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If Story 勇気があったなら…

本編を先行しております。本編ではほとんど触れずに終わってしまいそうな

創のほのかな初恋からのIf~になります。

「大田創君」

「はい」

今日は僕の小学校の入学式。春休みに引っ越してきた僕はクラスの友達の

顔を見るのは初めてだ。

「佐倉倫子さん」

「はい」

今度は僕の隣の女の子が呼ばれた。女の子と目が合う。

戸惑っている僕にその子はにっこりと笑いかけてくれてからこう言った。

「はじめまして、よろしくね。創君」

引っ越した先は前に住んでいた町よりはちょっとだけ田舎で、同年代の子供たちの

言葉使いが少し悪くて、コミュニケーションが取れなかった僕。

今まで町でよく聞いていたような言葉使いをするこの子と仲良くなるのは

当然だったかもしれない。

教室から見える中庭からは彼女の名字と同じ桜の木が満開だった。

花が綺麗だと思ったのはその時が最初かもしれない。



それから3年がたった。3年生のクラス替えでも彼女とは同じクラスだった。

3年の間で僕らの関係もかなり変わった。彼女は学年の皆から『ちい』と呼ばれた。

僕は皆には『大田』と呼ばれるが、彼女だけは『創君』と読んでいた。

その呼び方はぼくには少しだけくすぐったい。

「ちい、僕を名前で呼ぶの止めてくれない?」

「うーん、創君は創君なんだよ。大田君って呼ぶの…なんか変」

彼女は屈託のない笑顔で僕に答える。

「今日…遊ぼう?」

「土曜日だね…プールがあるから4時に家に戻れればいいよ」

「じゃあ、児童館の遊戯室に行く?」

「うん、お昼食べたら児童館ね」

こんな約束をたまにして、二人ってことはないけれども遊ぶことはあった。



「ちいちゃんにおやつ持って行ってあげて」

「どうして?お母さん?」

「4時に家に戻るってことはすぐにプールに行くんじゃないかな?」

お母さんが僕に言う。彼女は幼稚園に入る直前からスイミングに通っている。

今は選手コースにいるというから、相当頑張ったんだと僕は思っている。

彼女自身は、『続けるのに、居場所が選手しかもうないんだ』なんて

謙遜していたりする。そこまでできると自慢するのに、そんな事を一切しない

彼女が凄いなって思う。それに先生よりも教えるのが上手なんだ。

「ちいちゃんのお家はお母さんもお父さんもいないの」

「いつも学校に来るのは?」

「おばあちゃんよ。ちいちゃんが小学校に入る前に交通事故にあって

ちいちゃんは怪我らしい怪我はなかったけど、代わりにお父さんは死んだそうよ」

僕は初めて知ったそのことに凄くショックを受けた。

「お母さんは?」

「一年生の夏休みに事故の後、一度も意識が戻らなかったらしいわ」

そんなに辛い状況なのに、どうして彼女はあんなに明るいんだろう?



「ここからは、創だから言うからね。ちいちゃんにも言わないでね」

「うん」

お母さんが、真剣な目で僕を見ていた。今から聞くことは子供だったら…

多分聞いてはいけないことなのかもしれない。

「ちいちゃんの家には叔父さん達が住んでいるけど…そんなに仲がいい訳じゃないの。

だから、学校行事にはおばあちゃんが来るの。おばあちゃんも畑や田んぼがあるしね」

「だから、練習前におやつを食べないで行く時があるみたいなの」

「練習って何時までやるの?」

「だいたい8時までって聞いたけど。お家に帰ると9時になるんだと思うよ」

9時…ね。僕はその時間には寝ているなぁ。やっぱりちいちゃんは偉いなと感心する。



「ちいちゃんにとって、プールって何?」

「創君は難しいことを聞いてくるね。何かあったの?」

「一度聞いてみたかったんだ」

「そうだね、私の居場所の一つ…かな」

「お家は?違うの?」

「家は、寝る場所かな。後は宿題やったりする程度。ほとんどいないから」

「学校の帰りは?」

「おばあちゃんの家」

「辛くない?」

僕は聞いていいのか分からないけど、自然と聞いていた。

多分、僕がちいちゃんだったら…耐えられないだろうから。

「どんなに辛くてもね…受け入れないといけないから。私が欲しいものはもう…

手にすることは絶対出来ないの」

ちいちゃんの答えに俺はハッとした。ちいちゃんが欲しいもの…亡くなった両親だ。

「ごめん。僕…」

「大丈夫だよ。心配してくれてるの分かるもの。でも…私には皆がいるから」

「皆?」

「うん、心配してる皆。ひでくんもいるから」

「ひでくん?」

「うん。プールで一緒なんだ」

彼女はそう言った後、一緒に遊んでいた知恵の輪を再びカチカチといじり始めた。

ひでくん…誰だ?それ?始めて聞く名前に俺は胸がチクリとした。

プールの世界は僕は知らない。今、プールを始めても彼女と同じ練習がすぐに

出来るとは思わなかった。



ずっと僕が好きだと思っていた。それは僕だけが勝手に思っていたらしい。

「もしも…僕がちいちゃんを好きって言ったらどうする?」

「そうね。ありがとね。創君」

彼女はにっこりと笑って答える。そうだ。僕はこの笑顔が好きなんだ。

「覚えていてね。僕はちいちゃんが好きなんだよ」

「うっ、うん。分かった」

彼女はそう答えると俯いてしまった。

今は、ひでくんという奴が俺よりも近い距離にいるかもしれないけど、

一緒にいる時間は僕の方が多いんだから僕にだって有利な事もあると思う。

俺はどこにいるのか分からないその敵に向かって銃を構える真似をした。

「いつかは…追い越すから…待ってろよ」

僕はそう呟いた。




あくまでもIfですので、あしからず。本編ですっ飛ばしそうなので

掲載しました。

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