あのさ?
「あのさ?」
日曜の午後だった。
リビングのソファベッドに寝そべっていた姉が声をかけてきた。
「昨日プリン買ってたじゃん?」
そう、何を隠そう俺の脳は基本糖分に飢えている。
それを日々補うはこのキャラメルに満ち満ちた楽園であり、内包された魂を解き放つ最高のアクティビティ――――
「食べちゃった」
「はあァァアあああああん!!? 何やってくれてんのォォオ!?」
衝撃だった。
あのプリン無くして俺はどう生きる? 嗚呼報われぬ500円。
姉はそれだけ言ってスマホをいじっているばかり。
その唐突さに俺は毎回振り回されているワケで――――
◇
「あのさ?」
5分ほどして再び姉が口を開いた。
何とも言えない間が14秒。何数えてんだ、俺は。
「ゴリラ、好きだよね?」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「好きだよね?」
「・・・・・・いや?」
改めて断っておこう。チワワの可愛いさに勝る生物などいない。
むくり、と起き上がった姉はニマニマと笑って一言。
「買っといた」
・・・・・・・・・・・・あっ、プリンどうこうじゃないわ。バカだこのヒト。
「いやー良い買い物したわぁ」
良かねぇよ。なんか玄関の方からウホウホ聞こえるんですけど?
下手なジャーマンよりダメージがあるんじゃねコレ?
◇
さっきはけっこうハードな部類が来てしまった。
けれど、まだ油断は出来ない。
姉のことだ。きっと特大のオチを用意しているに違いない。
「あのさ?」
ホラ来た。よし来い。
もはや俺の精神力はカンスト近く鍛え上げられているに違いない。
「どうかした?」
「NASAに受かったんだけどさー?」
前言撤回。
「明日から宇宙行って来るわー」
「待って急転直下すぎひん? え?」
「あ? お?」
「なんでちょっとキレてんのさ?」
常に予想を上回る。それが姉という存在である。
「つーワケで今から寝るから。明日起こしてー」
のそのそと部屋に戻っていく姉とその背中を見送って、彼女の告白は終息した。
今のこの気持ちは安堵に違いない。
けれど、しばらくは聞けないとなると逆に寂しいところもある。
「振り回されっぱなしだな、俺も」
おっと、うだうだしてはいられない。
もうじき妹が買い物から帰ってくるはずだけど――――
「ただいまぁ―――!! マサ兄蹴っていい―――?」
「・・・・・・勘弁してくれ」
お粗末様でした(-_-;