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革命乙女と七人の騎士  作者: 黒一もえ
1楽章・犬も従う協奏曲
10/30

八小節・王子は厄介

 クルアは辟易していた。

 あれ? デジャブ?

 グレイズ・シード・ベルメイユは七人の騎士と同等なくらい面倒くさかった。ガキっぽかった。

 一人で七人分の驚異になる奴はクルアの生涯において始めてだ。

「クルア、大丈夫?」

 エルが声をかけてくれる。

「大丈夫です。貴方達で慣れてますから」

「そう」

 意地を張ったクルアに彼は優しい声で返してくれる。決して深入りせずに受け止めてくれるだけ。

 ずるい。

 なんだかんだ嫌み、皮肉、説教を言っても本当はエルに助けられている。どんなに辛いときも明るい雰囲気で周りまで巻き込んで空気を変える。自分が悪者になっても周りが和やかになることを望む。

 おい、とグレイズが声をかけてきた。

「なあ、アリア。次は東将軍に会わせろよ」

「え」

 先程グレイズは騎士団長に会わせろだとか言っていきなり警護中に会いに来られたルイツに遠回しに迷惑がられていた。彼の右腕のアルも巻き込まれて苛ついていた(いつも笑顔で感情の起伏がわからないのに!)。

 東将軍は七人の騎士の一人ではないが軍内では割合仲が良い。有能だがサボリたがり、クルアの執務室に文字通りお邪魔している。その貸しで会ってくれるかもしれないが迷惑をかけるのは好まない。

 とは言ってもクルアには拒否権がないのだけれど。

 ということで東将軍の執務室に来てしまった。東西南北の将軍の最年長でリーダー的存在の東将軍は、一応偉く、仕事に追われているのだ。だから式が終わった直後に執務をしているわけで。

「あ、おひさー。何してんの?」

 ぐったりした顔のクルアを見て怪訝な顔をしながらも東将軍は迎え入れてくれた。

「ベルメイユから王子が訪問にいらっしゃいました」

「はぁ?」

 冗談はよせよと言わんばかりに同僚の顔を見つめると、その次に彼女の後ろを見た。

「あ、マジか」

 納得した。

「ようこそグレイズ様。私はエヴァン・チアーズと申します。どうぞ、お気軽にエヴァンとでもお呼びください」

 椅子から降りた東将軍の礼はどことなくエルに似た高貴さを漂わせる感じだったのでクルアは瞬きした。なんとなく二人が重なって見えた。だが、じっくり見てみるとそんなこともないのできのせいだと自分を納得させる。

「おお。噂の東将軍はこいつか」

「噂?」

 グレイズの言葉にクルアは首を傾げる。東将軍は戦争で活躍したが、そう大きな噂を聞いたことがなかったからだ。

「革命戦争で正面から敵に仕掛け、堂々と倒したクルアリア・トリスティーレ。その裏で工作し手助けしていた影があった。その影は他国のお偉い方とも接触していて、革命に肯定的立場になったらいかに有利か説いた。そんな話だ。うちの父親も説得させられたクチだと、よく耳にする。本人にははぐらかされているが、それが何よりの証拠だろう?」

 初耳だった。

「それは俺じゃないです。あ、俺って言っちゃったよ」

 東将軍は即刻否定した。…含み笑いをしながら。

「そうか。お前は有能だと聞いたからな。悪い」

 以外と律儀なガキ王子(年齢はクルアと同じだが)はそう言うと少し思案してからぱっと瞳を輝かせた。

 うんざりしつつ、クルアは尋ねる。

「次は、どこの誰ですか?」

「西と南の将軍だ!」

 きらっきらの悪意がない笑み。そういうのこそ、タチが悪い。

「それにしても、俺がどこかに行きたいと、よくわかったな」

 いえいえ。何か思いついたときの瞳が子供みたいだったのですぐわかっただけです。要するに貴方は子供っぽいのでわかりやすいんです。

 なんて言えるわけもなく、「なんででしょう?」と作った愛想笑いを浮かべる。

「お前と俺は馬が合うのかもしれないな!」

「そう、ですか……」

 勘弁願いたい。

「行くぞ!」

 グレイズは執務室を出て行った。

「クルア」

 小声で名前を呼んだのは東将軍だった。

「どうかしました?」

「俺、あいつ嫌い」

「はあ……」

「僕も嫌い。いけ好かない」

 リトがちょっとだけ饒舌になった。

「子守、大変だろうけどガンバ」

「はい」

 返事をしつつ思う。ベルメイユの王子をガキだと感じているのは自分だけではないのだと。

「エルもリトもしっかりしろよ」

「どうして俺達だけ曖昧なアドバイスなの」

 ちょっと嫌そうな顔をしてからエルは笑った。

「まあいいや。そういやクロウは?」

「南におつかい。そろそろ帰ってくるだろうけど待つ?」

「グレイズ様が怒ったらたまらないので私はいいです」

「俺も」

「同意」

「ん。じゃな」




 西のテオは外出中。南のフレッドは部下と話し込んでいた。とてもではないが会える状況ではない。これは運がよいのだろうか、悪いのだろうか?

 折角なら会いたいと思っていたのでちょっとがっかりしていた。

 とりあえずクルア達はどうするか話すため、廊下にでた。

「もう行きたいところが無くなったなぁ」

 面白くないとでも言いたげなグレイズの声に脱力する。やっと、やっと、任務から解放される!

「では、帰るという選択肢がありますがどうでしょうか」

 長い付き合いだからこそわかる、エルの苛立った声だった。自分の内で静かに静かに怒りの炎を燃やしているのでわかりにくいが、相手と距離を置いたような、わざとらしい対人用の声。クルアくらい長く接していなければ、それがわざとだとわからないのも流石と言うか。

「帰る? つまらないだろう!」

「…グレイズ…様ももう帰らないとベルメイユ王国に着かない…。遊んでいる暇はないと思う……思います」

 反論したのはリトだった。「グレイズ」と「様」に間があったのは、つい呼び捨て思想になったからだろうか。

 グレイズは少ししょんぼりしたように見えた。だが、リトは連れ回されて少し疲れているようだったし、自分より年下のグレイズに散々我が侭を言われていたエルも、少し頭にきているようだった。クルアは精神的にまいっていた。ものすごく気に入られているらしく、メチャメチャ構われて鬱陶しかった。

「グレイズ様—! お探ししましたよー! 帰りますよー!」

 途中ではぐれたグレイズの従者の声がした。

「ちっ。仕方ないな」

 グレイズは舌打ちすると靴音を高らかにあげ、身を翻す。

「俺様は王子様だからしょうがない、うん。そうだな。王子様だよな」

 そしてぶつぶつ呟くと、

「アリア」

「はい?」

「次に会ったときは覚悟しておけよ」

「は?」

 クルアが「何を?」と訊く前にグレイズは手を振りながら従者の方へ歩いていった。

 とりあえず。

「私、あの人とまた会わないといけないんですか?」

「「…………」」

 愚問だった。

 その質問の答えはイエスだ。クルアはグレイズ・シード・ベルメイユの接待役で、相手は一国の王子だ。そして、彼の帰国は明後日ほど。

 監視委現実というのは、いついかなる時でも人を襲うものなのだ。

 ひきつった顔のクルア。エルが頑張れ、とでも言うように肩を叩き、リトが背中を叩いた。

「とりあえず仕事しよう」

「そうですね」

「…うん」

 くたびれた背中の三人は平均年齢が十代のそれではなかった。

 俺様って自分で言いました、グレイ。

 黒一は俺様書くのが下手ですが、ガキと思えば書きやすい。

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