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革命乙女と七人の騎士  作者: 黒一もえ
1楽章・犬も従う協奏曲
6/30

四小節・専属メイドと対面する

 ぐったりとした面持ちでクルアは業務をこなしていた。昨日の会議で役割ができ、仕事が増えたのだ。

「どうしてそんなに疲れた顔してるの?」

 はもはもと昼食のサンドウィッチを食べながらリトが尋ねる。

「……」

 恨めしげな表情を浮かべつつ、クルアは口を開く。

「主に貴方達との会話から来る疲労感の所為です」

「…会話疲れは蓄積する……新発見」

 嫌みのつもりだったのに、なんだか余計げんなりしてきた。

「…もしかして、怒ってる?」

「何にですか?」

 一応確認をとる。最近イライラ気味のクルアとて、余の中野もの全てに対して憤っているわけではない。

「…昨日のことを引きずったままにするのはよくない」

 リトはクルアが怒っていて、その原因が昨日の出来事だと判断したらしい。

「散々いじっておいてその台詞ですか…。まあ、いつものことですけど」

 思い溜息をついてから答える。自由人が多すぎて何か不憫な目に遭っている気がする。ちょっと切ない。慣れを感じるともっと切ない。

「そういえばリト。貴方は食堂でお昼食べないんですか? エルも行ってますけど」

「…僕はエルと違ってみんなで食べなくてもいい。てか、正直ベタベタされるの嫌いだし」

 珍しく饒舌なリトは顔をしかめ、顔にかかった銀の髪を手で払う。

「リト……」

 __いや、ここで私が痛ましそうな顔をしても、何も変わらない…。

 けれど、そういう表情にはなってしまう。リトの過去は、少し変わっていた。

 彼は昔から寡黙だったり色の抜けた髪だったわけではない。少年時代はきらきらと瞳が輝く、友達もいる、ちょっと悪戯が好きの顔が良い少年だったらしい。けれどある日崇拝者が出来て追い回され、周りの人に被害が及ぶようになってからは寡黙で知能派の子供になったのだとか。今も親しい人はあまり多くないし、騒がれることを大の苦手としている。

「それに僕はテオの出来損ないの弟だから」

「……」

 珍しく、間を置かない言葉。彼としては強調したかったのだろう。リトの兄はコントラート西将軍だ。そして中立派だった家族の反対を押し切った兄と共に自ら望んで革命派につき、兄に頼り切っている出来損ない少年を演じた。そうすると目立たないという美点と、クルアの勧誘が決め手だったそうだ。結果的に、最年少美少年将軍補佐としてかなり目立ってしまったのだけれど。

 コンコン、とノックの音が響いた。

「失礼します」

「どうぞ」

 新メイドの声がはっきりしていたのでクルアは少し驚いた。慎ましやかと言うより心の強いイメージを与える声だったからだ。

『厄介そうな人だ』

「なっ!」

 ちらりと振り返るとリトがスケッチブックにそう書いていたので、クルアは素早くページをめくって隠した。

「本日から北将軍専属メイドになりましたジュディ・ロワと申します」

 新しい北将軍専属メイドだった。

 というか、リトの人を見る目はなかなかの物だが、このメイドの場合は完璧な動作や気の強さを感じさせる声などから、厄介さより勝ち気さの方が感じられる。どちらかというとクルアの好みの性格だ。一癖二癖ある人間の方がまとめ甲斐と協調させ甲斐がある。

「シャルルさん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。クルアリア様、ジュディとお呼び下さい」

 クルアリア様と呼ばれるのは何だかくすぐったい気持ちになる。

 前任のメイドとは仲良くなったので、愛称のアリアで呼んでもらっていた。部下は将軍と呼ぶし、騎士のアルは絶対的な忠誠の証として名前+様を付けて呼んでくるが、これはもう慣れた。だからそれ以外の人に名前を呼ばれると何となく新鮮だ。

「では、シャル。こっちにいるのがリト・コントラート。私の部下です」

 クルアの紹介に合わせてリトが軽いお辞儀をする。

「今ここにいないんですけど、もう一人は…」

「エルクローラ・ハーツ様」

 強い光が奧で燃えている瞳と視線がぶつかった。シャルの青い瞳が炎をともしたように煌めいていた。

「存じております」

「あ、すみません」

 よく考えれば自分が働く環境についてよく知らないメイドがいるはずない。それなのに紹介をぺらぺらと始めてしまったのだ。気が強い女性なら何か感じる物があったのかもしれない。

 __失礼なことしてしまいました。また、失敗です。

 先日も、南将軍のフレッドと騎士団長のルイツに話しかけたらかわされてしまったのだ。

 人間関係に悪魔でも取り憑いているのだろうかと頭の片隅で考えながら気まずい気分で立っていると、ジュディは口を開いた。

「昼食をご用意しました。執務室で召し上がるかと思い、持って参りました。本日はカルボナーラとレタスのサラダでございます」

「え? あ、はい。そこのスペースに置いて貰えますか? …書類ばかりですみません」

「いいえ」

「……」

 そしてまた訪れる沈黙。本来なら、メイドと主はあまり会話しないものだが、クルアはまだ家督を継いでいない(この国は女性にも家督相続権がある)未熟な自分に畏まられることが嫌なのだ。それに身近な人とは仲良くしたいと思っている。

 クルアが気まずい思いをしている一方で、ジュディは仕事を済ませ、去っていった。

「軍のカルボナーラってベーコンがたっぷり入っていて美味しいですよね。上に乗っている半熟卵も」

 気まずさを誤魔化すように、リトに話しかける。

「僕、食べたことない」

「いります?」

「うん」

 なんて他愛もない会話をしていると昼休みが終わった。業務が片付かずに昼食の時間を逃した北将軍は食べながら仕事をしたとかしていないとか。

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