何故勇者は勝ち誇った顔をするんだ?誰か俺に教えてれ
「おい無能、最後のお別れにいい知らせを持って来てやったぜ」
勇者と呼ばれる男が俺に話しかけてきた。
無能、と勇者は言うが、それは俺個人に言ってるのか、それとも村人という職業に対して言ってるのか。
この世界では成人式に神から職業を授かる。
これは神が与えたものなのか、その人間に向いてるものを提示してくれているものなのかは誰も知らない。
しかしこの世界では職業は絶対だ。
そして俺は村人として生活をしている。
この世界の人間の7割りは村人だ。
だから残りの3割の職業をもらったやつらは人生の勝ち組だ。
しかし、村人こそ俺にとって人生の勝ち組だった。
だから俺は村人になった。
自分しか見ることのできないステータスボード。
これを貰う時、誰もが嘘をつかない。
村人なら確認をしないが、3割の職業の内のどれかになったと言えば必ず確認が入る、それが嘘だった場合、有無を言わさず処刑だ。
3割の職業を当てたものが村人だと偽っても確認する方法が無いが、この世界の成人である16歳の年頃なんて、ほとんどの奴が3割を当てたら喜んで申告する。
俺の職業はちょっと特殊だったから俺は迷わず村人と申告した。
俺のステータボードに出ていたのは…
年齢 16
職業 転生者(超越者)
名前 ナシム
俺の前世は幸せに老死した日本人だ。
異世界で勇者をした経験のある日本人だった。
俺は社会人になる前に異世界で社会の辛さ、戦いの怖さ、世界を学び、その経験を生かして政治家になった。
しかし年をとると、情熱とは消えるものだ。特に俺の場合は老後は田舎にひっそりと過ごして死んでいった。
とても幸せなことだった。
さて、目の前の勇者になってしまった少年は、俺に何のようだろうか、この前の成人式で内の村から女の子二人に賢者と聖女の職業が出たので勇者がやってきたが、賢者と聖女の二人が勇者の仲間になるのを渋ったため打ち解け会うまでこの村に滞在することになっていた。
その二人が勇者の後ろにいるのできっと二人が仲間になることを決めたんだろう。
長い間一緒だった二人がいなくなるのは寂しいことだ。
俺になついて、まるで可愛い孫娘のようだった。
何回か前世の孫娘を思い出して泣きかけたな。
この二人は勇者の仲間になる決意をした。
勇者の旅とは過酷なものだ。しかし、自分の意思でそれを決めた。この成長を見るのが老人の楽しみなのだ。
まずい、二人の成長を垣間見て泣きそうになった。
「そうか、二人は勇者と共に行くことを決めたんだね」
「うん、ナシムには悪いと思ってるけど行くことにしたの」
「私も、そう」
「辛くなったらいつでも帰っておいで、ここはいつでも君たちの故郷なんだから」
「「ごめんなさい」」
「…どうしたんだ?」
「私たちがした、あなたとの結婚の約束を無かったことにしたいの、私たちは勇者様に恋をしたの、勇者様のために一緒に行きたいの!」
「…」
「そう言うことか」
思わず泣いてしまった。
ずっと自分から離れれなかった孫が、旅に出る意思を決め、好きな人が出来き、前に進もうとしている。
そうか、そう言えばこの世界の成人は16歳、もうこの子たちは、子供では無いのだ。子供の自立、孫の自立はやはり感動する。
子供が親のお嫁さんになると言ってくれるのはうれしい。
しかし、今の自分は16歳、もしこのまま、あの子達が俺から自立できなかったらどうしようと悩んでいたが、杞憂だったらしい。
「そう言うことなら気にするな、お前らはお前らの幸せを掴んでこい。それと、結婚式にはちゃんと村のみんなを呼べよ、いっそこの村でやるのもいいな、でもまぁ、魔王討伐の旅は辛いぞ、絶対に死ぬなよ。」
「許してくれるの?」
「ああ、もちろんだ。」
「ありがとう」
「…」
「いつ出発するんだ?」
「それには僕が答えるよ。そうだなー、もう出発しちゃいますか」
「もう行くのか?村をあげてお祝いをしたかったんだが、」
「いえ、別にいらないねー、じゃっ、」
あんな男に預けて大丈夫だろうか?
実力はまだそんなに無いのはしょうがないが、さすがに勝てない相手に立ち向かわないよな?
心配だな、前世の孫はしっかりしたやつに嫁いだから安心だが、今回はちょっと不安だな。
二人に腕をまわして歩いていた勇者が突然振り返って俺を見てきた。目があった瞬間、勇者は俺に笑顔を見せた、それは爽やかなものでは無く、勝ち誇ったもので、敗者を侮辱するような笑い方だった。
それを見た俺は悩む。
彼女たちが愛した人間を信じ、村で生活を続けるか
あの勇者を立派な人間にするか
辛いが彼女たちには勇者を諦めてもらうか
いや、ここは彼女たちを信じよう、彼女たちの意思を踏みにじるわけにも行かない、もし、勇者が人格的に良くなくても彼女たちが導いてくれるだろう。
…ずいぶん甘やかしたけど、大丈夫だよな、そう言えば俺の時の魔王討伐は本当に辛かったな。
よし、 こっそりついて行くか。
やっぱりと言うか案の定だった。
と言うかそれ以下だった。
ほとんど準備無しで旅を始めたと思えば、ほとんどを二人に任せている。
炊事洗濯はすべて二人に任せている。それはいい。
問題は宿に泊まる時だ。二人に手を出そうとしてたので勇者を魔法で眠らせた。それは子供にはまだ早い。
野宿の時は夜の警戒を二人にさせて自分は爆睡、ときどき二人に手を出そうとするので眠らせる。
勇者のやろう許可を取ればいいのに魔法で眠らせてから二人を襲おうとしやがる。
睡眠は大切なので二人、いや、三人を眠らせて俺が回りを見張っている。
戦闘も最悪だ、どう考えて勝てない相手に立ち向かって行った。
気付かれないように援護したが危うく二人が大怪我をするとこだっだ。
勝てない相手にも戦いを仕掛けることが分かったので強い敵は俺が先に倒す、もしくは重症をおわせている。
勇者に仲間が増えた、エルフの女の子だ、奴隷商に捕まりそうになっているエルフを助けて仲間にした。
その子にも手を出そうとしたのでいつものように眠らせた。
この日はダンジョンに潜った。
魔王の元へ向かうダンジョンだ。
不覚をとった、魔王の幹部に嵌められた。
今のこいつらでは幹部に勝てない。
しかし、幹部が張った結界のせいで手を出せない。
「誰か一人を犠牲にすれば他の奴は助けてやる、犠牲になった奴は私とダンスを踊って貰おう、加減はするが終わった後には原形は保ってないだろうがな」
幹部の声が此処まで届く、さすがにそんな、ことしないよな、勇者だろ? でも、今のあいつらじゃ勝てない。しょうがないが俺が出るしか、
「このエルフの子を置いていく」
「「「え?」」」
「いいぞ勇者、そうでなくては」
は? 何て言った?
仲間を置いていく?
おい、俺はそれだけは許せないぞ、それをやった奴に二人を…いや、これ以上は俺の慢心だ、二人の人生は二人のものだ。やる、やらないは、じじいが決めることじゃい。
「この記憶は消しといてやる、一時的なものだがな、せいぜい最後に思い出した時はいい声でないてくれよ、『記憶操作』」
記憶操作の影響で三人をが気絶する
「さて、エルフの女よ、いい声で泣いてくれ」
「助けて」
「ちょっとまって貰おう」
俺は結界を割って中に入る
「ずいぶんとお強い方が来ましたねぇ、これは勝てない、見逃してくれませんか?」
「すまない、全部見ていた、お前を泳がせるのは危険過ぎる」
「今、私を殺せばその三人はエルフの女を見た瞬間に後悔で潰れるでしょうねー見逃してくれたら何とかしますよ」
「いや、あいつらなら乗り越えられるさ、それに一度犯した罪は忘れちゃいけない」
「くそが」
「じゃあな」
5分間の攻防のあと、俺は幹部を始末した。
「そこのエルフの君、名前は?」
「わ、私はニーニャって言います」
「そうか、いい名前だね、僕のことは三人には内緒で頼むよ」
「え、え? なんでですか?」
「過保護なじじいは嫌われやすいからな」
「? えっと、ありがとうございました」
「ん?助けたことか? まぁ、ケガが無くて良かったよ、じゃあね」
ん?服をつかんだまま離してくれないぞ
「あの、ずっと私たちを守ってたってことですよね」
「まぁ、一応な」
「もし、良かったら私もあなたに着いてっていいですか?」
そうだな、残される一人に選ばれたのは辛いし、自分とあった瞬間に三人がその時のことを思い出して後悔するのは見たく無いよな、俺は彼女のことを考慮してなかったようだ。
「そうか、すまないことをしたな、それと、これからよろしくな」
そろそろ三人が起きそうなのでニーニャを連れて隠れる。
「負け、ましたね、」
「…」
「起きてください、勇者様 」
「はっ! くそ、負けてしまった。」
「勇者様、もう少しレベルを上げてからまた来ましょう」
「そうだな、ん?どうしたスー、泣いてるのか?賢者も泣くんだな、まぁ初めての敗北だもんな」
「…」
「じゃあ行くか」
行ったな、
「そろそろ俺たちも行こう」
「はい!」
メンバーは一人増えたがやることはあまり変わらず、変わったことと言えば日課にニーニャのトレーニングが加わったことだった。
二ヶ月が過ぎた頃には勇者より微妙に強くなっていた。
そしてまた、勇者たちは、魔王を倒すためにダンジョンに入った。
あの幹部より強い奴がいないて助かった。
何事もなく魔王の元までたどり着けた。
「よく来たな勇者とその仲間よ、それと紛れ込んでいる奴がいるな、一人、いや二人か、まぁいい、かかってこい。」
どうやらバレてるらしい。流石は魔王だ。
だが、俺は勇者たちが殺されそうにならない限り出る気はない。
10時間ぐらいだろうか、勇者と魔王の戦いは勇者側の体力が切れたことにより魔王の勝利だ。
「まぁまぁだったぞ、勇者、じゃあな」
「くそ!」
勇者が賢者と聖女の後ろに隠れた。
この魔王の攻撃を喰らえば三人とも死ぬだろう。
「不合格だ。」
俺は三人の前に出て魔王の攻撃を弾き飛ばす。
「うそ、ナイム」
「久しぶりだな、スー」
「えっ!ナイムくん!?」
「相変わらずだな、マイ」
「なんでナイムがここに」
「お前らが心配だったからな、お前らの決めたことを否定するつもりはないが、どうしてもその男じゃないとだめか?」
勇者のやつ、気絶してやがる
「何者か知らないが、やはり邪魔してきたか」
「ニーニャ、三人を頼む」
「分かりました!」
「えっ!ニーニャ?」
「…」
ニーニャのことを思い出したのかマイが崩れ落ちる、スーはニーニャを抱き締めて何かを言ったあとマイを支え始めた。
「さて、魔王、名前を聞いても?俺はナイムだ。」
「我に名など無い」
「そうか、すまないな、魔王、お前を倒す」
「かかってこい」
俺と魔王の戦いは3時間で決着がついた。
俺の勝ちだ。
「負けたか」
「文句は言わないのか?」
「無いな、仮に勇者と戦う前にお前と戦っていても時間が掛かるだけで我の負けだろう。」
「…じゃあな」
魔王が討伐されたことは直ぐに世界に広まった。
勇者は魔王を倒した英雄として、歓迎された。
俺はニーニャとスーと一緒に暮らしている。
マイは一緒には住んでないけどちょくちょくスーとニーニャに会いに来る。
今日は魔王討伐のパレードがある。正直魔王を殺して喜ぶことは出来なかった、それは俺が強者だからだろう。パレードに出てる勇者はどんな気持ちなんだろう?
つい勇者を探してしまった。
勇者と目があった。俺を見つけた勇者は俺を見て笑顔になった、それはあの村で俺にした笑顔と全く同じものだった。