1 【挿絵あり】
北海道の南東部に位置する北陵市。近隣町村との合併を繰り返し、いまや北海道有数の都市に成長した。
その北陵市の北部、中心部からバスで三十分ほどの、光陽台と呼ばれる小高い丘の上に北陵高専はある。
正式名称は【国立北陵工業高等専門学校】。
高等専門学校とは、主に中学卒業者を対象とした五年制の教育機関であり、主として工学・技術系の専門教育を行っている。現在北陵高専には、機械システム工学科(M)、電気電子工学科(E)、物質化学科(C)、建築システム工学科(A)の四学科、全二十クラス八百名弱の学生が在籍している。
北陵高専が国立高専の一期校として創設されて早五十年余り。近年では【ロボコン】などでその存在を知られるようになってきたが、【六・三・三・四制】に代表される一般的な公教育機関としてはマイナーなため、未だに社会的認知度は低い。
『高専って何? 専門学校じゃないの? え、短大卒?』
公教育のマイノリティとして、日々このような言葉と戦うのが高専生の日常である。
四月六日。
遅かった春もようやくたどり着き、このあたりでも大方の雪が解けて、地面のアスファルトがその全貌をあらわすようになった。
とはいえ、まだ完全に春と言えるような陽気ではなく、北陵高専に登校してくる学生たちも、朝晩の冷え込む空気に皆分厚いアウターをしっかり着込んでいる。
午前八時二十分、白い息を吐きながら、多くの学生が新学年を始めようと校門をくぐり、玄関に吸い込まれていく。工業高専だけあって、ほとんどが男子学生だ。
鯨井北都もそんな中の一人だった。
十七歳の学生らしく、真っ黒な髪は洗いっぱなしの無造作ショート、身長一八〇センチの細身をフェイクファーのついたダウンブルゾンで包んで、肩には学用品の入ったメッセンジャーバッグをかけている。制服のないこの学校では考える必要のない一番楽なジーンズをはいて、足元は当然スニーカーだ。
少しキツメの涼しげな目元で晴れ渡った青空をねめつけ、北都は学生寮の玄関を出た。寮は学校の敷地内にあるので、校門をくぐることなく玄関に直行できるのだ。
この学校では、一・二年生は全学科とも一般講義棟と呼ばれる建物で授業を受けるが、三年生からはそれぞれ所属する学科の専門棟に教室を移し、そこで卒業までの三年間を過ごす。
この春から三年生の北都も、今日からは所属する電気電子工学科の専門棟に通うことになる。
寮を出て、外柵沿いの埃っぽい道を重い足取りで歩きだした。気分が沈んでいるのは、今朝のテレビで見た星占いが最悪だったからだ。
『十二位はみずがめ座のあなた! 今日はトラブルに巻き込まれやすい一日です。無理に逆らわず、流れに身を任せたほうが懸命かも? ラッキーパーソンは……学校の先生! それでは今日も元気に行ってらっしゃーい!』
いつもは占いなど見ないし、見たくもないのだが、今日はたまたまその時間に食堂にいて、テレビを見てしまったのだ。寮に新入生が入ってきて、タイムスケジュールがいつもと若干狂っていたせいかもしれない。
気にしなければいいのだが、見てしまったものは気になってしまうのが北都の性分。身体がデカイわりに細かいことを気にしてしまう、損な性格なのだ。
ため息を白い息に変えて吐き出すと、後ろから追いついてくる後輩たちがいた。元気のいい、二年生の女子二人組だ。
「鯨井先輩、おはようございまーす!」
「今日も朝からイケメンですねっ!」
二人とも元気たっぷりで、晴天にふさわしい眩しいほどの笑顔だ
「……おはよう」
気だるいながらも心もち口角を上げて、低めのアルトボイスで返す。女子二人は軽く頬を染め、キャッキャと戯れながら北都を追い越していった。
自分が女子に【イケメン】と呼ばれていることは、北都も重々承知している。言われるほど整った顔立ちとは思わないのだが、他人からはそう見えるらしい。他人にとっては褒め言葉なのかもしれないが、今のところ北都にとってこの顔はトラブルの元でしかなかった。
案の定、というか早速、柵の向こう側に他校の制服を着たガラの悪そうな男たちが三人、こちらを見ていることに気づいた。あの制服は同じ光陽台にある私立N高校のものだ。
「てめー……鯨井か」
男の一人が声をかけてきた。坊主でガラの悪い、ゴリラみたいな男だ。N高校は文武両道の有名校であるが、マンモス校らしく玉石混合なのか、こういった手合いの生徒が少なからず存在しているらしい。
嫌な予感はしていた。北都は以前、そこの学生とひと悶着起こしていたからだ。
占いが早速当たっちゃったよ──北都は無視して歩き続けたが、声の主は柵が途切れた通用門から中に入ってきた。
「待てよ!」
「うっせーな。お前らとっとと学校行けよ」
眼光鋭く睨みつけるが、男は北都の腕をガッチリと掴んできた。
「人の女に手ェ出しといて、タダで済むと思ってんのか」
またこれかよ──北都は今日何度目かの深いため息をついた。
やはりこの男はこの間の一件に関わりがあるらしい。
「言いがかりだ。手なんか出してない」
「ふざけんなよ。美華にひどいことしやがって」
進級する前の三月、N高校の女子生徒──美華に突然告白されたのだが、北都はピシャリと断っていたのだ。
この男はその美華の関係者のようだ。さしずめ彼氏といったところだろうか。
男は掴んだ腕を引っ張り、北都を柵の外へ引っ張っていこうとする。さすがに他校の学内は居心地が悪いらしい。
北都はその腕を振り払おうとして──ふと思い直した。今日の占いだ。
『無理に逆らわず、流れに身を任せたほうが懸命かも?』
流れに逆らわずに行けば話が早く済むのかも……そう思ったときには既に柵の外に連れ出されていた。引っ張られるままに柵にその身体を叩き付けられる。
男の北都を睨みつける目は血走っていた。単に彼女を寝取られたというには怒りが尋常ではない。そこまでひどいことをしたとは思わないが……
「美華を……レイプしたんだろ! アイツ、妊娠しちまったんだぞ!」
男の言葉に、北都の頭が一瞬真っ白になった。
「え……なんだって? もう一度……」
「だから、美華が妊娠したんだよ!」
言葉の意味を理解し、今度は怒りがふつふつと沸いてくる。
「はあ? あの女、そんなこと言ってんの?」
あきれ返るが、男は相手が北都だと信じて疑わない。怒りに満ちた目で北都を下から睨み上げる。
「てめー、覚えがないなんて言わせねえぞ」
「覚えなんてあるわけねえだろ。ヤッてねーし」
「じゃあ誰の子どもだっていうんだよ」
「知るかよ。てめーの種じゃねえなら、他の男の種だろ」
どうやらあの女は自分にフラれた腹いせなのか、浮気相手との不始末を自分になすりつける気らしい。とんだ尻軽女である。
「こっちには関係ないから。じゃ」
女のウソに踊らされる男には付き合いきれないとばかりに立ち去ろうとすると。
「逃がすかよ」
男は左手で北都の襟首を掴み上げた。北都よりは背は低いが、このガタイのよさからいって腕力では確実に負ける。やっぱり占いなんて当たらない。さっさと逃げておけばよかった──そう思っても後の祭りである。
できれば殴られたくないが、そんな贅沢が言えるような状況ではなさそうだ。どうしよう──本当のことを言うべきか。
だが男は考える猶予を与えてくれなかった。右手を大きく振りかぶり、怒りを拳にこめて北都の端正な顔に一直線──
「ちょっと待った」
男の右手は、横から伸びてきた別の腕に止められた。
「誰だてめー、離せよ!」
「君、この先のN高の子でしょ? こんなところで暴力沙汰はいけないよ」
柔らかめの低い声が北都のやや上から降ってくる。誰かと思い見上げると……
「……誰?」
北都の知らない男だった。
ゆるいくせ毛の栗色の髪、黒縁眼鏡の奥の瞳はこんな状況でも穏やかに微笑んでいて、ダークグレーのビジネススーツにきっちりネクタイを締めているわりにはひどく幼く見える。だが北都よりもさらに高い長身のおかげか、妙な迫力があった。
「朝からケンカだなんて、何があったの?」
気が抜けるようなおっとりとした物言いだ。
大人に割り込まれて勢いをそがれたからか、N高生の男は手を振りほどき、苦りきった顔で事情を説明し出した。
「こいつが……この鯨井って男が、オレの彼女をレイプして妊娠させたんだよ」
黒縁眼鏡の男は、このセリフを聞いて凍りついた。内容だけ聞けば凶悪な犯罪である。この男も自分を責め、詰るのか──当然の反応かもしれないが、北都には本当に心当たりがないのだ。
だが、眼鏡の男は突然笑い出した。
「君、おかしなこと言うね」
「どこがおかしいって言うんだよ。さっさとコイツを殴らせろよ!」
いきり立つN高生の前にサッと手を出し、動きを止める。
「どう考えたって、ありえないよ」
まさかこいつ──眼鏡の男を見つめる北都の視線も厳しくなる。
「だって」
彼は北都を見つめ、ニッコリ笑った。そしてN高生に向き直り。
「鯨井さんは──女の子だよ」
………………はい?
N高生が口をあんぐりと開けたまま固まっている。
北都もまた息を呑み、見開いた目で眼鏡の男を凝視していた。
「……おいアンタ、ウソつくならもうちょっとマシなウソつけよ」
我を取り戻し、N高生が呆れるように笑う。だが眼鏡の男は至極真面目だ。
「いや、ホントなんだけど。ね、鯨井さん」
笑顔で同意を求められても、北都は驚きで絶句したままだった。初対面のはずのこの男が、なぜ……
「はい、学生証出して」
手を差し出されて、北都は慌てて鞄の中から学生証を出し、N高生に見せた。カード型の学生証には名前、所属、学生番号、生年月日、そして性別がしっかりと記載されている。
鯨井北都、学生番号2X211、平成X年一月X日生、性別……女。
「…………てめー、女かよっ!」
N高生が目を引ん剥いて唾を飛ばした。目の前の北都が女性だとは未だに信じられず、上から下まで視線を何往復もさせている。
いつもの光景、聞き飽きたセリフ──そらそうだ、身長一八〇センチでまな板も真っ青な胸、そして見る人みんなが【イケメン】と評するこの顔じゃ、男だと思うわな。
見た目だけでは女だとは信じてもらえず、こうやって公的書類を見せなければならないのが煩わしいから、北都はいつもカンちがいを訂正しないのだ。だがそれは時にこういったトラブルに発展することもある。今回は完全に北都の判断ミスだった。
「わかったでしょ。はい、解散。君たちもちゃんと学校行くんだよ」
眼鏡の男は手を叩いてN高生たちを追いやった。
「お、おい……じゃあ美華は」
追いやられながらもN高生の男は振り返った。彼女から聞いていた話がウソだとわかり、何が真実なのかわからなくなっているようだ。妊娠ですらウソかもしれない。ある意味、この男も被害者だろう。
くたびれて、北都は身もフタもない言い方になってしまった。
「単なるビッチだろ。あとはそっちで勝手にやってくれよ。あたしには関係ない」
「てめー、その顔で『あたし』とか言うなぁ!」
「あぁん、やんのかゴルァ? てめーこそゴリラのくせして彼女なんか作るからこういうことになるんだよ! さっさと巣に帰りやがれこのクソゴリラ!」
眼鏡の男が止めてくれなかったら、またこちらからケンカを売るところだった。
ようやく開放され、踵を返して学校内に戻ると、眼鏡の男が横に並んできた。構内に入ってきたということは、学校の関係者らしい。
格好からして社会人、OBか職員だろうか。いや、この若さは専攻科──高専に併設された、本科五年を修了した者を対象とした二年制の上級教育課程──の学生かもしれない。
だがこの男は……初対面であるはずの自分が女であることを知っていた。
「あの……どちらさまですか」
北都は警戒感を露にして聞いた。怪しい人物だが、年上には自然と敬語を使ってしまう。
「僕? 僕は……」
眼鏡の男は答えかけて、腕の時計を見た。
「それよりもまず教室に行こうか。五嶋先生が待ってる」
思わぬ名前が出てきて、北都はまた驚いた。
気がつけば時刻は八時三十五分。朝のHRがとっくに始まっている時間だった。
電気電子工学科の専門棟、通称電気棟は三階建て。ここには実験室、電算室、それに教員の個室である教官室があり、三階に三年生から五年生の教室がある。
その中の一つ、電気電子工学科三年、通称三年電気の教室は騒然としていた。
学生の一人、鯨井北都が朝から他校生に絡まれて遅れてきたこともその一因だったが、何よりも机に座る三十名の学生たちを驚かせていたのは、教室に入ってきた新しい担任だった。
「全員そろったところでHR始めるぞー」
そう言って教壇に立った男、五嶋紘行准教授。
たしか四十代半ば、いつもだらしない格好でとぼけた風貌のヘンな先生と評判の男だ。今日もこれから入学式があるというのに、よれよれのワイシャツに締まってるんだか締まってないんだかわからないネクタイをぶら下げて、足元は素足にサンダルだ。
「進藤先生じゃなかったの?」
「オレもそう思ってたけど……」
「よりによってなんで五嶋先生が……」
ひどく困惑している学生らを教壇の上から見回し、五嶋はニヤリと笑った。
「予想を裏切ってすまんな。これから三年、このクラスを受け持つことになった五嶋だ。二年生の実験のときに顔合わせてるはずだから知ってるよな」
この学校では、一・二年では一般科目の教授陣が、三年生以上は各科専門の教授陣がそれぞれ担任を持つ。基本的に担任を受け持つ教授・准教授はローテーションが組まれており、その順番どおりに回ってくることになっているはずだったのだが……この年に予定されていた進藤教授ではなく、五嶋准教授がやってきたことに皆驚きを隠せないでいるのだ。
そしてもう一人──五嶋の横には若い男が立っている。北都を助けたあの黒縁眼鏡の男だ。五嶋とは対照的に頭のてっぺんから革靴を履いたつま先までキレイに整えられた彼は、学生たちのいぶかしむ視線を一身に浴びつつも、それでもまだニコニコと微笑み続けていた。
「はい、自己紹介して」
五嶋が促すと、眼鏡の男は一歩前に出た。
「今年から電気電子工学科の助教になりました、諏訪要です。このクラスの副担任を務めます。よろしくおねがいします」
学生が相手でも物腰が柔らかだ。
なるほど……先生か。たしかにラッキーパーソン……かも。
どうりで北都の性別を知っているはずだ。副担任なら、受け持つ学生の身上書を事前にチェックすることもできただろう。しかも新任、顔を知らなくて当然だ。
しかしこの諏訪という男、助教ということは博士課程は出ているはずなので、少なく見積もって二十代後半。顔を見る限りはその辺の学生といったほうがしっくりくる。眼鏡があっても恐ろしいまでの童顔だ。
その諏訪はプリントの束を配り始めた。
「前期の時間割、シラバス、その他もろもろの予定表とか案内は、各自でプリント確認しておけよ。言っても守んないヤツいると思うけど、書類の提出期限は守るように。それで履修できなくてもオレは知らないよ」
ウワサに違わないテキトーぶり。五嶋という教師のダメっぷりがよくわかるセリフだ。
「入学式は十時からだから、椅子持って第二体育館に集合。終了後は各自解散。本格的な授業はあさってからなんで、ちゃんと準備しておくこと。んじゃ、今日は以上」
五嶋は開いていたファイルをパタリと閉じた。どうやらHRはもう終わりのようである。
入学式まで一時間はある。寮に戻って、一休みするか──北都が腰を浮かせ始めたその時。
教室を出て行こうと横を向いた五嶋が、はたと足を止めた。
「あ、そうそう。級長なんだけど」
思い出したように皆に向き直る。そういえば年度初めは級長を決めるものだ。今時【級長】だなんて古臭い言い方もどうかと思うが、昔からの伝統なのか変わる様子はない。
「また火狩でいんじゃね?」
誰かの言葉に、皆の視線が一人の学生に集まった。
少し長めの前髪の奥で、細い目が鋭利に光る。見るからに優等生といった雰囲気を醸し出す男子学生・火狩蓮は不満そうに鼻を鳴らしたが、これといって異議は唱えなかった。これまでの二年間、ブッチギリで成績首位を独走してきた彼が級長も勤めていたので、周囲もそして本人も、このまま留任という形でいいだろうと考えているのだ。無論、選挙など一度もやったことがない。
「鯨井」
突然五嶋に名前を呼ばれて、頬杖をついていた北都は飛び上がらんばかりに驚いた。
「はい?」
マヌケな声で返事をすると、腕を組んだ五嶋の悪戯っぽい視線とぶつかった。
「お前がやれ」
一瞬、何のことを言われているのかわからなかった。
「……何を?」
「だから級長。今日からお前がこのクラスの級長」
北都は一呼吸置いて、疑問と不満と非難がごちゃ混ぜになった声を上げた。
「はああああああああああああ?」
これには北都だけでなく、クラス全員がざわめいた。誰もやりたがらないと言うのならともかく、暗黙の了解で決まりかけていたのをひっくり返し、しかも担任自ら級長を指名するなんて聞いたことがない。
「先生、納得できません」
全員の疑問と不満を代弁するかのように声を上げたのは火狩だった。
彼は立ち上がり、五嶋を真っ直ぐに見つめた。ともすれば睨みつけていたのかもしれない。
いいぞ火狩、もっと言ってやれ──北都は内心で応援する。
「学業のことならともかく、級長の決定というクラス内の自治に関して先生に口を出される謂れはないと思うんですが。小学生じゃないんですから」
「自治ねぇ……」
五嶋は意味ありげに呟き、無精ひげでざらつく顎を撫でた。
「火狩……お前、そんなに級長やりたいの?」
そう返されて、火狩は目をしばたかせた。たとえ本心ではそうだったとしても、正直に言えるわけがないだろうに。
「いえ……そういうわけでは……」
「じゃ、お前、副級長ね」
再び絶句。この有無を言わさぬ傍若無人な所業。
副級長まで勝手に決められるとは……指名された火狩は茫然自失で立ち尽くしている。
「んじゃまた明日―。あ、鯨井。オレの部屋まで来てね」
五嶋は呆然となる学生たちを置き去りにして、さっさと教室を出て行った。諏訪は苦笑気味にその後をついていく。
それを見送って、学生たちはふと我に返った。
「……なんなんだ、あれ」
「さあ……」
「……ってか、なんで鯨井?」
クラスメイトたちの疑問に、北都が答えられるはずもない。
「知るかよっ!」
北都は勢いよく立ち上がった。さっきは五嶋のペースにはまって何も言い返せなかったが、こんなこと勝手に決められていいわけがない。
今日は朝から占いを見てしまうわトラブルに巻き込まれてしまうわで、相当に苛立っていたところにこの仕打ちだ。その占いも当たってるんだか当たってないんだかで、非常に腹立たしい。何がラッキーパーソンだ。
「……もう一回抗議してくる!」
カバンを引っつかむと、北都は教室を飛び出して行った。