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そうです遭難です

「……死ぬのかな。俺」


ぽつり呟く森の中。


俺の名前はウォルト。


現在絶賛遭難中。


どうしてこうなったと言わざるおえない。


というのも、この世界は魔王によって危機に瀕している――らしい。


らしいというのも、俺の住んでるこの村は辺境中の辺境。


国が御布令を出した令書が届くまでに二週間もかかる辺境。


お陰で魔物という魔物にすら出くわしたことがない。


あるといっても村のやつらが、「俺、魔物見たぜ!? マジヤバイ!」とか自慢話にするくらいの辺境っぷり。


俺は魔物が見たい。


こんな人が往来もせず、自給自足で暮らしているようなちっぽけな村になんか楽しみは無く、日々自分が暮らす生活を営むだけの毎日は、本当に嫌だった。


そんな俺の想いに共感してくれる年の近い友達はもちろんいる。


だが、夢を見るだけなら誰にでも出来る。


現実、この村を出た先でどう暮らすかなんて想像出来ないし、そもそも俺はこの村以外知らない。


ここで暮らすみんなは、この村で人生の一生を過ごす気でいる。


俺はそれが嫌だったんだ。


そんな夢を抱くようになってから、村のみんなから煙たがれるのも時間がかからなかった。


俺の友達だった奴も、もう俺の理解は出来無いと言われ、今じゃ所帯を持ってる。


どんなに俺が切実に願おうと、俺の考えている事はこの村じゃ理解されない。


気づいたら、俺は旅の支度をし始めていた。


どこ行くわけでもなく――いや、目的なんてそもそもなかったのかもしれない。


最初のきっかけはもちろん魔物に一度は会いたいという願いだったが、そんなのはきっかけに過ぎない。


俺はもうこの村が嫌いになったんだ。


自分達が生活する為だけに働く日々、その先はみんなが似たような過程を辿り、人生に何の刺激も無いまま生涯を閉じていくこの村は、牢獄そのものだ。


だから、俺は旅に出た。


村を出るために、考えられる範囲での荷造りをして。


そんな俺を見送る奴なんかいなかった。


別に悲しくはない。


俺の両親は俺が13の時に死んだ。


親戚もいない。


同情してくれる近所の人もいた。


だが、俺一人を養う程の余裕がある家庭はこの村にある訳もなく、俺は自分の食い扶持は自分で働かないと手に入らない現実に、必死で生きてきた。


それを7年積み重ねて、俺の誕生日に、俺は村を出た。


初めは気分が良かった。


なにしろ、この忌まわしくも呪われた村から出ていける。その事実だけで俺の足取りは軽かった。


村を出て、いつも足を運ぶ範囲まで来て、その先。


まだ行ったことのない森の先へ――。


……後悔はしていないはずだった。


でも今は後悔してる。


今は、あの村での生活が恋しい。


今思えば、屋根のある家も、温かい暖炉も、味気なくも質素な食事も、全部が贅沢な物だったんだと身に染みる。


「……馬鹿だ」


ホントそう。


馬鹿だ。


うずくまった俺の気持ちを更に絶望へと誘うかのように、日は、沈んだ。


何も見えない。


月が出ていないのか、それとも生い茂る木の葉に遮られて届かないのか、目の前に手を持ってきても何も見えない感じない。


すっと心の中へ、恐怖が忍び寄る。


今まで生きてきた中で感じたことのない、底が見えない恐怖が、俺を吸い込もうとしてる。


はっ。と我に返り、腰に携えたランタンを手に取り、手探りでバッグの中にあるマッチを取ると、それに火を灯す。


辺りがほのかに照らされ、さっきまで見えなかった自分の手が、体が見える。


周りは草木で生い茂り、生き物の気配がしない。


闇と同化するんじゃないかと思ったこの場所も、明かりがあればちゃんとそれぞれに姿形がある。


俺も、ちゃんとこの場所にいる。


暗闇に溶けてなくなってしまうあの感覚がふっ。と背筋を凍らせる。


明かりがこんなにもありがたい物だなんて、気付けなかった。


ああ、違う。こういう時は逆に考えるのがいい。


暗闇で、自分の姿が見えなくて、不安で、怖くて、でも明かりがあればそれらはちゃんとそこにあって……。


まぁ、つまりは暗闇があったからこそ明かりが大事な物だと気づけたって事にしよう。


そうしよう……。


ランタンの火をじっと見つめながら、俺は知らない間に眠ってしまった。




【所持食材】

保存用パン・水・塩

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