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革命乙女と七人の騎士  作者: 黒一もえ
1楽章・犬も従う協奏曲
7/30

五小節・北将軍代理、廊下でメイドと会話する

「ということがあったから仲良くできるか心配です」

 三時を少し過ぎた頃に騎士団の視察から帰ってきたエルに愚痴る。

「別に無理に仲良くしなくてもいいんじゃないの? 俺は結構人脈あるけど全員が全員俺と友好的な関係って訳じゃないし」

「冷たい。ケチ」

「なっ!」

 確かに変に友好的なのも怪しいと思ってしまうし裏があるのではないかと感じてしまう。それはクルアも同じだ。けれど、身近にいる人と冷めた関係でいるのはつまらない。

「…クルアに意地悪言うとか…。サイアク(笑)」

 リトが失笑しながらエルをからかった。

「で、そのシャルって、可愛かった?」

 先程までリトとぎゃーぎゃーケンカしていたエルが楽しそうな笑みを浮かべながらそんなことを言った。

「可愛いですよ」

 ジュディの束ねたキャラメル色の髪は、ほどけばきっと長くて艶のある「女の子」らしい物だろうし、肌も手も白くて綺麗だった(これは手入れ方法を是非聞きたかった!)し、声も華があった。

「私とは比べ物にもならないくらいの美人さんです」

 と、クルアが劣等感を抱きながら語っている一方で。

『容姿はいいけど性格難ありそう』

 リトの筆談をエルは読んでいた。

『そしてクルアは可愛い。マジで。卑屈になりすぎ』

「それは同感」

「〜で、〜ですよ! ……って、ちょっとエル、話聞いてますか? もういいなら仕事に戻りたいんですが」

「いや。クルアの声はいつまでも聞いていたいよ」

「…うわっ、なんですか、それ。寒い冗談はいいですから仕事やってください」

 口説き文句(?)に免疫のないクルアはさらりとかわして続きがないようにする。エルはいつも軽くて掴み所がないから(他の六人にも言えるけれど)苦手なのだ。しかも口説き文句や色恋の話ばかり。

「とにかく貴方のその軽口と女好きな性格は直した方がいいと思いますよ」

 とんとん、と書類の束を揃えながら何気なく言った。

 これが仇となるとは知らずに。

「どうして」

 エルがいつものように軽い調子で聞き返してきたのだ。

「なんでクルアがそんなこと言うの?」

 どうして。なんで。

 それは、幼なじみだから。盟友で、親友で、仲間で。だからちゃんとして欲しくて。

 なんで、ちゃんとして欲しい? 友人だからってちゃんとして欲しいと思うか? 今まで七人の個性的な性格には困らされたがそのままで良いと思っていた。なのにエルだけ……?

 いや。いやいやいやいや。ない。ないないないない。有り得ない!

「それ、は…その…」

 少しくちごもってから、言う。

「だって部下の皆さんに「将軍も攻略対象って噂だぜ」とかコソコソ言われているの嫌だからです」

 真顔で部下の内緒話を口まねしてみせる。以外と動揺していることがバレないように。

「…「将軍も遊びか」とか、「北将軍代理には敵わないな」とか言われてるのは聞いていると、可哀想になる」

「そんなことも言われていたんですか!」

 リトの口から出てきた新事実に噂の将軍は呆れる。

「遊び、ねぇ」

 やれやれとでも言いたそうに一つの溜息をつくエルは憂い顔だった。けれどすぐに笑顔に戻った。

「なんていうか、北将軍の部下は暇人だね」

「…自分のことを棚に上げるその性格も直した方が良いと思いますよ?」

 エルの独り言を聞き逃したクルアが渋面で呟く。

「言っておきますが、仕事に支障が出ることを恐れての発言です。あくまで上司として!」

「あー、ハイハイ。ちょっと、俺休憩行く」

 休んでばかりのような気もする北将軍代理が執務室を出て行ってしまった。


 ぶらぶらと王城の廊下を歩いていると、可愛らしいメイドを見つけた。可愛いが、勝ち気そうな感じの。

あれがジュディ、か?

 昼休みに新・北将軍専属メイドの話を女性達に聞いていたエルは情報と統合してそう考えた。

「ねえ、君は誰? どこ担当?」

 女性受けの良い笑みで話しかけると、ジュディと思われるメイドがエルを凝視した。

「自分の情報を簡単に言うのはそこら辺の脳内空っぽ女だけよ。みくびらないで」

「それは失敬」

 リトの言っていたとおり気が強そうだ。だが、軍の本部に勤務できるというくらいだから表と裏は使い分けられるのだろう。

「でも、貴方なら知っているでしょう? エルクローラ北将軍代理様」

 わざわざ長ったらしい名前と役職名を持ち出されても、こちらの顔なんて知られまくっているので大して気にならない。

「俺の地位を知っていてその対応って随分余裕だね」

「肝が据わっているのがチャーミングポイントよ。前の主にそう言われたわ」

「ナルホド。そのようだね、うん」

 結構な後ろ盾があると見た。

「シャルは出世願望とかある?」

「バリバリ名前知ってるじゃない。え? 出世? ないけど」

「珍しいね」

「上に行ったって何もないもの」

 妙に冷めた目をしたと思ったら強い光を宿した視線に切り替わる。彼女の中で今の地位に何かしらのこだわりがあるのだろうか。

「それとも」

 シャルの瞳が怪しく艶めかしくなる。ころころと表情が変えられることにも驚いたが、クルアとほとんど同じくらいの年齢でちゃんと色香が出せるといいうことに、もっと驚いた。あそこまで色気を感じさせないカタイ「女の子」はそういないだろう(たまに無自覚で色々言うが!)。

「貴方が私を出世させてくれるの?」

「無理だ」

 断言できた。今の自分にそんな権力はないし、そんなことするつもりもない。語弊があるかもしれないが、今はまだそんなことやってる暇ない。というかやってはいけない。地位が危うい。まだ、クルアの側にもいたい。それに。

「たった今、俺の上司におとがめ食らったところだから」

「そう」

 つまらなそうに笑うとジュディはモップをつきだしてきた。どうやら掃除の途中だったらしい。北将軍専属メイドであっても使い回されるのだろうか。それともシャルくらいの美人だから苛めの一環かもしれない。そのあたりは調べる必要がありそうだ。

「でも、期待しているわ。貴方は優良物件と名高いもの。じゃあね」

 バケツも携えて帰っていく姿が妙に様になっていたのでエルは苦笑しそうになった。

 彼女のパトロンになることは無理だが、面白い性格なので今後、友好関係を築けたらいい。エルはそう思った。

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