十六小節・七人の騎士、密会
お久しぶりです。
これから投稿ラッシュいきます。
北将軍執務室の将軍代理の席に鎮座していたのはグレイズだった。
うんざりしたクルアは無言で自分の机に向かう。そして気を紛らわすように無心で書類の束を片づける。
まあ、なんということでしょう。先程まで乙女の物とは思えない機密資料などの書類に埋め尽くされていた机が、きらきらと輝いているではありませんか。北将軍が無心で行った作業のおかげで書類は片付き、元の美しさを取り戻したのです。
「おい、無視するなよ」
「ジュディ、お茶のお代わり下さい」
「はい、アリア様」
グレイズを毛嫌いしているジュディはもちろん、トラウマが出来たクルアは隣国の王子を空気扱いした。
「ジュディ、どうしてエル達いないんですか?」
「所用があるとかで西将軍が連れて行かれましたよ」
「と、いうことは今日は邪魔が入らないな」
「用って何でしょう。私、知らないです。頼りにされていないんですかね。ちょっとショックです」
「ほぉ。北将軍ともあろうお方が親友に無視されているとはいい気味だ」
要所要所で喋るグレイズがうざったい。
「人の不幸がいい暇つぶしのようですね。それは王子様のお守りをする者としては光栄です。どうぞ、もっと好きなだけ囃し立てて宜しいですよ? 心ゆくまでお楽しみ下さい、殿下」
昔クルアの母は娘にからかわれるとこう言った。それを真似してクルアも偽物の笑顔を張り付かせる。
ジュディは大人気ないな、と思った。
「…………ごめんなさい」
「よろしい」
蚊の鳴くような小さな声で、傲岸不遜な王子は謝った。なんというか、悪ガキが大人ぶって母親に叱られ謝ったような雰囲気だ。
「さあ、もう出てってください」
優しい笑みで子供を諭すみたいに語りかけるとグレイズは真っ赤になって椅子から立ち上がった。
「なんで俺様がこんな仕打ち…! 末代までの恥だっ」
「あー、はいはい。他言しませんから早いとこ帰ってください。そして二度と私の前に現れないでください」
リトの影響かどうかは不明だがクルアは日に日に毒舌になっていく。
「い、いいか? 俺はお前を俺の物にする」
「私は誰かの所有物ではありません。人間です。そしてその台詞飽きました」
「うう…。強気になれるのも今のうちだ! 俺はパレードをするぞ」
「? どうぞご勝手に?」
「お前も出て貰うぞ」
式典だと緊張してドジを踏むことがあるので極力出たくないというタイプのクルアは不満そうな表情になった。
「この国を揺るがす、盛大なパレードだ。じゃあな」
結局、グレイズは何がしたかったのだろうか?
エルは紅茶を一口飲む。東洋の緑の茶はあまり飲まないが悪くない。苦みで心がすっ、とする。
「で、どうするよ、あれ」
「困ったよね。本当に一途すぎる」
南将軍は刺繍をしながら呟く。彼は裁縫が得意なのだ。
「何事にも一生懸命なのがクルアリア様の長所です」
村荒らし調査からある任務のために戻ってきたライドがにこやかな笑みで断言する。
「短所でもあるな」
巡回の途中にこっそり抜けてきたルイツがキャラメルをガリガリと歯で砕く音が西将軍の執務室に響く。
「馬鹿正直で策略家だから将軍でいられる」
「まあ、そうだな」
コントラート兄弟が頷き合う。
「俺はあれくらいがクルアだと思う。それにまだ不完全燃焼のはずだ。あいつは水の中にいてやっと本領を破棄できる」
微笑するクロウの目が優しい物だったのでルイツはおじ、お兄さん特有(?)の鋭い勘を働かせて微笑ましくなる。
「そうだね」
エルは珍しく黙っていたがようやく口を開き、背伸びをしてソファの上の足を組み直す。
「俺は好き勝手にやってるクルアが好きだから良いと思うよ。俺はあいつの犬だから従うまでだし」
彼のさらりとした台詞にクロウが固まったのを見逃さなかったテオは苦笑し、ルイツはエルの気持ちが「ライク」かあ「ラブ」のどちらか無性に気になり、難しい顔をしていた。
「どっちでもいいが、笛はどうなるんだ? 使われたら俺は恥死するな」
フレッドが苦々しく呟き、皆、黙る。
クルアは一つの笛を待っていた。七人の騎士にとってそれは重要な存在であり、これからの自分達の人生を大きく変えることだってある代物なのだ。
「まあ、準備はしておいた方が良いかも」