辺りで横に走らせる。
全然研がれていないナイフは切れ味が悪く、走らせたナイフは僅かな抵抗を感じさせながら男の頬肉を断ち切った。
それでも何が起きたのかは男たちには分からなかったようで、間抜けな声を上げた男の口はだらりと大きく裂け……でろんと裂かれた口の下が自らの重さに耐え切れずに垂れると、血が噴出し始めた。
「あぺ!? おべ、あごご? あごぁ!?」
「なぁっ!? て、てめぇ、何しやがる!!」
「ほう、では聞くが貴様らは我に何をしようとしていた? 犯すのだろう? 止めてと叫ぶ我を凌辱するつもりなのだろう? ならば返り討ちに遭っても文句は言えまい?」
大きく裂けた顎を必死に戻そうと両手を口に当てる男を見ながら、我に文句を言って来た男に言う。
その言葉にうっ、とそいつは口篭った。だがすぐに――。
「う、うるせえ! 手前らはおれらの獲物なんだよ! だから諦めてヤられろ!!」
「おい、一人だったから失敗したんだ。一斉に襲えば捕まえられるだろ!!」
「手足が無くっても体が無事だったらおれたちは満足だ!! 穴は3つあるんだからよお!!」
叫ぶや否や、男たちは我を囲み武器を構えた。
構えた武器は手入れが甘いようで、どれも錆びたり刃が欠けたりしている。酷い物では柄が外れそうな物さえもある。
しかもまともな訓練を行っていないのが分かるような武器の構えだった。多分街中のケンカで鍛えていったとかいう感じだな?
そんな男たちの滑稽な姿を見ながら、我は口の端を歪める。
「ククッ、こうなったか。ならば、我も遊んでやろうではないか」
愉しそうに呟き、ナイフの柄に袖口から垂らした糸を片手で素早く括り付けると我は周りを見る。
我を囲むようにして4人。周りに入りきれない者が2人……、離れている者2人は弓を構えているな。魔法使いの類はいないようだな。
そう思いながら、男たちの配置を見終えた我はその場で立つと軽く腕を振るい……引いた。
いったい何をしているのか分からない行動、だがそれは意味があった。
「なんだぁ? 今の行動?」
「知るかよ、とっとと襲うぞ!」
「う、うわあっ!!」
「あん? いったいどうし――なぁ!?」
後ろから驚きの声を上がり、戦場だというのに奴らはそっちを見た。
瞬間、彼らは弓を構えていた男のひとりの首から血が噴出して倒れているのを見た。
何が起きたのか、それが分からず彼らは戸惑いの声を上げ始める。
「おい、何があった!?」
「ナ、ナイフ、ナイフが、あいつの首に突き刺さって、すぐに戻されて!!」
「ナ、ナイフ……? っ!!」
混乱するもう一人の弓使いの声を聞いて、戸惑った男たちだったが内2人は何かに気づいたようで我を見た。
正確にいうと、我の手に握られたナイフ。その先から滴り落ちる赤い雫を。
「て、てめぇ……! 何しやがる!!」
「何というと、ただの駆除だが? そしてこれは始まりだぞ?」
「ふ、ふざけやがって!! 死にやがれ!!」
「馬鹿、勝手に動くんじゃねえ!!」
ニヤリと笑う我に逆上したのか、我に向かって質の悪い大斧を振り被り襲いかかってきた。
仲間が制止する中で、我は襲いかかる男へと平然と歩き……ギリギリのところで大斧を避ける。
「あ――――、いぎぃ!? いぎゃああああああ――ふげ!?」
そして、我の笑みを見た瞬間に男の前に突き出された腕へとナイフを突き刺す。
汚らしい悲鳴が男の口から洩れたので、五月蝿いと思い黙らせるためにがら空きの腹へと膝蹴りを見舞う。
それで昏倒したのか、大斧の男はその場で倒れた。
「っ!! てめえ、よくも!! お前ら、もう殺せ! 死んでも使えるものは使えるんだ! というよりも絞まりがよくなるに違いねえ!!」
「「それもそうだなぁ!!」」
「ってことで、死ねやーーーー!!」
激昂する男に続き、叫びながら下卑た笑いを浮かべて我に近かった5人の男たちが一斉に襲いかかって来る。
しかも知恵はあるようで、四方八方から武器を振り被って襲ってきた。
この切れ味の悪いナイフで一度に行うのは無理だな。……しかたない、本来の獲物を使うか。
そう思いながら、我はナイフを逆手で構え直すと同時に、空いた手を背中に回して隠していた本来の獲物を掴む。
直後、男たちの殺意の込められた武器が我へと放たれ、血が噴出した。
そして、少しすると……地面に赤い水溜まりが作られて、それを見た勇者の叫び声が木霊した。
「ティ、ティアちゃん!! ティアちゃんっ!! ――っぐぅ!!」
「ああくそっ! 頭が悪い上に乳は無いけど見た目だけはいい女だったってのに勿体無いことしたな……。おい、さっさとこいつ殺してアジトに帰るぞ!! おい、聞いているのか!?」
苛立たしげに勇者を踏んでいた男が男たちに声をかける。
だが、当たり前のように男たちからの返事はない。その様子に訝しんだ男が距離を取っていた弓使いに顎で我を襲った男たちに声をかけるように指示する。
弓使いは戸惑いつつも、恐る恐る男たちの下へと近付き……近くに立つ男の肩を叩く。
「お、おい、頭が怒ってるぞ。早く返事しろよ? おい、聞いて――――ひぃ!?」
――ズ、ズルッ、ボトン……。ボト、ボト、ボトン……。
音をつけるならばこんな感じだろう。
弓使いが肩に手を置いたのを皮切りに、滑るようにして男の首がズレ……落ちた。
それが始まりであり、残り4人の男の首も同じように滑って地面へと落ちていく。そして、遅れて彼らの斬られた首元から血が噴出した。
まるでその光景は一種の地獄だろうが、そんなことは知ったことではない。
「な、なんだ!? いったい、いったい何が起きた!?」
「た、たた、助けて! 助けてくれ、頭ぁ! かし――あ?」
そう思いながら、我は男たちの生臭い血の臭いがする中からその場で腰を抜かした弓使いの脚を獲物で突き刺した。
吸い込まれるようにして脚に突き刺さった物が何なのか分からず、弓使いは間抜けな声を出した。
だがそこで弓使いは見て気づいただろう。自分の脚に突き刺さっているのは、黒い刀身だということを。
「え? なん、脚、刺さって――ぃぎああああああああ!!?」
戸惑う弓使いの脚に突き刺した刀身を手で捻り、横から縦に方向を動かした瞬間パキリと骨が砕ける感触が手に伝わった。
痛みに耐えれなかった弓使いの口から無様な悲鳴が上がり、我は笑みを浮かべながら腕を上にあげる。
スッと刀身は弓使いの肉と骨を切りながら上にあがる。
「クククッ、痛いか? 良いではないか、生きているのだからな」
男たちの死体の中で笑みを浮かべながら、我は言う。
きっと弓使いの男には化け物のように見えるだろう、よかったな。我は化け物ではなく破壊神だぞ?
「くそっ! いったい何だこのメイドはぁ!?」
そんな狂気染みた光景にようやく勇者の前に居た男が、剣を抜いて弓使いを助けるべく飛びかかってきた。
なので我は弓使いの片脚を開きにしてから、飛びかかり振り下ろしてきた男の剣を受け止めた。
受け止められたことに男は驚愕していたが、きっと弾き飛ばすとか考えていたのだろうな?
そう考えながら、我は男たちの首無し死体5体分を蹴り飛ばし姿を現した。
「勇者よ、無事か?」
「っ!? あ、ああ……、ぶじ、といえばぶじ……だけ、ど……」
「そうか。ならばその場でジッとしていろ。命が惜しければ、な」
ちらり、と勇者を見ると我の姿に怯えたのかビクリと震えている。……たかが血塗れになっているだけだから怖がるな。
そう思いつつ、視線をチラリと下に向けて血塗れのメイド服を見てから、獲物を握る手に力を入れる。
すると拮抗していた男の剣の刀身へと我の獲物は沈み始めて行く。
「なっ!? て、鉄を切る!? ふざけてるのか!!」
「ふざけてなどおらん。貴様に絶望を抱かせてやろうと思っているだけだ」
「くそっ、何なんだよ。何なんだよ、てめえも、そのマチェットもよお!!」
戸惑う男の叫びを聞きながら、我の獲物である無骨な黒い刀身のマチェットは男の剣の刀身を中程で切り飛ばした。
そして迫り来るマチェットの刀身をギリギリで回避しようとした男だったが、回避し切れずかすった。
結果、肩口から胸の当たりまで服と共に皮膚も斬られた男の体からブシュッと血を噴出した。
「あ――――あが……っ?」
更に切り飛ばされた男の剣の刀身は、開かれた脚の痛みに悶え苦しむ弓使いの脳天に綺麗に突き刺さり、奴は痛みから開放されたのか永遠の眠りにつくために地面に倒れた。
それを見た男が叫びながら我を睨み付ける。
「なっ!! くそっ、くそっ!! よくも、よくもオレの子分たちを! よくも!!」
「子分? 違うだろう、貴様にとって、そいつらはただのコマだったのだろう?」
「くそがぁ! 死ねよ!!」
我の言葉が正しかったのか、男は怒りに身を任せて中程で斬られた剣を両手で握り、我に向けて全力で振り下ろしてくる。
なので、我は剣を振り下ろそうとしていた男の両腕目掛けてマチェットを振るった。
振るったマチェットの刀身が男の右腕を力も入れずに切り取ると、その勢いのまま左腕も切り落とした。
だが一瞬のことだったからか、男が剣を振り下ろしたときにようやく両腕が無くなっていることに気づいたようだった。
「は……? あ、あ? オ、オレ、オレの……腕、うでええええええええええっ!!!?」
理解し、痛みが駆け抜けたのか男の口から悲鳴が紡がれ、血が噴出す。
男は無くなった腕を必死に見ているが、生えるわけが無い。
噴出した血を被り、赤く染まっていく男を見ながら、我は男へと近付く。
「あ……あ、ばけ、……もの」
ザリッと土を踏む音でようやく我に気づいたのか、赤く染まった男は愕然とした様子で我を見る。
そして、震える声で思ったことを呟いたようだった。けれど瞳に映るのは恐怖、恐怖、恐怖のみ。
「なんとでも言うが良い。これが最後なのだからな」
「ま、待てっ! ティアちゃん――――!!」
そう言って、マチェットの刀身を恐怖を抱く男の首に当てると躊躇いもなく引いた。
直前に勇者が止めるような声をかけてきたが、無視をした。
そして、切られた男の首から血が噴出し、その血を被りながら我は――笑っていた。
この世界、命の価値は低いのですよ。