清永あかり、転生しました
すごい、なんてものではない衝撃が全身を強打する。
「あ…が…」
骨の砕ける音がする。
内臓が破裂したのか、口からゴボゴボと血が吐き出される。
「姉ちゃんっ!?」
弟の悲鳴で我に返り、そして地面に叩きつけられた。
「…っ!!けほ、ぅぐ」
「姉ちゃんっ!姉ちゃんっ!」
トラックの運転手が真っ青な顔で運転席から降りて、近づいて来るのが見えた。
「…け、が…な…い……?」
気が狂いそうな痛みに耐えてそう言うと、弟は泣きそうな顔で頷いた。
「ごめん、ごめん。俺のせいだ。」
「…ちが…あ…たの…せい、じゃ」
ない、といった時瞳がひとりでに閉じた。
(姉ちゃん!姉ちゃんーーー)
声が遠く、遠くへ遠ざかっていく。
母さん、父さん、先に逝くね。
ばいばい、しょうた。
そそっかしいったらなかったわね、最期まで。
もうわたしは守ってあげられないから、自分で気をつけなさい。
さようなら。
あかりの遺骸は、つーーーと涙を流した。
ぱちり。
人間の顔が覗きこんできていて、こっちをみてにやついている。
「あ!目が開いた!」
「良かった…一時はどうなるかと。」
「殿下、ご気分はいかがですか。」
「ちょっとちょっと。アルったらいきなり。そんな硬い言葉じゃ不安になるでしょう?赤ん坊なんだからだいじょぶかなぁ?ぐらいでいいのよ。」
「いやっしかし」
「はいはい、あなたには無理ね。余計なこと言ったわ。気にしないで頂戴。」
ふぇ…ふぇ…
「ふぎゃぁぁぁああああっ!!」
「あらすごい。」
「ど、どうするんだ!?」
「あんたが慌ててどうすんのよ。よーしよし、良い子ねぇ〜」
誰!?
誰なんですか!?
というわたしの叫びも虚しく、笑顔でスルーされている。
「この声…あぁ!!」
あやす知らない人たちの後ろから、たおやかな声が聞こえてきた。
「良かった…わたしのキルヴィ…本当に良かった」
「「王侯妃殿下!」」
おーこーひでんか?
傍の男の人は跪き、わたしを抱いているらしい女の人も頭を下げた。
「見せて頂戴」
「はい、妃殿下」
目の前に、金の巻き毛が美しい女性が頬を紅色に染め、目を細めてわたしの顔を覗き込む。
「可愛い子。痣がなんだっていうの。ただの痣よねぇ、キルヴィ。」
「あぶぅ」
「まあっ!!賢いのね。」
そう言って頭を撫でるのだが、
あの、違います。
わたしキルヴィじゃないって言いたかったんだけど。
清永あかりですけど。
「妃殿下」
「なぁに、アル」
「キルヴィ殿下は、必ずやお守りいたします。痣者だなどとは決して言わせ…」
痣者!!
そんな、どこに?
「えっ…えっ…」
「アル!」
「ぅえええええええっ!!ふぇえええええええええええええええっ!!」
「も、申し訳ございません!」
「アル!この子の前で痣…二度と言わないで!」
「申し訳ございませんでした!」
頭を擦りつけて謝っている男の人が気の毒で、なんだ原因わたしじゃん、と思い至り泣き止むと、
「……キルヴィ、分かるの?」
金の巻き毛の女性が驚いて目を見開いている。
「本当に賢い子だわ!キルヴィ、わたしがきっと立派な大人に育てますからね。」
「あぅ」
「本当に分かっているみたいでございますね。」
「ミホロワ、分かっているのよ。」
「そのようで」
あはは、うふふ、と笑い出す人の中で、わたしは一つの結論を出した。
わたしはもう、死んだのだと。
そしてキルヴィという王子さまに生まれ変わったのであると。