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-0章- プロローグ

 A.D.2003年――。

決戦空域直下3000m 聖位騎士団付属 聖騎士学園 東日本校 本校舎前グラウンド。


 少女は地獄の底にいた。

聖騎士学園(アヴァロン)東日本校全ての騎士を動員した魔害蟲(ヴェルム)掃滅作戦。

予想を遥かに上回る数のヴェルムの襲来と学園側の奇襲の失敗によりこちらの体制は大きく崩された。それはもはや、祈りや奇跡では覆らないほど絶望的な状況だった。


 ヴェルムの悲鳴のような咆哮が天を刺す。

生徒が暮らした学生寮は焼け崩れ、炎が上がる校舎はヴェルムの巣と化していた。

足下には討ち取ったヴェルムの死骸と倒れた騎士の亡骸が一面に転がっている。

その中には少女と同じクラスだった生徒もいた。

昨日まで、一緒に授業を受け、休み時間にみんなで笑ってランチを食べた仲間達。

もうどれが誰かもわからない。


 悲しむ余裕は無かった。それほどまでに状況は切迫していた。

泣いて立ち止まっている暇はない。足を止めれば命が終わる。

傷だらけの体を引きずりながら少女は戦い続ける。

魔力はとっくに枯れていて、鎧を纏えるだけの魔力は残っていない。

残るはこの身と右手に握った一本の剣のみ。


 死にたくない。こんなところで死んでたまるか。

ここで散っていた仲間達のためにも私は生き残る。

殺す、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――


 もう味方はいない。目の前に立つものは全て敵。

我が目前に立つ者全てにこの一刀を捧ぐのみ。

血が眼に入る、敵の血なのか自分の血なのかもわからない。

何かが切れる音がする、もう痛みすらも感じない。

剣が重い。血の滲む鍛錬で剣の重さなんてとっくに忘れたはずなのに。命の終わりを剣から感じる。


私はここでは終わらない――


 少女は一人咆哮する。たとえ剣が握れなくなったとしても、この身が粉に散り果てるまで私は決して立ち止まらない。


 だが絶望は止まらない。

喰い残した最後の餌に、ヴェルムが群がり始める。

下位のヴェルムだけでなく、上位のヴェルムも数体混じっている。


「くそっ……」


 少女は命の終わりを悟る。この絶望の世界から永遠の暗闇へ。

少女は目を閉じ()()()()の覚悟を決める。


――……。


 声が聞こえた。

頭に直接声が響く。

それは、この戦いの人生で何度も共に死線を乗り越えてきた、

少女が最も信頼する相棒の声。


「ランス……ロット……?」


――我に捧げよ、汝の全てを。


「なぜだ……、もう私の魔力は……」


 魔力はとっくに尽きたはずだ。

鎧を纏うどころか会話もろくに出来ないはずなのに。


――これが最後の契約だ。汝の全てを我に捧げ、汝の光を未来に託せ。


 少女は混乱していた。契約なら最初に出会ったときに既に交わしている。

最後の契約?母さんからも先生からも聞いていない。


――時間が無い。ここで果てるか、未来に生きるか、一つを選べ。


 時間が無い。死にたくない。ここで私は終わりたくない。

少女の瞳に迷いは無かった。


「いまさら何だ、とっとやれ」


 少女は笑う。

どんな手段だっていい、明日を迎えられるなら。

私は何より明日が欲しい。


――承知した。


その瞬間、枯れて果てていた少女の聖印(せいいん)から目も眩むほどの光が噴出した。


「私の光、未来に託そう」


 少女の光が周囲の闇を飲み込んでいく。

契約を結んだ少女、白月星華(しらつきせいか)が放った魔力だ。

直前まで死にかけていた人間が放つ魔力の量ではない。


「ゼラニウム・インパクト!!!」


 少女の咆哮が轟音と共に響き渡る。

尋常ではない魔力のうねりが爆発的に広がっていき、ヴェルムの大群を光の中へ消し去った。


 全ての闇が光と共に消え去った後、

学園創設史上最大の被害者を出したこの戦いは一人の少女の光により幕を下ろした。

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