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第13話 勇者は破壊されかける。

おまたせしました。

ブクマありがとうございます。感想ありがとうございます。

「はぁ! はぁ……っ。はぁ、はぁ……はぁっ!!」


 放たれる殺意にバクバクと胸が鳴り響き、迫り来る死の恐怖にガチガチと歯が鳴る。

 両手が握り締めた錆びついたの剣の重さに耐え切れず今にも落ちてしまいそうだ。いや、実際にはもう落ち始めている。

 そんな俺を馬鹿にするように目の前の男は、俺を見ながら手にしたナイフを弄びながら嘲笑う。

 正直戦闘中にしてはいけないであろう行為だろうが、相手にとって俺の今の実力はこんな物だと言っているのだった。


「おいおいおい、どうしたんだ勇者様よぉ? いや、もう勇者じゃないんだよなあ?! ギャハハッハハハッ!!」

「「ギャハハハハハハハハハーーーーッ!!!」」

「く、くそ……!」


 なんで、なんでこんなことに……? どうしてこんなことになってしまったんだよ!?

 というか……ティアちゃん、ティアちゃんは無事なのかっ!?

 焦りが募り、頭の中でどうするべきか、どう動くべきだと悩みすぎて視界が歪む。


「おいおい、なに余所見してるんだよ? ――――死ぬぜ?」

「っ!!? っくぅ――!!」


 凍えるような冷たい声にハッとした瞬間、男のナイフが迫った。

 急いで剣を動かしナイフの軌道を逸らす。

 キャリィ! とナイフと錆びた剣がぶつかり合い、錆を周囲に散らしながらも致命傷を避けることが出来た。

 ……いや、違う。出来たわけじゃない。遊ばれていたんだ。


「お? その顔、ようやく気づいたのか?」

「よ、ようやく……?」

「ギャハハハハッ、当たり前だろ?! 全然剣を振るってない上にのんだくれたてめぇなんか、オレが本気出したら一発で心臓を貫けるんだぜ?」


 ゲラゲラと男は笑いながら、俺を指差しながらバカにする。

 けど、それは冗談なんかじゃないと理解出来た。

 そんな俺を更にバカにするように、俺たちを取り囲む山賊が笑う。

 その笑いに悔しさが込み上がり、唇を噛む。

 だけど、目の前の山賊の言うようにそれほどまでに俺は体力も技術も落ちているのだから……!


「けどま、気づいたのならすげえ屈辱味わってるよな? んじゃあ、もう一段上げるぜえ? 死ぬなよ?」

「っ!? は、速っ!? ぐっ――け、剣が!? ぐああああああああっ!!?」


 ケタケタ笑いながら男はナイフを素早く振り被ると、大振りで俺に振るってきた。

 攻撃が来ると察することが、いや教えられた俺はナイフが来るほうに向けて剣を構えた。――直後、ナイフで剣は弾き飛ばされ、両手が衝撃で痺れ……弾き飛ばされた剣も限界だったのか刀身の中程から折れた。

 それを皮切りに男の猛攻は始まった。

 男の腕が連続的に前後し、規則性がないようにブンブンと振り回される。

 しかも振り回される一撃一撃は殺さないけれど痛みを与えることを目的としているのかナイフで体を突き刺すことはせず、薄く何度も腕や顔、体の皮を切り裂くようにナイフを走らせていた。

 切られた箇所から血が零れ始めているのか、熱い痛みが走り……情けなくも悲鳴が上がる。

 こんな傷、昔なら普通だった。だけど、最近は手が荒れたぐらいしか痛みが無かった。


「おいおいおいおいおい、これっぽちの攻撃も避けられないってなんだぁ?! しかも皮膚切っただけだろぉ!? それなのに痛いってのかあ!!」

「く、くそっ! くそぉ!!」


 痛い、情けない、どうして、どうしてこうなったんだ?

 目の前の男――山賊の頭が悪いのか? 違う、そうじゃない。

 悪いのは俺だ。酒に溺れすぎていた……俺だ。


「ぐあっ!!」

「もう終わりか? だったら、死ねよ! あいつらのようによお!!」


 悔しさに唇を噛み締め、知らず知らずと涙が溢れ、滲んだ視界の中……疲れ切った体は地面に救われ、背中から倒れた。

 痛い、そう思う間も無く、山賊の頭のナイフは倒れた俺の心臓目掛けて放たれた。


「――――ひぃ!!」


 口から絞り出すような悲鳴が洩れ、耐え切れず俺はギュッと目を閉じた。


 ――そして。



 ●



「勇者よ! ちょっと山に行きたいのだが良いか?」

「んぁ……?」


 昨晩、ムラムラが耐え切れず一人でやるだけやってスッキリした俺は気持ち良く眠れた。

 そしてバンという音が聞こえ、ズカズカと近付く音が聞こえ……ティアちゃんの声が俺の耳に届いた。

 寝惚けながら、何を言ってるのか理解出来ない俺は適当に頷く。

 それを見てるのか、ティアちゃんのはぁ……と言う溜息が聞こえた気がした。


「貴様、まだ寝惚けているのだな? 仕方ない、書置きと村長夫人からいただいた朝食を置いておくぞ?」

「お~~ぅ……」


 なにか、ティアちゃんが、いってるけれど……ねむいから、ききとれない。


 そう思いつつ、窓から差し込む温かい陽射しを感じながら俺は夢の世界へと向かう。

 ……机のほうでもぞもぞと動く音が聞こえたけれど、気にせず……眠った。

 …………ぐう。


「ふぁ、ふぁああ、ああ~~~~……。良く寝た……」


 大きな欠伸をしながら、俺はベッドから起き上がる。

 すると、シーツで封じられていた独特のにおいが届き、顔を顰めた。


「うへ、臭いな。少しやりすぎたか? あれ、ティアちゃん?」


 呟きつつ、体を起こし位置を正すと肌に張り付いた毛がべりべり剥がれる感触。

 その感覚をちょっと痛いと思いつつ、周囲を見るけれどティアちゃんが居ない。

 掃除をしているわけでもない? 洗濯……はあまり無いと思うから違うだろう。

 いったい何処に、と思いながら周囲を見ると机の上に木皿に乗せられたパンと書置きがあった。


「これは……村長の奥さんの得意料理、だったよな? それじゃあ、村長の家に居るのか?」

『山に行ってくる。眠っていたから貴様の精液塗れのシーツと服は洗濯できなかったので、洗濯を頼んだぞ』

「山かー。って、これらを洗濯するつもりだったのか?」


 年頃の少女に粗方乾いているけれど、まだ少しシットリしている上に臭いシーツと服(主にズボン)を洗わせる?

 それは普通に恥かしいな。そう思いながら、これは自分で洗濯をしようと考えながら朝食としてパンを食べた。

 ……急いで作ったからだろうか中まで軟らかくなっておらず、硬かった。

 だけど食えるだけマシだよな。


「「「げ」」」

「う……。や、やあ、ちょっと……洗わせてもらうから」


 朝食を終え、濡らした手拭いで股間を拭いて服を着替えてから、俺はシーツと脱いだ服をティアちゃんが置いていったであろうタライに入れて洗い場へと向かった。

 するとそこには、昨日彼女を擁護していた女性たちが居た。

 彼女たちは一斉に顔を歪めながら、声を漏らしていたが……気にしない。気にしない。ぐすっ。

 心の中で少しだけ泣きつつ、タライを地面に置くと井戸から水を上げる。

 水が入った桶は重く、なんとか持ち上げるとタライの中にバシャッと入れていく。


「はあ、ふう……はあ!」

「うわ……、たったこれだけで息切らしてるわ……」

「腕もプルプルしてる……運動不足よね?」

「それ以前の問題じゃない?」


 後ろからそんな声が聞こえるけれど、間違っていないため何も言えない。

 というか、こんな重い物をあの女性たちやティアちゃんが持っていたっていうのか?

 家の近くにある飲水用の井戸の桶はこれよりも小さいから重くは感じられないんだよなあ。

 村の女性たちのポテンシャルに恐怖を抱く俺だったが、早くこの場から立ち去りたいという想いから、洗濯を始める。

 まあ、洗濯……と言っても濡らして混ぜて、絞って、水を代えて、また混ぜてという風だけれど。

 そんなことを2回ほどしていると、俺に近付く人物が居た。


「……何か用、なのか?」

「ねえ、あんた。ティアはどうしたのよ?」

「え? ああ、なんか山に行ったみたいだけど――「はあっ!? や、山? 山に行ったのっ!?」」


 信じられない、といった感じに女性たちの中のリーダーポジションだった子が突然声を上げた。


「な、なんだ? 山って、何か問題でもあったのか?」

「問題大有りよ、こののんだくれの馬鹿! 今山には山賊が出てるって話なのよ!!」

「え……」


 さ、山賊? 山賊だって? そんなの俺は……。


「聞いていない……」

「ちょっと! あんたは姐さんに連絡して! そっちは村長の家に行って、ティアが山に登ったってことを報告お願い!」

「「わかったわ!」」


 ぽつりと呟いた言葉は誰の耳にも届かず、彼女たちは慌しく動き始める。

 そんな彼女たちを見ながら、ある事実に気づいた……。

 そうだ。聞いてないんじゃない……、聞く気が無かったんだ。と。

 その事実に愕然としていた俺の体に突然衝撃が走った。


「っ!? あ……」

「あんた、何やってるんだいっ! どうしてあの子をひとりで行かせたのさ!?」

「お、れは…………」


 村長夫人だ。何時の間にかやって来た村長夫人が、俺の胸倉を掴んで怒鳴っていた。

 罵られ、怒鳴られる。だけど何を言っているのか俺の頭は村長夫人の言葉を理解しない……。

 きっと俺の顔は今、蒼ざめているだろう。そう思っていると、村長夫人もようやく俺の状態に気づいたらしい。


「はあ……、今のあんたに何言っても無駄か……。だったら、そこでジッとしてな! 年頃の女性が山に入ったんだ。領主の……国のほうも重い腰を上げてくれるだろうよ!!」


 バシッと俺を突き飛ばし、村長夫人は俺から離れる。

 突き飛ばされた俺は、足をもつらせその場で尻餅を突いた。

 けれど誰も俺を見ようとはしない。いや、そもそも居ないようになっている。

 そんな誰も見向きをされないまま、俺はトボトボとその場から離れ……ひとり家へと戻る。


 家の中は静まり返っていて、生活感は感じられない。

 そんな家の中で、俺は椅子に座る。


「誰かが、誰かが助けに行ってくれる……そうだろ? そうに決まってるんだ……」


 まるで誰かに言い聞かせるように俺は呟きながら、座ったまま頭を抱える。

 ぐしゃり、と何時の間にか手が髪を握り潰していて、根元が痛い。


 ――助けに行かないのか?


 そんな声が心の何処かに響く。

 助けに行けるわけがない。俺には力なんてもう無いんだから……!


 ――本当に、もう力は無いのか?


 ああ、もう無い。体だって衰えてるし、鍛錬もしていないからすぐに息が切れる!

 それに剣だって、もう何年も握っていないんだ!!


 ――それで諦めるのか? 彼女ともう会えなくなっても良いのか?


 …………。

 俺は俺自身の言葉に、何も言えない。


 ――彼女が居なくなったら、ひとりきりだぞ? 本当に、良いのか?


 分からない。俺に、答えられるわけが無い……。

 あのときだって、何も言えなかったんだから……。

 だから、だから俺は、俺は……。


「誰かが、誰かが何とかしてくれる……! そうに決まってるのに、なんで……なんで俺は山に向かってるんだよ!!」


 登り慣れない山道を俺は、家の隅に捨てられた鞘に入った剣を握り締めながら走る。

 久しぶりに登る山道、長い間握っていなかった剣、そんな自殺しに行くような状態で俺は走り、ティアちゃんを探す。


「ティアちゃん! ティアちゃん何処だ! 返事をしてくれーーっ!!」


 ……そんな馬鹿みたいに大きな声を上げながら脇目も降らずにぜえぜえと走った結果、当然俺は山賊に見つかった。

 そして俺は襲われ、すぐに殺されるはずが元勇者であることが判ると、積年の怨みを晴らすために甚振ってから殺す方向に切り替えたのだ。

 山賊たちに周囲を囲まれた中、俺を甚振り殺す役は山賊の頭であり……そいつが言うには十数年前に俺が捕まえた野盗の生き残りだったらしい。

 捕まった野盗がどうなったのかは知らないが、慕っていたであろう仲間への怨みの篭った攻撃に俺は恐怖し、体が動かなかった。

 そして、甚振るのに飽きた俺を……山賊の頭は一思いに殺す。――はずだった。



 ●



 ――パン、パン、パン。


「ん? なんだぁ?」

「これって、拍手……か?」

「いや、手を叩いてるだけ……じゃないのか?」


 乾いた音が周囲に鳴り響き、山賊たちは音の出所を探す。

 だけどそれだけではなかった。


『ハハハハハハッ、弱い。弱すぎるだろう勇者よ! そして貴様ら如きが勇者を殺そうとしている? それは見過ごせんなあ!!』

「だ、誰だ!?」

「姿を見せろ!!」

『ほう? 我の姿を見せてほしいのか? 良いのか?』


 え、この声って……?

 恐る恐る目を開けると、胸に突き刺さるか突き刺さらないかという距離でナイフが止まっており、その体勢のまま山賊の頭は周囲を見渡す。

 と、一点を睨みつけると、持っていたナイフを投げた。


「そこかっ!!」

「……ほう、気配は読めるらしいな? だが、何の考えも無しにナイフを投げるのは敵に武器を与えることとなると考えないのか?」


 山賊の頭が投げたナイフを声の主は手で掴むと、彼女はそれを自らの武器にするように持ち直した。

 そこでようやく山賊たちも彼女の存在に気づいたようだった。


「お、女?」

「しかもメイド?」

「ていうか、なんでこんな所に……」


 俺と山賊の頭を囲む山賊たちが口々に言う中、ティアちゃんは嗜虐的な笑みを浮かべたのだった。

次回、メイドの狩り。

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