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一階にいくつかある学食は、場所によって様々な料理を選ぶことができる。中でもドリンク類に力を入れているカフェは値段もリーズナブルなため、学年問わず全女生徒から圧倒的な支持を得ている。
疾風楓と寸鉄焔は、そんなカフェの一画にあるテーブルに座っていた。今日消費した分のカロリーを摂取しに来たのだ。
「そんなに気になるの? 秤さんのこと」
正面に据わっている焔が、コップに入ったマドラーをクルクルと回しながら聞いてくる。
「う、うん。まあ、ちょっとだけね」
「私達が気にしても仕方ないんじゃないかな」
「そうなんだけどね」
焔の言う通り、楓が気にしたところで天座秤の寝床の質は上がらない。女子寮に住んでいる二人の部屋に招くことなどできるわけもないし、それは本人も望まないだろう。
それでも、と楓は考えてしまう。
島の外からたった一人でやってきた男の子。
今日一日の彼の行動を省みれば、アアル島の常識が通用しない世界で生きてきたのは明らかだ。
突然そんな別世界にやって来て、最初の寝床が公園。
人ごととはいえ、あまりにもやるせない。
「楓ちゃん、マンゴージュース四杯目だけど。明日のレースは平気?」
「はっ!?」
考え事をしていたせいか、楓は黙々とジュースを口に運んでいた。
「平気じゃない! 何でもっと早く言ってくれなかったのよ!? あたしのコンディション管理はあんたの仕事でしょうが!」
「週一のレースなんていちいち出る必要ないのになー。でもそうなると、秤さんをお招きしないといけなくなるねぇ」
「……何でそんな話になるわけ?」
「だって気になるんでしょ? ならそっちを先にどうにかしてもらわないと。このままじゃ夕飯のカロリーも睡眠時間も滅茶苦茶だもん。ストレスって、新陳代謝にも影響あるんだから」
「うぐっ」
楓はたった今マンゴージュースをがぶ飲みしてお腹をタプンタプンにしてしまったはかりだ。悔しいが言い返すことができない。
「あの公園、屋台の裏から行けるよね」
「! あんたまさか、それで公園って言ったの?」
「秤さんを部屋に招くのは不可能じゃない。後は女としての覚悟だけ」
「か、かか、覚悟ってにゃによ!?」
焔の思わぬ発言に大いに狼狽える。
「だって女の子の部屋に男の子を誘うんだよ?」
「そ、それは! そんな、つもりじゃ……!! 第一、あんただって一緒じゃない!」
「私は覚悟できてるもん」
「ふぇ!?」
パートナーの衝撃的な発言に顔が熱くなる。
自分の部屋に異性を呼ぶ。
言葉にすると確かに意味深に聞こえる。
女子寮に住んでいる楓は当然男子を部屋に招き入れたことなどないし、男子の注目を浴びるのはいつも焔なので男子と喋ること自体もほとんどない。
そんな楓が会ったばかりの男の子を部屋に招くというのは、あまりにも『特別』な感じがする。
しかし焔が覚悟を決めている以上はパートナーである楓もそれに習うほかない。
「わ、私も、覚悟」
「男の子はよく食べるから、食費の覚悟をしなきゃね」
「は?」
「だからぁ。食費の覚悟。楓ちゃんは何の覚悟だと思ってたのかな?」
「あ、あー……、も、勿論、食費に決まってるでしょ!? そうと決まれば早速スーパーに行くわよ! そう。男の子は一杯食べるんだから!」
「でも秤さんの体重知らないから、どれだけ食べれば良いのかも分からないよね」
「……」
結局、いつも通り焔に振り回される楓であった。




