Parallel トリュフ 溢れた想いの固め方 改訂版
以前、書いたバレンタイン狂想曲から改稿しました。
智と智子が同級生という設定になっております。
「おはよう。どこに行こうか」
「今日は図書館でレポートと他の宿題を全部終わらせるつもりだけど」
私が彼にそう言うと、彼は苦虫を潰した様な顔をする。
「…分かったよ」
「今日じゃなければいつに課題をやるつもりだったの?」
「木曜と金曜に学校に行くから。その時にしようかと思ってた」
「それは試験監督のサポートでしょ。宿題やってる暇なんてはないよ」
「それって、本当かよ?ちいはどこにいるんだ?」
「だって、先月の中学の試験サポートの時は無理だったよ。私は父兄の控室で、
お茶出しの接待。とも君は?」
「俺は受付で受験票の再発行の手伝いだって。昇降口でそれやるか?」
「寒いものね。終わったら控室おいでよ。お茶入れてあげるから」
「なんで俺達が生徒会役員なんだよ?」
「それは前会長がとも君の兄だからでしょ?うちは選挙ないんだから」
彼はがっくりと頭を下げた。自分の兄の策略に乗ってしまったんだから
いい加減に諦めようよ。この現状を楽しもうよ。人間諦めが肝心だと思うよ。
「でも…なお君は推薦で入れたんだもの。私達だってあるかもね」
「そっか。じゃあ、割り切るとしますか、会計さん」
私達は家の近くの図書館に向かって歩き出した。私の家からは5分位かかる。
「で、今回の宿題って…なんだったっけ?」
「やだ…把握してないの?これだよ」
私は自分でまとめた一覧表を見せる。ほぼ全教科から出ている。
「どうしよう…」
彼の顔が心なしか青ざめてる気がする。でも現実に気がつくの遅すぎる。
「えっと、古文は金曜日に出ていたから、週末頑張れば終わったと思うけど」
「ちい、助けて。マジ今回ピンチかも」
「言うと思った。でも、数学が壊滅的な私には教えてよね?」
「数学と化学は任せろよ。ちいは来年は文系に進むんだろう?」
「うん、その予定だけどね。国立考えてるから数学と生物は残すよ」
「そうなると、バイオの夢はどうするんだ?」
「現実を見ることにしたの。早く自立したくって」
「それでいいのか?」
とも君は、不安そうに私を見ていた。折しも今は好景気。その間に就職したい。
「部活の皆と離れるのか?」
彼は私が引っ掛かってる所に気がついたみたいだ。
「ちょっと…ね。大丈夫。もう平気だから。私一人じゃないもの」
「そうだな。レポート始めるか」
ようやく私達は課題を消化することにした。
「なんとか終わったな」
「うん、後はコピーとって互いに移せば…ね」
午後1時。勢いで終わらせたせいか、今になって空腹であることに気がつく。
「お昼どうする?」
「コンビニで買って、公園で食べるか?天気いいから」
「それもいいね。それじゃあ行こうか」
図書館の隣には緑地公園があって、ちょっとしたサーキットトレーニングができる。
バスケ部な彼はトレーニングしたいのかなって思う。
良かった…念の為と思ってあれを持ってきておいて。多分後で使えるね。
こっそりと用意しておいた、バレンタインとプレゼントが無駄にならなくて済みそうだ。
私はとも君の事が好きだ。好きだけども…その思いは知られてはいけない。
あれから2年経つのに、まだ完全に立ち直れない自分がいる。
そんなことを彼に悟られたくないし、知られたくもなくて、必死に強がる。
「俺、サーキットトレーニングしてもいい?」
「どうぞ、言うと思ってた。使うでしょ?タオル?」
私はプレゼントのフェイスタオルを手渡す。
「えっ?なんで?」
「今日はバレンタインでしょ?クリスマスにマフラーだったからタオルにしたんだけど…」
「本当に気がきくなぁ。で…チョコは?」
「ちゃんと用意してますよ。どうせ木曜日に貰うのに…」
「あのね、本命じゃなくても当日貰うのが嬉しいの。今年も作ったの?」
「うん、ちょっとだけね。練習してきなよ」
「おう、行ってくる」
彼がトレーニングしている姿をのんびりと眺める。
片思いだけど…私は今のままでいいと思ってる。誰よりも近くで彼の事を見てられるから。
何よりも、私が誰に恋しているか悟られたく相手がいるから。
一人でいるときだけ、鍵をかけた箱の鍵を開けて思いを解放する。
それだけで…それだけでも…幸せ。
部活が休みになった時に、一緒に遊びに行ったりできるだけでも十分な位贅沢だから。
バレンタインの今日だって、私が彼を一人占めしている。
彼に片思いしている女の子が多い中、この距離にいられることに優越感に少しだけ
浸りたい。それはわがままなんだろうか?
「待たせたか?」
「そんなことないよ。はい、コーヒー」
待っている間に買っておいた缶コーヒーを手渡す。
早速渡したタオルを使って彼は汗を拭っている。やっぱり用意して良かった。
「はいっ」
彼が手を差し出す。チョコの催促なんだろうな。これも私だけの特権。
最初にこれをされた時は、単なる同級生の行動だったのに…
今では、この動作を待っている自分がいる。
「はい、どうぞ」
私はシンプルに包装した箱を手渡す。きちんと丸く出来上がったトリュフ。
意外に、難しいんだよ。彼は知らないんだろうな…。
ただ、このチョコの中に私の溢れた想いがたっぷり込められてるのは知らない。
「わぉ、トリュフだ。食ってもいい?」
「いいわよ」
彼は早速、トリュフを摘まんで食べ始めた。
「旨いよ。アルコール入ってる?」
「少しだけだけども、気にする量はないわよ」
「そっか、こないだ高いトリュフ食べたんだけど…アルコールがかなり入ってたから」
「それはブランドもののチョコじゃない。贅沢だなぁ」
あっという間に、箱の中は空になってしまった。ゴミは持って帰るか。
「俺、紙袋ごと貰うから。食っちまったけど…貰った証拠品だものな」
「証拠品って言い方はないなぁ」
陽も徐々に傾いてきている。少しだけ風が強く吹いてきた。
「くしゅん」
「寒いか?」
「大丈夫だよ」
「でも…帰ろうか。木曜日いないと俺が殺されそうだ」
「そうかもね、ねぇ?知ってる?チョコって昔は媚薬だったんだって」
「媚薬と言うか、万能薬じゃねぇの?」
彼のいう意味が分からなくて首をかしげてしまう。
「だって、チョコ食べたら…大抵笑顔になるだろう?」
…それは言えてるかも。甘いものは苦手な彼も私のチョコは笑って食べてくれた。
「そうだね。万能薬かもね。でも…媚薬だったらどうする?」
ちょっとだけ自分の本音を添えて彼に問いかけてみる。今日位はいいかな。
「好きな人なら嬉しいな。ところで、ちいは好きな奴はいないのか?」
「いない訳ないでしょ。なんで今聞くの?」
「普通なら、今日はデートだろ?」
「それは、私の場合は片思いだから。告白する気は今はないんだ」
「なんで?俺なら俺に脈があるのなら告白するな」
「ちょっと…自信がないの。…前みたくなったら…もう耐えられないから」
「まだ…あの時のこと忘れられないのか?」
彼は私の前の恋を知っている。どう終わったのかも。私が苦しんだもの。
「彼のことがじゃなくて…私が前に進めないの。前みたくなりたくないから」
私は俯いた。そう、別れた恋人と彼は同じ人じゃない。けど、同じ過ちは繰り返したくない。
「でも…辛くないのか?」
「幸せだよ。そばで彼の事を見ているだけで。それだけで…」
「そのうち…そいつの事教えてくれよ。応援するからさ」
ズキンと胸が痛む。私が好きなのは私の前にいるあなた…。応援してくれなくていい。
「うん…ありがとうね。やっぱり帰ろう」
私達は荷物をまとめて立ち上がる。立つときに手が触れ合う。
「冷たいなぁ。冷たいと心が暖かいんだよな。ちいらいしいや」
そう言うと、彼は私の手を繋いだ。
「えっ、どうして?」
「暖かいだろ。俺はちょっと熱いからおすそ分け」
彼の顔を見上げると、頬を赤くしてる。照れてるのに、そうしてくれるのが嬉しい。
「じゃあ、少しだけ分けてもらおうかな」
私達はゆっくりと歩き出した。
I always love you. もう少しだけ…今のままでいたいの。
本編と同じ方向性に合わせるために、理系志望から文系志望に変更しました。
でも…パラレルで時間としては二人が高校2年生のバレンタインです。
原作がどう展開するのかはその時までお待ちください。