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番外 女店主は自らの予想を破壊される。

ブクマありがとうございます。

「あ~ぁ、ちょっと失敗しちゃったわぁ……」

「姐さん、どうしたんですか?」


 ワイワイと畑仕事の疲れを取るように仲間内で酒を呑む村人たちや、物が売れたと喜ぶ行商人の集団を見つつ、あーしは呟く。

 と、その声が聞こえたようで店で働くメクブダ(女の新入り)の子が声をかけてきた。

 彼女は働いているメクブダたちの中でリーダー格のようで、よくあーしに話しかけてくる。


「ん~、ちょっと可愛い子をスカウトか、変態趣味持ちの貴族向けに下着を売ってくれって言ったんだけど、失敗しちゃったのよぉ」

「そ、そうですか。けど、普通売らないんじゃ……」

「そうよねぇ、でも彼女じゃなくって保護者な立場の人に提案したのよねぇ」

「は、はぁ」


 苦笑する子を見つつ、あーしはブレイブさんのことを考える。

 あの人なら、きっと大好きなお酒目当てで簡単にあのメイドを娼婦落ちさせると思ったんだけどなぁ。

 だけど、あの人……悩むだけ悩んで、大事な大事な酒を売り払ったのよねぇ。

 そう思いながら、彼が大事にしていたお酒を少し口に含む。

 芳醇な味わいが少しするけれど、何処かすっぱく感じると言えば良いのか旬を逃したといった感じだった。


「……んー、やっぱり味が落ちてるわねぇ」

「姐さん、仕事中なんですからお酒呑まないでくださいよー!」

「ごめんなさいねぇ、味が気になったものだからぁ」

「もー、ちゃんとしてくださいよね」


 プリプリと怒る彼女を見ていると、他のメクブダの子が追加オーダーを取ってきた。

 まともな料理は厨房にいるメブスタ(男の新入り)の子が作るから、そっちのほうにオーダー内容を言ってからお酒や簡単な物の注文をもってあーしへと近付く。


「姐さん、赤ワイン3人分追加お願いします!」

「はいはぁ~い、ちょっと待ってねぇ」

「あと、腸詰めも一皿です!」

「はぁ~い♪ かしこまりぃ~」


 注文の品の準備をしつつ、あーしはあの毒舌メイドちゃんのことを考える。

 機嫌が悪そうな顔をしているけれど、見た目が整っているから受けが良いだろうと思われるメイドちゃん。

 会って一日も経っていないけど、あの子のことは鮮烈に覚えちゃったわねぇ。

 そんなことを考えながら、あーしは今朝のことを思い出し始めた。



 ●



「んっ、んんっ……あふ……」


 目が覚め、体を軽く起こして、あーしは背を伸ばしながら欠伸をする。

 その際、なにも締め付けもされていない胸はたゆんと揺れるけれど、その光景を隣で眠る冒険者の男は見ていない。

 というよりも凄く気持ち良さそうにぐっすりと眠っている。

 まあ、あんなに獣みたいにあーしの体を出した金額分、目一杯堪能していたのだから満足しているのだろう。

 そしてあーしもその行為には満足している。


「さてと、皆に朝の挨拶をしないとねぇ」


 呟き、昨晩の行為で溜まった男の物の処理をサッと行うと、あーしは服を着る。

 まだ残ってる感覚はあるけれど、避妊の術をかけているから特に問題はなし。

 そしてちゃんとした服には後で、汗を流してから着替えるつもりだから、酒と男のにおいがしみついた昨晩からの服で問題はない。

 ズボラ結構。そんなこと思いながら男の部屋から静かに抜け出し、鍵を掛けると下へとおりる。


「あ、姐さん。おはようございます」

「「おはようございます」」


 するとメブスタの子(男の新入り)たちが先に起きており、あーしへと挨拶を行う。

 メブスタの子たちのリーダーポジションの子が挨拶をすると、他の子たちも宿泊している客に迷惑にならないようにあまり大きな声を出さないようにしながら挨拶する。


「ええ、おはようみんなぁ。調子はどうかしらぁ?」

「はい、問題ありません。誰も体調は悪くないと言っています」

「それじゃあ、メクブダの子(女の新入り)たちのほうはどうかしらぁ?」

「大丈夫だと思います。悪かったら彼女たちの誰かが報告に来るでしょうし、それと食事のほうも用意しておきましたし……あ、姐さんも食べますよね?」

「いただくわぁ」


 ちなみにメクブダの子たちは活動時間が夜遅くまでというのと、昼に宿泊した者のシーツや自分たちの着ている服を洗濯をさせるためもう少し眠らせている。

 そしてメブスタの子たちには泊まっている者たちの朝食の用意を整え、昼と夜のための仕込みと掃除を終わらせたら夜までは交代で休憩となっていた。

 そんなことを考えながら、メブスタの子に食事をお願いしてあーしも食事を行う。

 昼食のために用意した野菜の余りと、冒険者が注文した干し肉の切れ端、それと昨晩残った腸詰めなどを混ぜて作られたスープ、それと黒パンという在り来たりな朝食を食べる。

 食べている途中にあーしと一晩を共にした男の冒険者がでかい欠伸をしながら下り、手早く朝食を食べると「また来たときに頼む!」と言って冒険へと旅立っていった。

 これで宿泊をしている客も居なくなり店員であるあーしたちだけとなった。

 これでしばらくは静かになる。そう思ったとき入口に気配を感じ、振り返ると旅装として外套を頭からすっぽりと纏った小柄な人物が立っていた。

 小汚い外套にしているけれど、チラリと見える口持ちは汚くない。多分、偽装してるのね?

 そんな風に考えつつ、あーしはその人物へと声を掛けた。


「あらぁ、いらっしゃぁい。けど、まだ食堂はやっていないわよぉ?」

「い、いえ、その……お尋ねしたいことがありまして」


 口元が動き、鈴のように綺麗な声が発せられ、小柄な人物は女性……それも若い少女であると理解する。

 その声に反応するようにメブスタの子たちも外套を纏った少女へと視線を見る。

 すると少女は顔を隠すのは無礼だと思っているのか、被った外套を捲り素顔を露わにした。

 艶やかな黒い髪、珍しい金色の瞳、そして綺麗に整った表情は人形を思わせるようだった。

 けれど周囲から刺さる視線が恥かしいのか口元に手を当てて、少女は身を捩らせる……あ、今隠れて舌打ちをしたわね?

 気弱そうな印象を与える少女、と思ったけれどそれは違ったみたいね。

 少女の本性に気づいたあーしだったけれど、メブスタの子たちは気づいていないようで何名かが頬を染めているのが見えた。


「ある程度の偽装は出来る、ってことねぇ……」

「あ、あの、どうか……しましたか?」

「いえいえ、なんでもないわよぉ。それで何を尋ねたいのかしらぁ?」

「はい、尋ねたいことというのは、ブレイブ様の御宅が何処かということです」

「え?」


 少女が尋ねてきた言葉に、あーしはちょっと耳を疑った。

 だって当たり前だと思う、元勇者だとしても今はただののんだくれのクズヤロウであるブレイブくんの家を少女が尋ねているのだから。

 同じように思っているのか、メブスタの子たちも信じられないという表情をしている者も居れば、下種な考えへと至っているのか顔を赤くする者も居た。

 もう少し女に対しての免疫を付けたほうが良いかしらねぇ?

 とと、それは後で考えるとして、今は少女のほうに集中しましょう。


「ブレイブくんの御宅なら、ここから移動したら――」


 何かある。そう判断したあーしだったけれど、教えてほしいという少女のお願いには応えてあげる。

 そう考えながら、ブレイブくんの家を教える。

 すると少女は「ありがとうございます」と言って丁寧に頭を下げてその場から去って行った。

 去っていく少女をメブスタの子たちは惚けた表情で見ているけど、あの子は色んな意味で危険よぉ?

 そう思いつつも、代わり映えのない村に若い子が来たらそうなるともあーしは思っていた。


 そしてそれからしばらく経って、汗を流して服を着替えたあーしは汚れた服とシーツなどをメクブダの子たちに洗濯を任せた。

 すると早速あの少女だと思う子がやってくれたようだった。


「あらぁ、石鹸の香りがするわねぇ?」

「あ、姐さん! 実はあのブレイブさんの家にメイドさんが来たみたいなんです」

「へぇ、メイドさんねぇ……そうだったのぉ」

「長い黒髪で、金色の瞳の大人しそうな印象の子なんですけど、ブレイブさんがいきなりやって来て怒鳴りつけてたんですよ! ひどいって思いませんか!?」


 見た目の印象、それと希少な石鹸を使わせて貰った。ということでメクブダの子たちからの印象は好印象らしく、あの少女……名前はティアと言うのね。

 その少女の行ったやり口に強かさを覚えつつも、周囲に好印象を与えるためならばあーしもやるだろうと考えた。

 結果、少女はメクブダの子たちの信頼を勝ち取った。その際、ブレイブくんが本気泣きをしていたと聞く。

 少しやりすぎだろうから、会ったときにはちょっと注意でもしておくべきかしらねぇ? 一応石鹸を使わせて貰ったからちょっと、だけね。

 そんなことを考えながら、メクブダの子たちに昼食を取ってもらって休んでいる間にメイド少女のティアが現れた。

 改めて彼女の姿を見たけれど、小柄で細めな体型と胸の薄さを覗けば一級品としか言いようが無かった。

 それに着ているメイド服は、ヴァルゴ王国王城のメイドが着ているメイド服をモデルにしているようだけれど、所々細工が違う。あの細工は、今は無きアリエス村のほうで流行っていた細工ね?

 メイド服単体でもいい値段になるわねぇ。

 そんなことを考えていると、彼女は他人ならコロッと騙されるような演技であーしに酒を売ろうとした。

 だからあーしは、ブレイブくんにされたことの意趣返しというわけでは無いけれど、下手な演技を注意すべく普通に話してほしいと言った。

 すると、周囲に人が居ないということを分かっているのか、彼女は本性を現してくれた。

 この子、結構面白いわねぇ。

 と思いながら、睨み付けられていたあーしだったけれど、遅れてブレイブくんがやって来た。

 そんなブレイブくんにあーしは選択肢を与えた。

 この子の性格はアレだけど、女に餓えた男とか被虐趣味の男になら受けは良いでしょうしね。

 そしてブレイブくんはお酒が大好きだから、あっさりこの子を売るに違いない。

 そうあーしは思っていたけれど、予想に反してブレイブくんはお酒を売った。

 そのことにあーしは驚きつつも、ちゃんと品質などを見て正規の価格で買い取った。

 まあ、旬が過ぎてしまって味が落ちていたから、微妙な価格になってしまったけれどね。



 ●



「…………あの子なら、立ち直らせてくれるかしらねぇ」

「姐さん? 何か言いました?」

「何でも無いわよぉ。さ、お待ちどうさまぁ、さ、持っていってねぇ」

「わかりましたー!」


 入れたワイン、腸詰めを乗せた皿をカウンターに置くとメクブダの子が持って行く。

 それを見届けてから、あーしは仕事に集中することにした。

商業ギルドのランク

第一級:カストル(一握り)

第二級:ポルックス

第三級:アルヘナ

第四級:プロブス

  ~

新入り(第七級):メブスタ【男】、メクブダ【女】

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