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革命乙女と七人の騎士  作者: 黒一もえ
1楽章・犬も従う協奏曲
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三小節・北将軍、会議で苦戦する

 クライオネル王国の王宮に位置する将軍達の会議室は、厳かな空気で満ちていた。

「ーーです。僕の報告は以上です」

「質問は……ないようですね」

 王妃が皆に確認を取る。会議用の円卓を囲む人間の中で南将軍の報告に意見する者はいないようだ。

「では、北将軍。どうぞ」

 司会をしている王妃がきらきらとした瞳でクルアを凝視している。それはもう、恐ろしいくらいに。

「…はい。今月の領地内での主な出来事は…」

 報告書はできあがっているので喋りやすい。だから王妃に見つめられて緊張するような状況でもドジをふむことだってないはずだ。

(でも。でもーー)

「どうかしましたか?」

「い、いえ」

 いささか、視線が痛い。

 興味のなさそうな西将軍のテオと、いつも笑顔で考えの読めない南将軍フレッドは別に気にならない。ただ、楽しそうな東将軍のにやけ顔がなんというか。

「…ということで、盗難事件が多発しているそうです。剣を使える者もいるようで、騎士を十数名送り込みました。さらなる被害が見受けられるようでしたら応援を頼もうかと考えている次第です」

 報告が進んでくると、王妃の視線も気にならなくないくらい、冷静に物事を考えられた。例えば、この盗難事件の犯人など。

 本人は無自覚だが、クルアは案外肝が据わっている。人に怒られているときでもその状況を打開する方法へ思考が向かう。時には全く関係のないことを思う余裕も。これが、彼女が王に認められた理由の一つだ。

「気になるのは西との境の村で事件が多発していることです。西にまで被害が及んだら…。とにかく、村荒らしと言っても過言ではないので事が大きくなる前に対処する、優先事項に追加します。これで私の報告は終わりです」

「では、北将軍の報告に質問や意見がある者は?」

 王妃がたおやかに微笑みながら問うと、けだるげに手が挙がった。西将軍だ。

「西将軍、どうぞ」

「村荒らしについてですが、西でも既に多発しています。また、よくない噂もあります」

「噂?」

 先程まで楽しそうだった東将軍が、真面目な顔で質問する。

「村荒らしの犯人が、北将軍と東将軍の紋章が刻まれた武器を持っていた、と」

 紋章の刻まれた武器は、各自の領地の村や町(街)に将軍が授与するものだ。国の民である誇りを維持させ、戦では国として協力しよう、という意志を示すことが目的なのだが。

「村荒らしは夜のことですし、見間違いの可能性もあります。とにかく、あくまで噂。一応そういう話もある、ということで覚えていただければいいかと。ほどほどの警戒は非常時に弱いですから」

 テオの言うように、警戒は重要だ。クルアはメモを取る。

「それと、今は抑えていますが東への抗議文を送ろうという動きがこちらの領民にはあります。国内での紛争なんてもってのほかですから、優先的案件としてこちらでも対処していく所存です」

「なんでこっちだけに抗議文なんだよ。北は?」

 不服そうに訪ねる東商軍医、テオは淡々と

「北将軍は革命の功労者だからでしょう。これで意見は終わります」

 そんなやりとりを聞きながらクルアは心の中でため息をつく。

(私、信用されてないんでしょうか?)

 クルアは、テオから村荒らしについてのことを聞いていない。今日だって朝から会っていたのに。

(もっと、頼られる将軍になりたいものです…)

 そんなわけでクルアのどんよりした気持ちが晴れないまま会議が終盤に近づいたところで、王妃がぽん、と手を打った。

「今からかる〜いお話にいたしましょう。建国記念日についてです」

 それは、はたして軽く済ませていいものなのだろうか。クルアはそう思ったが、場の空気がやわらかくなったのでまあいいかと頷く。張りつめた雰囲気はあまり好きではない。

「そう言えば、北将軍は大きなお仕事がありましたよね」

「スピーチですよね。もう原稿は仕上がっています」

 建国祭は一週間に渡って開催される。クルアは、初日のスピーチを担当することになったのだ。最終日に王が建国祝いの言葉を捧げることから対になる存在なため、名誉なことだ。だが、

「いいえ。もう一つの方です」

 王妃がもったいぶった言い方をする。心当たりのないクルアは戸惑うことしかできない。

「隣国・ベルメイユの王子殿下の接待ですよ」

「は?」

 即座に聞き返す。これも初耳だ。

「北将軍補佐に連絡したはずですけれど、聞いていませんか?」

 クルアは頭を縦に振る。それからぐるん、と後ろで控えているリトを睨みつける。

『めんご』

 リトの掲げたスケッチにはおよそ謝る気の感じられない言葉が書かれていた。・

「絶対、面白がってますよねっ!?」

 七人の騎士も王妃もクルアを面白いおもちゃか何かだと思っているのかよくからかう(王妃の場合はからかうとはまた違った感じだが)。王妃にいたっては頻繁にお茶に誘ってくるのだから、緊張しいのクルアは何かしでかしそうで怖い(あいにく仕事が大変で暇はない!)。

「あの。それ、私につとまる仕事に思えないので誰か交代していただけませんか」

「誰が代わるか。お前以外の誰がやるんだ」

 西将軍の言葉に少し感動するクルアだったが、

「お前じゃなくなったら他の将軍、場合によっては俺にお鉢が回ってくるだろ」

「……」

 西将軍は、要するに面倒くさいだけである。

「そうだね。それに僕達みたいにむさくるしい男に案内されても、王子様は嬉しくないんじゃないかな? せっかく遠いところからやってきたのに、ようこそ〜って出迎えてくれるのが同性だなんて華がないよねぇ」

「私がもしどこかの国に来賓として向かうことになっても、男性に迎えられて喜びません。むしろ女性の方が接しやすいです」

 ばっさりとフレッドの意見を斬るが、常に笑顔の南将軍は折れない。

「君の場合は女の子だから。男性ーー特に今回やって来る王子殿下のようにうら若い方なら同世代の少女との会話を楽しんでくれるよ」

「そ、そうですか?」

 なんだか強引な感じがしないでもないが、一理あるような気がしないでもない。結局どうなんだと言われれば、押し切られているように思えてならない。

「俺は仕事が多いのでパス。西か南がやらないならもう、クルアでいいよ」

 テキトーに言い放つ、東将軍。

「ここに私の味方はいないのかっ!」

 一人ツッコミをしつつ、藁にもすがるような思いで王妃をうかがい見る。

「ふふ」

 王妃は、とても楽しそうにくすくすと笑っていた。そして、クルアに気がつくと手を振りながらにっこりする。どうやらこちらの意図は通じなかったようだ。

 駄目だ。

 味方ゼロで四面楚歌。

あそばれてる!)

「どうしても、私じゃなきゃ駄目なんですか?」

 すると、皆が黙る。

「お偉いさんで女の子だから」

「王子を接待できる丁度いい地位で言えば、まあ、そうだな」

 テオがフレッドの意見に続く。

「あ、では、私はどうでしょう?」

 はいはいはいっ、と名乗り出る王妃。

「いや、王妃殿下は、ちょっと…」

としですか! 年齢がアウトなんですか! それとも地位的な問題ですか!」

「十分お若いですし地位は高いです。けど、でもねぇ」

 詰め寄られて答えにくそうに言葉を濁す西将軍。あくびをして楽しそうに傍観する東将軍。笑顔を崩さずクルアを接待役に回そうとする南将軍。困り果てた、北将軍と将軍達の付き添いである代理と補佐達。

 なんだこの会議は。全くまとまりがない。

 こんなにもゆるいのに何故、革命を成功させ、国民に支持された状態が続くのだろう。

(もしかして皆さん、私に押しつけるために一致団結してめちゃくちゃなことをやっていたり…?)

 いや、ない。断じてあってはならない。国家の重鎮達がそんなようではいけない。非常によろしくない。

「とにかく」

 切り替えるように響いた王妃の台詞にぴたりと会話が終わる。

「ベルメイユの王子殿下接待役は、クルアリア・トリスティーレ北将軍に一任というかたちでよろしいですね?」

「「「賛成」」」

「え、ちょっ、待っ!」

「では、解散♪」

「へ…あの……はいぃぃぃ!?」

 結局、できレースじゃん。

 クルアは頭を抱えてうずくまりたい衝動を必至に抑え込んだ。

 

 お気に入り、ありがとうございます。

 ゆるっゆるな将軍’sが好きな黒一。

 フレッドがなんだか書きやすいです。


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