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第8話 勇者は現状に混乱し、理性を破壊しかける。

ブクマありがとうございます。

 村の若い女性たちに馬鹿みたいに言われて、俺は久しぶりに泣きながら家へと飛び込み……ベッドに寝そべった。

 正直酒があったら飲みたかったけれど、あの少女によってすべて回収されてしまったのか、それとも呑める酒が無くなっていたのか見当たらなかった。

 そうしてると、洗濯が終わったのか窓の外からパンパンという音が聞こえてきたけれど、苛立ちが収まらない。


「くそっ、くそぉ……ちくしょぉ…………!」


 だから時折、心の奥に溜まった怒りを吐き出すように怨嗟の声を呟く。

 ……正直、最近は村の人とも関わっていなかったから貶されることは無かった。

 なのに、あの少女が俺の服を持ち去って行ったから会いに行ったせいでこんな目に遭った。

 くそっ! くそぉ!! あの少女は何がしたい? 本当に何がしたいんだよ……!!

 今あの少女が俺の前に現れたら、俺は怒りを爆発させるかも知れない。

 そう思っていた瞬間、家の扉が開かれ、中へとズカズカ彼女は入ってきた。


「失礼するぞ、勇者よ!」

「……なんだよ? また俺を陥れようというのか?」


 声をかけられ、俺は苛立ちながら少女を睨み付けた。

 今、俺はどんな瞳でこの子を見ているのだろうか? 分からない、だけど……そうさせた理由は向こうにあるのだ。

 そう思っていると、少女は村の女性たちに向けていた社交的な微笑みとは違い、狂気を感じさせるような笑みを俺へと向ける。


「先ほどはすまなかったな勇者よ。我も貴様に会って興奮していたらしい! 許せ!!」

「許せ? あんな風に、俺を貶したっていうのに簡単に許せって言うのか!? ふざけるな!!」


 その笑いが、俺の怒りを頂点に立たせた。

 だから、俺は立ち上がり……、ゾンビのようにふらふらと少女に近付く。

 俺の様子が変だということに気づいたのか、少女はズリズリと背後に下がっていく。だが、俺はそれを追い詰める。

 そして逃げ場が無くなり、彼女の体は壁に押し付けられた。

 そこへ、俺は逃げられないように手を突き出して――彼女の顔の横の壁を叩く。


「お前はいったい何がしたいんだよ!? 俺を陥れたいのか!? 奉仕したいのか!? いったい何なんだよっ!!」

「だから本当に申し訳ないことをし――――」


 正直、こいつが何をしたいのかはまったく解らない。

 だから俺は吠えた。怒りに身を任せながら吠えた。

 そんな俺へと彼女は何かを言おうとした。……だが、突然カクンと力が抜けたように膝を床につかせた。

 同時に腕に抱いていた、俺の服が床に散らばる。

 そこでようやく、彼女が服を持ってきたのだと理解した。


「お、おい、どうしたんだ?」

「…………」


 いったい何が起きたのか心配になり、彼女の肩を揺する。

 すると、ぼんやりとした……何も見ていない(・・・・・・・)ような瞳を俺に向けた。


「だ、大丈夫、なのか?」

「……ぇた」

「え? う、うわっ、ど、どうしたんだ!?」


 ぽつり、と何かを呟いたと思った瞬間、彼女は涙を零し……俺の首へと腕を回してきた。

 突然のことで戸惑い固まる俺だったが、彼女はそんな俺の様子なんて気にしない。とでも言うように、俺の体にしがみ付く。

 ど、どうしたんだ? しがみ付いてくる少女に、何があったのかと戸惑うと同時に石鹸のいい香り、それと……彼女のにおいだと思われる、甘い香りが鼻をくすぐる。

 メイド服越しだったから、体型が良く分かっていなかったけれど、華奢な体つきをしている。

 胸は控えめだが女性だからかやわらかく、俺の胸板に当たって潰れている。

 腰は今の俺でもポッキリ折ることが出来るんじゃないかと思える程に細い。

 尻は……触ってはいないから分からない、だが視線の先に見えるスカートが垂れて浮き彫りとなった様子から小振りだろう。

 ――って、何で俺はそんなことを考えているんだ!? どう考えても親子ぐらいに歳が離れているだろう!!

 それにしても、黒い髪がさらさらしてるし、ミルクと花のいい匂いがする……。

 手で梳くとサラサラと零れるんだろうなー……って、だから!!


「ますたー…………」

「え? ます、え? ――っ!?」


 鈴のように静かで幼げな声が耳に届き、俺の邪な考えが中断される。が、すぐにビクッと驚いてしまった。

 何故なら、無機質の様に感じる金色の瞳が潤んでおり、しかもそれが目の前にあったからだ。

 もっと具体的に言うとすれば、無表情なはずなのに何処かうっとりとした(・・・・・・・)表情のティアちゃんが俺をジッと見ていた。

 それが幼さを感じてるのに何処か蠱惑的に感じられ、俺は危うく彼女の腰に腕を回しそうになってしまったが、なんとか堪えた。

 だが、彼女は……ティアちゃんは何を思ったのかは分からない。分からないけれど、気づくと俺の唇に自らの唇を合わせていた。

 温かく、湿っぽい、そして――やわらかい。


「……? 、――っ!!? !?!?!!?」


 一瞬、何が起きたのかわからず、頭が真っ白になったが……すぐにこれが現実であることを頭が理解し始めた。

 同時にその唇のやわらかさに俺は戸惑い、禁断の果実の味に魅了しかけ……俺はそのまま彼女の味に溺れてしまいそうになる。

 が、なんとか失いかけた理性を手繰り寄せると、彼女の肩を掴んで引き離した!


「ちょ!? ティ、ティアちゃん! ティアちゃん!!」

「ま、す……たぁ、……――――――む? われ、は……」


 引き離し、彼女の名前を呼ぶと無機質だった瞳に光が戻り始めた。

 けれど、光が戻る前に見た彼女の表情は何処か寂しそうに見えてしまった。……その表情をみたとき、俺自身手放したくないと何故か思ってしまった。

 そう思ってると、ぼんやりとした表情を浮かべたままティアちゃんはパチパチと瞬きをし、俺と自分を見て……最後に俺の伸びた腕を見て、何処か不満気に顔を歪めた。


「勇者よ、貴様は何をしている?」

「よかった。元に戻ったか……。その、さっきのことは……覚えていない、のか?」

「何のことだ? それよりも肩から手を放せ。そして、我が持ってきた着替えを着ろ!」


 良かった。どうやら元に戻ったようだ。

 ホッと安堵の息を吐きつつ思っていると、俺を睨みつけながら足元に落ちた着替えの服を拾うと突き出すように差し出してきた。


「あ、ああ、ありがとう……」

「ふん、礼を言われるまでも無いだろう! では我は残りを干してくるからな!」


 差し出された服を受け取り、礼を言うとティアちゃんはズカズカと家から出て行った。

 それを見届けてから、俺は……その場にへたり込んだ。


「あ、あ~~……、び、びっくりした! いったいなんだったんだよあれは……」


 バクンバクンと鼓動が鳴り響く中、俺は先ほどのティアちゃんの行為に激しく戸惑っていた。

 というか、元に戻ってからの彼女に普通に接することが出来た自分に称賛を贈りたい。


「しかも、あ……危なかった」


 あの理性を破壊しそうな幼さを残しながらも蠱惑的に感じる表情からの口付け、あのまま理性を失って襲いかかっていたらどうなっていたことか……!

 泣かれただろうか? 暴れたのだろうか? 分からない、だけどそんなことにならなくて、本当に良かった。

 そんなことを考えながら、俺は体が落ち着くのを待ってから、服を着替えることにした。

 汚く、湿っぽい服をパッと脱いで、裸になってから急いで渡された服を着替える。


「あ……洗い立てだからか、石鹸のいい香りがするな。こんなにも早く渡すことが出来たってことは、魔法でも使ったのか?」


 着替えていく服が乾いていることに気づき、俺はふと呟くが誰も答えることはなかった。

 そういえば、久しぶりにまともに洗った服を着たな。

 何時振りだろうかと思いつつ、外で洗濯物を干すティアちゃんを見る。

 彼女は洗濯物を干すのに夢中なのか、俺のほうは見ていない。


「あのこと、口付け……したんだよな?」


 ――って、何を言ってるんだ俺は!! そういう歳じゃないだろう!? こういう甘酸っぱいことをするのは、20歳ぐらいまでで十分だろうっ!?

 ああくそっ、いったいどうすれば良いんだよ!! というか、本当にどうすれば良いんだ!?

 悶々とする頭をガシガシ掻きながら、俺は悩み続ける。


「…………何をしているんだ勇者よ?」


 そして、何時の間にか洗濯物を干し終えたティアちゃんが馬鹿を見るような目で、悩み続ける俺を見ていた。

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