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革命乙女と七人の騎士  作者: 黒一もえ
1楽章・犬も従う協奏曲
19/30

十七小節・革命乙女と集う騎士

すみません、同じ話を間違えて投稿してました!

こっちが正しいです!

 北将軍執務室。

 きらきらと輝く太陽に負けないくらいの愛らしい笑顔で掃除するのは北将軍専属メイドのジュディ。

 そんな彼女に部屋を掃除され場ながら星々さながらの光を宿した瞳を歓喜に潤ませているのは北将軍クルア。

 軍の男性陣人気ワン、ツーを独占状態の彼女達が喜んでいる状態を見られないエルは非常に残念だったと言えよう。けれど彼は彼で色々としていることがあるのだ。

「こう、良い報告が続くと嬉しくなります」

 クルアは報告書を読みながら満足そうに微笑む。

 北西の村から新しい報告書が届いた。内容的には「村荒らしが減ってきた」ことと「西の村が北の村への誤解を解いてくれた」ということ。

 村荒らしの件は誰が犯人か予想が付いている。

 だが、目的が掴めない。推理の域を出ない仮説しか立たないし、あの、言葉も気になる。

「リト」

 怪しまれないように執務室に残ったリトはクルアの声を聞くと顔を上げた。

「昨日お使いを頼んだことは忘れていませんよね?」

 若干怒気をはらんだ低い声にリトは少しびくり、とたじろぐ。そして逃げ道がないか探すが、生憎執務中にも掃除を行う異例のメイド・ジュディが扉近くにいるので出口はないに等しかった(ジュディは結構忠実なのだ)。

 こうなったら。

「…お使いなんて、ない。聞いてない。知らない」

 リトは、古き良き手法、「しらばっくれる」を、選んだ!

「嘘つくな」

 近くにあった判子が押したての書類で頭を叩かれたのでリトは悶絶する。天才の彼に武力を行使するのは敵か兄か北将軍くらいなので、この年になってもリアクションが子供っぽくなってしまう。

 銀髪をくるくるいじりながらリトは唇を尖らせる。

「…僕はちゃんと言った。けど、みんな忙しいとかで来てくれない。行かないってテオも言ってた」

 誰の影響か段々粗暴になってきたクルアは不快そのものの顔で丸めた資料をぺしぺし机に叩きつけながら頷いた。

 リトのお使い内容は一つ。七人の騎士を全員クルアの執務室に集める。忙しくても、手が離せなくても連れてくる。

 七人は何かに縛られることを極端に嫌うタイプだから気にくわなかったのだろう。

「笛を使います」

 クルアは首から下げていた銀のチェーンネックレスを取り出すと、チャームのように付けていた小さな緋色の笛をくわえた。深く深呼吸すると優しい息で笛を吹く。

 リトは耳を押さえた。彼には聞こえた。常人には決して聞こえない笛の音色が。聞けば美しく滑らかな絹にも似た音だと思うが、どこにいても耳に響いてくる高い音と胸を縛り付けるような不快感に襲われるのだ。

 あっという間だった。 

 キィン、と短く鳴ったあと、執務室の床から数ミリほど上に仄青い魔法陣が浮かび上がった。ものが弾けるような音が盛大に響いた途端、それぞれの個性どおりの立ち姿でリトをのぞいた七人の騎士が揃っていた。

「また……急だなー」

 ルイツが、ぽりぽりと頭をかく。尻餅をついているので相当に間抜けなのだが、きっと「呼び出される」前は椅子にでも座っていたのだろう。

「どうも、皆さん」

 久々に集結した盟友を見て、クルアは嬉しくて満面の笑みを浮かべた。けれど拒否権はあるが、いきなり主に呼び出された六人は少し不満そうであった。

「用件は何だ」

 面倒臭そうにテオが聞いた。

「七人の騎士の皆さんに頼み事があります」

 頼み事と言えば可愛らしいがそんな甘ったるい話ではない。肉弾戦ありの革命前夜もクルアは愛らしくこう言ったのだ。

 エルは自然と苦笑する。これを当たり前と受け止められるのが、嬉しいような悲しいような。もうしかして俺ってマゾかも、なんて。

「仕事です」

「どれくらいの?」

 南将軍は冷静に質問する。

「交友関係に重度の亀裂が走ってもおかしくないくらいの」

「誰と誰の交友関係だ、わんちゃん」

「国と国とがぶつかる可能性もあります」

 クライオネル王国に喧嘩を売っているのは多分、ベルメイユ王国だとクルアは睨んでいる。

 長期滞在する王子。北将軍に取り入ろうとしたり、意味深な発言をいくつか残した彼は怪しい。村荒らしの件は、ベルメイユの策かもしれない。北西の村に一番地書く位置しているのは何を隠そうベルメイユ王国である。彼の国はその昔、隠蔽と捏造と隠密で繁栄したと噂される国だ。弓矢の偽造なんてお茶の子さいさいだろう。しかも、学のない者が集まる「天の邪鬼」。これはベルメイユで育てられた反クライオネル王国用団体なのではないだろうか。

 だが、引っかかる物があることも事実。「天の邪鬼」の存在はクライオネルが気にくわなくなったときの保険だとしても、何故今の時期に動かしたのかが気になる。

「後三日だからですかね」

 今回の建国祭はクライオネルにとって特別な物なのだ。暴君と名高い歴代の王に縛られてきた国民達は、あまり死者のでない素晴らしい革命で王の呪縛から解き放たれた。それでも国民の心に残った傷は深く、今でも痛む。せめてもと帝国に変えようとしたが急速な変化と少なからず受けた被害に立腹した周辺諸国からは変更にも最低二年の時間をおくように説得された。今年は「王国」が「帝国」になる。現王は国名にも建前にもこだわらないが、国民を鎖から解放するために国を変えた。それを祝うのが二年目の、そして一年目になる建国記念日なのだ。

 ベルメイユはいつもにこにこ笑って腹の内を見せない。だから周辺諸国をやんわりと宥めてくれたが、何を考えているか分からない。

「グレイズ様は私にパレードを開催すると仰いました。それはこの国を阿鼻叫喚のパニックにする、という意味だったのかもしれません」

「……それは流石に飛躍してる」

 仮説が嫌な妄想になりかけたところでエルの冷ややかなつっこみが入り、クルアは握っていた拳をゆっくりゆっくり、まるで壊れ物を扱うかのように開いた。

「とにかく、あなた方にはやって貰うことがあります!」




 リトを除く元、クルア専属騎士達は会議をしていた部屋に戻る。

「人使い荒いよね、クルアも」

「いつでも俺達に相談すればいい」

 クロウは何を考えているのかよく分からない黒炭のような瞳で、キラキラ輝くティーカップの中の紅茶を眺めながらぽそりと本音を零す。

「みんなに嫌われたくない、と遠慮しているのでは? 皆さんがそのように繊細な神経を所持しているのであればクルアリア様の気持ちも分かったと思いますが」

 鉄面皮に近いものがある無敵の笑顔を張り付かせたライドは嫌みをすらすら口にするので、彼の兄的存在であるルイツは顔をしかめた。クロウとはなかなかソリが合わなくて困る。

「いや、クルアは繊細ってほどでもないと思うよ。結構図太いって。あの年で俺等をこき使えるなんて普通の令嬢には無理だろ?」

 エルの言葉はいつも正確にクルアをとらえている。

「つーか、あいつは直感任せだよな。俺だったらもっと隠密使って色々やってからじっくりじわじわ追いつめるな。ホント短絡的」

「テオはネチっこい粘着質だね」

 南西将軍コンビは仲が良く、しばらくいがみ合いを続けていたが、「まあ」というエルの声で大人しくなる。先程の通りエルはクルアを理解しているので話しを聞いておくと後々役に立つのだ。

「遠慮しないで話しかけてくれれば尻尾振ってワイワイ賑やかに話すのに」

「お前はいつも会ってるだろうが」

 悔しさに身を任せたクロウの鉄拳は、不意打ちだったためにエルには高価絶大だったというのは余談である。


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